5 / 24
第5話 意外な肩書き
しおりを挟む
「私、実は『縁結び屋』なんだよね」
仕事帰りに職場の同僚と居酒屋で飲んでいると、彼女がおもむろに切り出した。
「縁結び屋?」
「依頼を受けて、片思いとか復縁とか叶えてあげるの」
「ちゃんとした仕事なの?」
私が問うと、同僚は手作りの名刺を鞄から取り出して、カウンターの上に置いた。
肩書きには確かに「縁結び屋」と書いてあった。
「意外だね。でも儲かってるの?」
「ううん。だって、まだ始めたばかりだし」
同僚はごまかすように、名刺をつまんで小さく振った。
「出会いが欲しかったら言ってね。女の子同士、特別割引してあげる!」
「うん、ありがと」
同僚から差し出された名刺を、私は大人しく受け取った。
「いらっしゃいませ~。お一人様ですか?」
「は、はい。あの、カウンターがいいんですけど」
店員と男性のやりとりが聞こえたあと、同僚の近くにその男性が座った。
「あれ? もしかして、この間の!」
男性は同僚の顔を見るなり、爽やかな風貌で笑いかけた。
「あ~、あの時の! 偶然ですね!」
同僚は一瞬驚いたが、すぐに綺麗な笑顔で会釈をした。
「まさかまたお会いするとは! このお店、僕の行きつけなんです」
「そうなんですか! 初めて来たんですけど、いいお店ですよね!」
二人が盛り上がるのを、私は横目で見ながらお手洗いに立った。
『ご依頼の縁結びサービスは以上になります。
報酬は指定の振込先までお願いいたします。』
トイレでSNSにメッセージを打つと、私は急用があると同僚に告げて外に出た。
彼女の隣ですっかり打ち解けた男性が、私に何度も頭を下げた。
私は首をすくめて、ダウンジャケットの襟を風よけにした。
まだ肌寒いけど、春はもうすぐだ。
実力を示せれば、肩書きなんて必要ない。
本日の勝利の美酒代わりにと、私は自動販売機で月桂冠マークの日本酒を買った。
(了)
◎お読みくださり、誠にありがとうございます。
私に肩書きはありませんが、精一杯頑張りたいと思います。
仕事帰りに職場の同僚と居酒屋で飲んでいると、彼女がおもむろに切り出した。
「縁結び屋?」
「依頼を受けて、片思いとか復縁とか叶えてあげるの」
「ちゃんとした仕事なの?」
私が問うと、同僚は手作りの名刺を鞄から取り出して、カウンターの上に置いた。
肩書きには確かに「縁結び屋」と書いてあった。
「意外だね。でも儲かってるの?」
「ううん。だって、まだ始めたばかりだし」
同僚はごまかすように、名刺をつまんで小さく振った。
「出会いが欲しかったら言ってね。女の子同士、特別割引してあげる!」
「うん、ありがと」
同僚から差し出された名刺を、私は大人しく受け取った。
「いらっしゃいませ~。お一人様ですか?」
「は、はい。あの、カウンターがいいんですけど」
店員と男性のやりとりが聞こえたあと、同僚の近くにその男性が座った。
「あれ? もしかして、この間の!」
男性は同僚の顔を見るなり、爽やかな風貌で笑いかけた。
「あ~、あの時の! 偶然ですね!」
同僚は一瞬驚いたが、すぐに綺麗な笑顔で会釈をした。
「まさかまたお会いするとは! このお店、僕の行きつけなんです」
「そうなんですか! 初めて来たんですけど、いいお店ですよね!」
二人が盛り上がるのを、私は横目で見ながらお手洗いに立った。
『ご依頼の縁結びサービスは以上になります。
報酬は指定の振込先までお願いいたします。』
トイレでSNSにメッセージを打つと、私は急用があると同僚に告げて外に出た。
彼女の隣ですっかり打ち解けた男性が、私に何度も頭を下げた。
私は首をすくめて、ダウンジャケットの襟を風よけにした。
まだ肌寒いけど、春はもうすぐだ。
実力を示せれば、肩書きなんて必要ない。
本日の勝利の美酒代わりにと、私は自動販売機で月桂冠マークの日本酒を買った。
(了)
◎お読みくださり、誠にありがとうございます。
私に肩書きはありませんが、精一杯頑張りたいと思います。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる