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2章 病院編

34話

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「ここまでが君がいない間にあった事だ」
「なるほどな……」

 まさか全ての階のゾンビが一箇所に集中していたなんて思ってもみなかったな……。

 実際は1階に集まっているわけではなくて、3階に集まっていたのだが考え方は合っている。

 ゾンビ共は確かにあの悪魔に引き付けられていた。それも異常な数ほど……。

 改めてあの悪魔の存在の異質さに驚く。音や匂いに引き付けられた訳では無いということ、つまりはあの悪魔に大量のゾンビを引きつけるだけの"何か"があるのだ。

 改めてまた探るしか無い。悪魔の形状はもう保ってはいないが、元の人間の血でも大きなサンプルとなるだろう。

 謎を解明するべく次にすべき事を考えていたその時……

「そこでだ」

 十川が疑いの目を向けるような眼差しで俺を見つめていた。

「……何だよ?」

 俺は訳が分からず、その不快な眼差しの意味を問う。

「君……いや黒藤君、僕達に隠している事はないか?」
「……どういう事だよ?」

 冷静に返答をしているが、内心は自分の秘密が知られているかもしれないという事に酷く焦っていた。

 (隠してる事だと?何で秘密を隠している事がバレているんだ!俺は一体どこでミスを犯した?俺がゾンビに狙われないのは最もらしい理由で嘘をついたはずだが……)

 俺は特殊体に噛まれてからはゾンビに襲われない体質と変わってしまった。

 そして相田翼には俺がゾンビに襲われない理由を、ゾンビは人間の恐怖を敏感に感じ取って襲って来ると否定しづらい理由で誤魔化していた。

 これを嘘と断言できる要素は無いはずだ……ただのブラフか?

「眉が3回ほど震えていたね。嘘をつく人は統計的に見てそういう反応を見せる事が多いんだ。これでも医者だからね、人体には詳しいんだよ」
「なっ……!?俺は隠していない!」

 俺は表情や態度で本音を隠せていても細かい所まではどうやら隠せておらず、つい焦ってしまいまともな反論ができずにいた。

 しかし予想外にここで助け舟が入る事になる。

「ちょっ……十川さん!急に何でそんな酷い事言うんですか!」

 俺の事を看病してくれていた隣に座っている相田翼だった。相手は自分の上司なのにも関わらずまだ出会って間もない俺を庇おうとする。

 (もしかしたこいつ……看護師としては優秀なのかもしれない)

 そうだ、俺は患者なのだ。今は流れが悪いから体調が良く無いという事で大人しく寝る事にしよう。

 患者を労ろうとするこの女のムーブに感謝しつつ、少し体調が悪いように振る舞おうとする。

「悪い、おれ……」
「十川さんはもうちょっと患者さんに気を遣うべきです!だからここは私に任せてください!」
「え?」
「冬夜さん……隠し事なんてして無いですよね?」
「いや、あの体調が……」
「私丸一日ずっと冬夜さんに付きっきりで看病していました。全てはこの瞬間のため……」
「は?俺が心配だからじゃ……」
「さぁ!もう隠し事は無しです!何かあるなら教えて下さい!私力になりたいんです!」
「……」

 やべ、マジでこの女のせいで体調が悪くなって来たかも……十川とかいうやつよりもグイグイ来てるぞお前。気を遣うべきなのはアイツだけじゃ無くてお前もだよ……。

 その様子を見てた十川は、肩を震わせながら溜め込んだ息を漏らすのであった。

「あははっ!おもしろいね君達!」
「私は真剣です!」
「後にしてくれよ……」

 十川は俺達を見てただ笑っているだけであった。

 しかしその表情もすぐに真剣な様子に戻る。

「申し訳ないね黒藤君、さっきのは冗談だ」
「何だよ……驚かすなよ」

 俺が安堵した様子を見せると十川はニヤリと笑みを浮かべた。まるで隙ありと言わんばかりに……

「冗談というのは眉が震えていた事だけだよ」
「……!?」

 眉が震えていた事だけ?じゃあそれ以外は……

「さっきと今の反応を見て確信した。隠しておきたい後ろめたい事があるという事がね」
「い、いや俺はっ……」

 さすがに無理があると思った。自分の反応を思い返してみれば分かる。明らかに何かを本当に隠していないと出ない反応だった事に。

 十川はその反応を見るためにわざと俺が眉を震わせているとカマをかけたのだ。

 俺はしてやられたと思いながら、沈黙を貫いていた。さすがに今の俺は怪しいという事実を知りながら、秘密を打ち明けるべきか迷っていた。

 元々俺の血は検査してもらうつもりであった。しかし、俺はとある問題点に気付いていた。

 ここで俺の正体をバラしたとして、この女ならまだしもこの男を信用する事は難しい。

 一連の事件に関わっているかもしれないのだ、俺が迂闊に自分の体質について言ってしまえばその情報がどこに流れるか分からない。

 最悪の場合、拘束されて自分の体の中をを隅々まで見られるかもしれない。

 俺はそれを恐れていた。

 すると俺の反応を見た十川は溜息を吐き……考えを見透かしたかのような発言をする。

「はぁ……さすがにまだ信用できないか」
「当たり前だろ」
「まぁそうか、僕がまだ白と決まった訳でも無いし。でもね、君の事を検査しようと思えばいつでもできたのは分かってる?」
「そ、それは……」

 この男の言う通り、俺が眠っている間や俺がこうしてる弱っている間にも無理やり抑えつけて検査する事はできた。

 しかしそれをやらないのは……

「勿論信用して欲しいからだ、後は……妙に翼さんが君を気に入ってるからね」
「ちょっ……!」
「嬉しくねぇよ」
「冬夜さんっ!」

 全く忙しいやつだなこいつも……。

「まぁ本当は検査しなくてもいい理由が見つかったからというのもあるんだけどね」
「検査しなくてもいい理由?」
「うん……少し失礼するね」
「は?……おい!何を……」
 
 十川は急に俺のそばへ来ては布団を捲り足を引っ張り出す。そして裾を上げて俺の生足を全員に見えるようにした。

 ここで俺はもう一つのミスに気が付く。本来隠しておかなければならないある事の警戒を完全に緩めていた。

「しまっ……!」
「えっ……」
「これがその理由だ」

 全員が目にしたのは俺の足が何者かに深く抉られるように……噛み付かれた跡であった。




________
後書き

次が2章の最終話です。大変申し訳ないですが2章が終わればしばらく更新は遅くなると思います。ではでは次回もお楽しみに……





 
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