ショートショートのお茶漬け

rara33

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第10話 顔面サッカー

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橋本「さあ、まもなくゲームが始まります、第3回全国高校顔面サッカー大会。
顔面サッカーとは通常のサッカーと違い、サッカーボールの扱いは全て顔面、つまり顔の『おもて』のみで行わなければなりません。
足で蹴ることは勿論、頭を使ったヘディングや太ももによるリフティング等も一切認められません。
ちなみに顔と頭の境界線が分からない若ハゲの選手については、毛根の跡がうっすらとでも見られる範囲から頭部とみなされます。

さて、本日の試合は私立厚顔学園VS私立鉄面学園です!
どちらも強豪校であり交流試合も多数行ってきたということで、お互いの手の内、いや顔の内を知り尽くしたこの二校、
屈強な選手たちは、今日どのようなプレーを見せてくれるのでしょうか。

本日の解説はわたくし橋本と、顔面サッカー大会関係者の大林晃さんです。
大林さん今日はよろしくお願いいたします」

大林「よろしくお願いします」

橋本「さあ、鉄面学園 イリオモテ選手の顔面キックオフで前半が始まりました!
おっと!早速鼻を強打した模様!ボールに早くも鼻血がべっとりとコレは痛そうだ!
イリオモテ鼻をおさえながらボールを追いかける!
血まみれのボールが厚顔の選手へ飛んだ!」

大林「普段の練習でいかに鼻を鍛えているかが試合に直結しますね」
橋本「おっと厚顔も打ち返しました!早くも二人の選手の顔から鼻血が止まりません!阿鼻叫喚あびきょうかんの形相です!

ここで、鉄面 吉村が行ったァ!顔から一気に突っ込んだァ!
   
おっと、厚顔 玄田が横から突っ込んだァ!吉村の頬へと突っ込んだァ!

玄田のくちびるが吉村の頬にダイレクトォ!」

審判の笛「ピッピー!」

橋本「あー!!これはキスの判定が出てしまいましたァ!玄田選手退場!選手交代となります」
大林「玄田は交流試合でも吉村へのキス判定が出ていましたね」
橋本「ちょっと狙っているのかもしれません。よくあることです。

さあ、鉄面 壁山選手がパスを受けフォワードへ流した!
フォワードが踏み込んでキャッチ!長い鼻の下で上手く受けました!」

審判の笛「ピッピー!」

橋本「おっと、審判のビデオ判定が始まりました!
壁山選手の顔ではなく歯に当たったのではないかと審議されています。
これはトゥース?ティース?トゥース?
どちらが複数形かわたくしもネットで確認中です」


審判の笛「ピッピー!」


審判「出っ歯!退場!」

橋本「まさかの出っ歯判定!これは痛い!」
大林「試合までに矯正で治しておくべきでしたね」

橋本「さあ、先の読めない展開になってきました。
厚顔 真平選手と、鉄面 ゴールキーパー箱根選手の直接PK対決!
ゴールキーパーといえども、手足を使うことは一切認められません。
箱根は正面から迫りくるボールの痛みに耐えるため、この春休みに鼻骨の摘出手術を受けたとのことです」
大林「まさに骨太魂ですね」

橋本「対する真平選手の特徴は、どんな角度でもキャッチできる典型的な『平たい顔族』!
小学校の頃のあだ名は『のっぺらぼう』だったそうです」
大林「顔面サッカーがあって良かったですね」

橋本「PK一回目、真平が打ったァ!
顔に渾身の力を込めて真っ直ぐに打ったァ!

箱根選手マトモに顔で受けたァ!仁王立ちで受けたァ!」

大林「大丈夫ですか?生きてますか?」
橋本「箱根選手、白目をむいて倒れましたァ!

おそらく頬骨も前歯もひどい有様とは思いますが、
明日にはきっと元気に登校してくれるでしょう!」


大林「あ、橋本さん、呼ばれてますよ」
橋本「え?」


監督「おい、橋本。実況ごっこは終わりだ。
   箱根の代わりに入れ。」
橋本「……とうとう出番か~」
監督「いいから早くしろ!鉄面学園の勝利を逃すな!」
橋本「お任せを!はがねにも負けない顔面強度を見せつけてやるわ!」

 
背中に「鉄面学園女子高等部」と書かれたユニフォームを着ると、
橋本カンナは鬼の顔でベンチから立ち上がった。

(了)

◎登場人物は実在する人物とはまったく関係ありません。
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