ショートショートのお茶漬け

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第4話 金の銃 銀の銃

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 一人の中年ガンマンが、森をさまよっていた。

 高額賞金のお尋ね者を追いかけているうちに、森の奥深くに入り込んでしまったのだ。

「ここはどこだ? ああ、水飲みてぇ」

 ガンマンがあたりを見回すと、運良くそばに泉があった。
 泉に駆け寄ったガンマンは、身を乗り出して一心不乱に水を飲み始めた。

 前のめりになった拍子に、彼のジャケットの内側から一丁の拳銃が泉にこぼれ落ちた。

「しまった!」

 ガンマンは慌てて泉に手を突っ込んだが、拳銃はあっという間に泉の底に沈んでいった。

「くそっ! 俺の戦利品が!」

 ガンマンが舌打ちして口惜しがっていると、とつぜん泉の水面に無数の泡がブクブクと湧き始めた。
 やがて泡で盛り上がった泉の中から、一人の女が姿を現した。

 驚いて呆然とするガンマン。
 泉から出てきた女は、水面の上で浮くように静止した。
 女の顔は美しいが、若さの盛りを過ぎた妙齢の容姿をしていた。

「私はこの泉の女神だ。
先ほど落ちてきた銃は、お前が落としたのか?」

 女神の問いかけにガンマンは答えた。

「あ、ああ、俺のもんだ。
あんた、拾ってきてくれたのか?」

 女神は両手を広げてガンマンに見せた。

「お前が落としたのは、この金の銃か?
それとも、この銀の銃か?」

 女神の右手には金色に輝くゴールドの拳銃が、
 そして左手には銀色に煌めくシルバーの拳銃が握られていた。

 ガンマンは一瞥いちべつすると、すぐに首を横に振った。

「俺の銃はどっちでもねぇよ。鉄でできた銃だ」
「どんな種類の銃だ?」
「リボルバーのコルトM1848だ。
スライドの側面には、R1024って刻印が彫ってある」

 すると女神は、背中からもう一丁の拳銃を取り出して見せた。
 それは、ガンマンの言った銃の特徴すべてに当てはまるものだった。

「ではこの銃か?」
「そうそれだ! ありがとよ」

 ガンマンは手を伸ばしたが、女神は銃を渡そうとしなかった。

「この銃は、元からお前のものだったのか?」

「いや、これは一週間前に決闘相手から奪ったやつだ。
まだ二十歳そこそこのガキのくせに、俺に決闘を申し込んできた命知らずでな。
女たちが黄色い声で叫ぶのも気に食わねぇから、どてっぱらに死ぬまで何発も風穴かざあなを開けてやったぜ」

 ガンマンが得意げに話している間に、女神は顔面蒼白そうはくになった。
 女神は鋭い眼光でガンマンをにらみつけると、口を開いた。

「この銃に刻まれたRはロバートのRだ。
赤子のとき森に捨てられていたのを私が拾い、名付けて育て上げたロバートの銃だ。
銃の扱いも私が一から教え、拾った日から20年が経った日にこの銃を贈ったのだ。
私を母のように慕ってくれた、我が子同然の存在だった。

それをお前はよくも」

 パアーン

 一発の銃声が宙を走った。

「いってえ!」

 腰のホルスターに手を伸ばしかけたガンマンは、右手を押さえてうずくまった。
 女神が動きを察知して、金の拳銃の引き金を素早く引いたのだ。
 まさに目にも止まらぬ早業だった。

「お前はなんと馬鹿正直な男だろう。
余計なことをペラペラと喋りおって。
命知らずなのはお前の方だ」

 女神はガンマンの胴体へと、金の拳銃の砲口を向けた。

「ロバートを無残に殺した報いを受けるがいい。
三丁の拳銃すべてをお見舞いしてやろう」


 森の奥深くで、何発もの鋭い銃声と男の悲鳴が大きく響いた。

(了)

◎沈黙は金、雄弁はGUN。

お読みくださり、誠にありがとうございます。
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