ショートショートのお茶漬け

rara33

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第8話 嘘じゃないよ

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※プチホラーです。苦手な方はご閲覧にご注意ください。


「ねえ、ママ。あめだまが食べたい。今日の分ちょうだい」

 5歳の娘が、台所にいる私の近くに来て小さな両手を差し出した。

「あら、なあにそれ? 」

 娘の顔を見て私は眉をひそめた。

 その片方の頬が、いびつにプクッとふくらんでいるのだ。

「もう、また勝手にアメとって食べたんでしょ!」
「食べてないよー。ホントだって!」

 娘は口をもごもごさせて両手と首を横に振ったが、何か食べているのは一目瞭然りょうぜんだった。
 なんでいつも夕飯を作っている最中に、この子は割って入るのだろう。

 夫の帰宅時間が、刻一刻と迫っているというのに。

 そばで沸騰ふっとうし始めた鍋のフタのように、私の口もプルプルと震え始めた。

「ダメでしょ! また嘘ついて!」
 苛立いらだちが募って口を開くと、自分でも思った以上に甲高い声が出た。

「いい加減にしないと、ママ怒るよ!」
「嘘じゃないもん! 食べてないもん!」
 それでも娘はかたくなに首を振り、再び両手を差し出してくる。
 私は呆れて鼻をフンと鳴らした。

「じゃあ、頬っぺたのコレは何なのよ?」
 娘の丸くふくらんだ頬を指で突っつくと、私はからかうように言った。

 すると娘はニヤッと笑った。

「ああ、これ?

これはね、あめだまじゃないよ、ホラぁ!」


 娘がカパッと口を開けると、中から大きな舌が二枚べろりと出て垂れ下がった。

(了)

◎「二枚舌」だけど、嘘つきではありません。
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