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3章 高校編
39話
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「ルールを決める」
今俺たち2人は互いに正座をして話し合いの場についていた。話し合いの議題というのは今後ここで暮らしていくためのルールだ。
それと今後の方針についても話し合わなければならない。俺にとってのこいつの利用価値は血液をサンプルとして検査してもらう事で俺の身体について情報を得る事。
そしてもう一つがこの女の喪失した記憶を取り戻す為の協力をする事。この女は今までどうやって過ごしてきたのか、何があって特殊体となってしまったのか……それを探る必要がある。
その後は人間の生存拠点に預ける。俺が今考えている事はこれだ。
「ルールを決めるその前にひとついいですか?」
「ん?」
女は何か言いたい事があるような表情をしていた。
「何だ?」
「えっと……隣の部屋とかって空いていないんでしょうか?」
「隣の部屋……?」
隣の部屋だったら確かゾンビは居たはずだが現在はベランダに居るはずだ。そいつをベランダから突き落とせば隣の部屋は晴れて無人の部屋だ。
「空いてるがそれがどうしたんだ?」
「私……そこに住みます」
「……え?」
「え?」
お互い素っ頓狂な声を挙げる。なんとこの女は隣の部屋に住みたいと言い出した。つまり俺とひとつ屋根の下で住むのは御免被るという事だ。
……別にそれに関しては本当にどうでもいいのだが、本当に隣の部屋に住んでもいいと思っているのだろうか?
隣の部屋を使用する事はもちろん俺の頭の中にはあった。それができるなら間違いなく俺は他の部屋を勧めていただろう。しかし他の部屋を使用するにあたっての問題は人間が襲われた痕跡が部屋に残っている事だ。
俺が奏と一緒にいた時に他の部屋を隈なく見て回ったがどこも布団や床に血しぶきがこびり付いていた。それを配慮して俺は他の部屋を勧めることはしなかったのだが……
「本当に良いのか?ちなみに常人なら気分を害すような有様になってるぞ」
「そ、それでも……本当に申し訳無いのですが私は貴方とは……」
「あーそゆことな。そりゃそうだわな……あんな対応してる奴の隣で眠れる訳ないか」
血しぶきがついた部屋と俺が隣にいる部屋を天秤にかけた結果前者の方を選んだという訳だ。つまり俺はあの酷い有様の部屋に負けたという事だ……バカな話ではあるが。
「そゆことならそれで構わない。安心しろ食糧はしっかり分け与えるから」
「はい……本当にありがとうございます」
別々の部屋に住むなら特にルールを設ける必要はなさそうだな。それなら今後の方針を話し合うだけで良さそうだ。
「それじゃあ今後の方針なんだが……」
「私自分の学校に戻りたいです」
「学校?」
学校というのは自分が通っていた高校のことだろう。俺はどうしてそこに戻りたいのかを聞いてみることにした。
「学校に戻って何するんだ?恐らく……いやまず間違いなくあそこにも化け物達がウヨウヨしてるぞ」
それを聞きその悲惨な状況を想像してしまったのか、分かり易いくらいに顔が引き攣ってしまっていた。
しかしそれをも覚悟できていたのか、真剣な眼差しを俺に向けてきた。
「それでも戻りたいんだな」
「はい、私の中にある微かな記憶が霞ヶ丘高校の日常なんです。空白の記憶を埋める為にはまずそこに行かないといけない……気がするんです」
この制服の学校は霞ヶ丘高校というのか。あまり聞いたことはないのだがここら辺にある学校なのだろうか?
学校に行きたいという気持ちは分かった。しかしそこに辿り着くまでの手段はどうするのか?こいつはまだ俺の特異体質を知らずにいる、一体どうやって行くつもりなのだろうか?
