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3章 高校編

36話

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「な、何でお前がここに!?」
「す、すいませんっ~!私佐藤未来さとうみらいと申します!よろしくお願いします!」
「……は?」

 一体今何が起きているんだ……?家に帰って来たと思えば、押し入れの中から物音がして、そこを恐る恐る開けてみたらまさか女子高生がいるとは……。

 しかもだ。その女子高生は俺をこの異常体質にした原因なのだ。俺が探し求めていた存在、何処にいるかまったく見当もつかなくて最悪見つからない可能性もあったのに、俺の家の中の押入れに潜んでいたなんて誰が予想できるだろうか……ってあれ?

「は……?お前今何て……?」
「……?私佐藤未来と申します……」
「!?」

 おかしい……おかしいだろっ。俺の目の前にいるこいつは今言葉を確かに話した。俺が知っている特殊体は言葉なんて話せていなかったはずだ。

 よくよく顔を見てみれば俺が噛まれたあの日と比べると若干顔色が良いように見える。今のこいつは何処からどう見ても人間でしかないのだ。

 まるで毒素だけが綺麗に吸い取られたかのように何の面影もなく今平然と人間として振る舞っている。

 俺は何が起きているのか分からなかった。

 だが、まず第一に確認しときたい事があった。ゾンビだか特殊体だか確認する前に大前提として……

「お前……何で家の押入れに?」

 何故俺の家の押入れにいるかという事。まずいつ入った?どうやって?

 シンプルに俺が今この女に対して持っている感情は恐怖。今の俺にとってゾンビ以上のヤバい存在が目の前にいるのだ。

 何だかんだ人間が一番怖いという言葉があるが、まさにその通りだと思う。

 俺の質問を受け、あまりに予想外だったのか女子高生らしく顔を赤く染めて慌て始める……女子高生らしいのかは分からん。

「ええと……実は……」
「実は?」

 色々考えを巡らせて出て来た答えは……

「私も分からないんです」
「は?分からない?」
「す、すいません……でも本当なんです」

 人に家の押入れに入っておいて「実は私も分からない」と?そんなことで納得できるはずがない俺は苛立ちを感じながら問い詰めようとする。

 訳も分からず家に入られていたのだ。謎で仕方ないこの女の謎を暴きたいと考えるのはごく自然のことだろう、分からないことは怖いのだ。

「分からないじゃ困る。何故分からないのか話せ」
「え、ええっと……私実はここに来るまでの記憶が無くてですね……目を覚ましたらこの押入れの中にいて……」
「……」
「すいません、これじゃさっきと変わりませんよね」

 いや……むしろその逆。その方が信じやすいと俺は思った。

 俺の予想ではこの女は特殊体状態が解かれたのだ。実際にそんな事が可能なのかはひとまずさておき、前提として俺を襲った特殊体がこの女で間違い無いとするならば、俺を襲っ後に押入れに入った可能性が高い。

 俺がその押入れに気付かなかったのも、その中で眠ってたのなら気付かなくても無理はない。

 そして恐らく、特殊体状態の間の記憶が無いとするならば記憶が無いという信憑性が無い話の辻褄が合う。

「お前が目を覚ましたのはいつだ?」
「2日前くらいです……」

 2日前……約2週間俺が病院にいた為、2週間以上は眠っていた計算になる。

「目を覚まし時そこから出ようとしなかったのか?」
「したんです!したんですが……外に何匹も化け物が居て……怖くて中々出られず……幸いここには食料があったのでここで助けを待っていました」
「なるほどな」
「信じてくれるんですか?」
「まぁ、突拍子もない話ではあるけどこんな世界なんだ。そういう事もあるんじゃねーの?」

 そう、もう俺たちが知っている普通の世界では無い。

 俺がアルバイト前に数時間眠っていただけで世界は一変してしまっていた。そこからは衝撃的な出来事の連続だった。

 誰が予想できたのだろうかゾンビが世界に溢れかえる事を。まさかゾンビ映画で見ていた事が実際に現実でも起きていて、俺の身体がゾンビに狙われない体質となるなんて。

 未来なんて予測不可能だ。衝撃的な出来事は今後も同じく続くだろう。

 じゃあ目の前の女子高生の信憑性のない話を有り得ないと言って思考を停止してしまうのは愚行だろう。

 どんな事も起こり得る。それが今の現実だ。

「何か……凄い大人な考え……ですね」

 目の前の女は心底驚いたような表情をしていた。

「大人?俺がか?」
「はい」

 そりゃ女子高生から見たら俺は一応大学3年の歳ではあるから大人に見えても仕方ないだろう。  

 考え方が大人というならそれは違う。大人な人間なら今頃生存者達と一緒に協力しながらこの世界で生きていく術を考えて行動している。

 俺は人間としてみられないかも知れないと決めつけて、その恐怖から逃げているだけだ。

 奏や病院で出会ったあの2人もそうだ。誰しも俺の正体を知って態度を変えるわけではないのだ。

 ましてや俺は自分がこの体質になってから、他の人が聞けば自分本位過ぎると罵られても仕方ない程自由に生きていた。

 ゾンビに狙われない体質ならそれを利用して早めに行動していれば救えた命が多くあったんじゃないかという事。

 そこから逃げた俺は今更組織に属することなどできない。

 俺は俺のできる事を1人でやっていくのだ。

「俺はお前が思ってるほどしっかりした人間じゃない」
「そんな事ないと思います!少なくともっ……私のこの話を信じようしてくれる人を信用しない理由はありません」
「……それも今だけだ」
「え?」

 まだ若いからだ。若く経験も浅いからこそ人を簡単に信用してしまう。

 俺はこれ以上人間関係を広げたくない。それは重荷になるからだ、俺の力は自分1人の命だけしか守れない。

 決して他の人を助ける為に使うなど思い上がらない事。そんな自惚れた考えをしているといつ俺の命が尽きるか分からない。

 2度死にかけたのだ。今生きているのは奇跡に近い。次死ぬ可能性は全然あるのだ。

 俺が信用を置くのはあの3人……いやあの医者は置いといて、あの2人は信用できる人間だと思う。

 もうこれで十分なんだ。

 余計な会話はいらない。最低限自分の力で生きていけるように促してやるのが俺のやるべき事だ。

 関係値を上げない為に冷たく接するのだ。後腐れなく清々した気持ちで別れられるように。それがお互いのためになる事だと信じて。

 例えクズだと罵られたとしても……。


 
 
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