俺にはそこが疑問だったため質問を投げかける。
「どうやって行くつもりなんだ?」
「それは……まだ分からないです。でも、もしかしたら貴方なら何か良い方法が思いつくかなと……」
「良い方法……ねぇ」
一番最善の手段は間違いなく俺が一緒について行く事だ。それだけで全てのリスクは取り除かれる。しかしそれでは俺の正体を知られるというリスクもついて回る。
あくまで俺が先陣を切るわけでなく協力をしながら高校に向かうならバレるリスクを下げる事ができる。
俺が狙われないとしてもこの女は狙われる。俺1人だけになってゾンビに狙われないという状況を目撃されなければバレることは無いはずだ。
問題はどこまで進むかだ。高校に辿り着くまでが目的なら問題は無い、グラウンドまで進んでも問題は無いだろう。
しかし高校の中に入るならそれは野獣が大量に潜んでいる森へ入るのと同義である。そんな死角だらけの世界で俺の正体を隠しながらこの女を守り切ることはほぼ不可能だ。
「俺はこの世界で生き抜く術を知っている。だからお前について行ってやっても良いと考えている」
「本当……ですか?」
「ああ……だがその代わり俺の頼みも聞いてもらうがそれはお前が記憶を取り戻した後でいい」
俺が欲しいのは総合病院で検査を受けてもらう事で得られる情報だ。そこまで連れて行く為にはこいつに恩を売らなければならない。できる限り同意を得てから連れて行きたいからだ。
だから協力をする。しかし何も知らずに総合病院に来て欲しいと伝えてもまるで意味が分からないだろう。
それを回避するべく記憶が復元した後の方が色々と効率が良くて説明する手間が省ける。その高校に行って記憶が戻る可能性があるならそうするべきだ。記憶が戻った時初めて俺の正体を明かすことになるだろう。
しかし戻る事がないなら俺はこいつに正体を明かすことは一生訪れない。
「私の記憶が戻った後に……ですか?その頼みとは一体……」
「今言っても仕方ないから言うつもりはない。お前は自分の記憶が戻るように試行錯誤する事に専念しろ」
「は……はい」
これで大体の方針は決まる。残りは……
「しかし付いていけるのはその高校のグラウンドまでだ。それ以上は俺もお前を守りきれない」
「……はい、分かりました。そういう事で大丈夫です」
「じゃあ決まりだ……決行は明日だ」
こうして俺たちの目的は決まる。
敵がただのゾンビだけなら明日は何事も無く順調に進むだろう。高校などに特殊体のような大物がいるとは思えなかったから……。
しかし俺は思い知る事になる。それは自分の悪運の強さ、そしてこうしてる間にも状況刻一刻と最悪へと突き進んでいる事に。
今俺たち2人は互いに正座をして話し合いの場についていた。話し合いの議題というのは今後ここで暮らしていくためのルールだ。
それと今後の方針についても話し合わなければならない。俺にとってのこいつの利用価値は血液をサンプルとして検査してもらう事で俺の身体について情報を得る事。
そしてもう一つがこの女の喪失した記憶を取り戻す為の協力をする事。この女は今までどうやって過ごしてきたのか、何があって特殊体となってしまったのか……それを探る必要がある。
その後は人間の生存拠点に預ける。俺が今考えている事はこれだ。
「ルールを決めるその前にひとついいですか?」
「ん?」
女は何か言いたい事があるような表情をしていた。
「何だ?」
「えっと……隣の部屋とかって空いていないんでしょうか?」
「隣の部屋……?」
隣の部屋だったら確かゾンビは居たはずだが現在はベランダに居るはずだ。そいつをベランダから突き落とせば隣の部屋は晴れて無人の部屋だ。
「空いてるがそれがどうしたんだ?」
「私……そこに住みます」
「……え?」
「え?」
お互い素っ頓狂な声を挙げる。なんとこの女は隣の部屋に住みたいと言い出した。つまり俺とひとつ屋根の下で住むのは御免被るという事だ。
……別にそれに関しては本当にどうでもいいのだが、本当に隣の部屋に住んでもいいと思っているのだろうか?
隣の部屋を使用する事はもちろん俺の頭の中にはあった。それができるなら間違いなく俺は他の部屋を勧めていただろう。しかし他の部屋を使用するにあたっての問題は人間が襲われた痕跡が部屋に残っている事だ。
俺が奏と一緒にいた時に他の部屋を隈なく見て回ったがどこも布団や床に血しぶきがこびり付いていた。それを配慮して俺は他の部屋を勧めることはしなかったのだが……
「本当に良いのか?ちなみに常人なら気分を害すような有様になってるぞ」
「そ、それでも……本当に申し訳無いのですが私は貴方とは……」
「あーそゆことな。そりゃそうだわな……あんな対応してる奴の隣で眠れる訳ないか」
血しぶきがついた部屋と俺が隣にいる部屋を天秤にかけた結果前者の方を選んだという訳だ。つまり俺はあの酷い有様の部屋に負けたという事だ……バカな話ではあるが。
「そゆことならそれで構わない。安心しろ食糧はしっかり分け与えるから」
「はい……本当にありがとうございます」
別々の部屋に住むなら特にルールを設ける必要はなさそうだな。それなら今後の方針を話し合うだけで良さそうだ。
「それじゃあ今後の方針なんだが……」
「私自分の学校に戻りたいです」
「学校?」
学校というのは自分が通っていた高校のことだろう。俺はどうしてそこに戻りたいのかを聞いてみることにした。
「学校に戻って何するんだ?恐らく……いやまず間違いなくあそこにも化け物達がウヨウヨしてるぞ」
それを聞きその悲惨な状況を想像してしまったのか、分かり易いくらいに顔が引き攣ってしまっていた。
しかしそれをも覚悟できていたのか、真剣な眼差しを俺に向けてきた。
「それでも戻りたいんだな」
「はい、私の中にある微かな記憶が霞ヶ丘高校の日常なんです。空白の記憶を埋める為にはまずそこに行かないといけない……気がするんです」
この制服の学校は霞ヶ丘高校というのか。あまり聞いたことはないのだがここら辺にある学校なのだろうか?
学校に行きたいという気持ちは分かった。しかしそこに辿り着くまでの手段はどうするのか?こいつはまだ俺の特異体質を知らずにいる、一体どうやって行くつもりなのだろうか?
俺にはそこが疑問だったため質問を投げかける。
「どうやって行くつもりなんだ?」
「それは……まだ分からないです。でも、もしかしたら貴方なら何か良い方法が思いつくかなと……」
「良い方法……ねぇ」
一番最善の手段は間違いなく俺が一緒について行く事だ。それだけで全てのリスクは取り除かれる。しかしそれでは俺の正体を知られるというリスクもついて回る。
あくまで俺が先陣を切るわけでなく協力をしながら高校に向かうならバレるリスクを下げる事ができる。
俺が狙われないとしてもこの女は狙われる。俺1人だけになってゾンビに狙われないという状況を目撃されなければバレることは無いはずだ。
問題はどこまで進むかだ。高校に辿り着くまでが目的なら問題は無い、グラウンドまで進んでも問題は無いだろう。
しかし高校の中に入るならそれは野獣が大量に潜んでいる森へ入るのと同義である。そんな死角だらけの世界で俺の正体を隠しながらこの女を守り切ることはほぼ不可能だ。
「俺はこの世界で生き抜く術を知っている。だからお前について行ってやっても良いと考えている」
「本当……ですか?」
「ああ……だがその代わり俺の頼みも聞いてもらうがそれはお前が記憶を取り戻した後でいい」
俺が欲しいのは総合病院で検査を受けてもらう事で得られる情報だ。そこまで連れて行く為にはこいつに恩を売らなければならない。できる限り同意を得てから連れて行きたいからだ。
だから協力をする。しかし何も知らずに総合病院に来て欲しいと伝えてもまるで意味が分からないだろう。
それを回避するべく記憶が復元した後の方が色々と効率が良くて説明する手間が省ける。その高校に行って記憶が戻る可能性があるならそうするべきだ。記憶が戻った時初めて俺の正体を明かすことになるだろう。
しかし戻る事がないなら俺はこいつに正体を明かすことは一生訪れない。
「私の記憶が戻った後に……ですか?その頼みとは一体……」
「今言っても仕方ないから言うつもりはない。お前は自分の記憶が戻るように試行錯誤する事に専念しろ」
「は……はい」
これで大体の方針は決まる。残りは……
「しかし付いていけるのはその高校のグラウンドまでだ。それ以上は俺もお前を守りきれない」
「……はい、分かりました。そういう事で大丈夫です」
「じゃあ決まりだ……決行は明日だ」
こうして俺たちの目的は決まる。
敵がただのゾンビだけなら明日は何事も無く順調に進むだろう。高校などに特殊体のような大物がいるとは思えなかったから……。
しかし俺は思い知る事になる。それは自分の悪運の強さ、そしてこうしてる間にも状況刻一刻と最悪へと突き進んでいる事に。
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