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1章 警察署編

4話

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「!?」

 (正面の部屋の奥からバケツが倒れたような音がしたよな……?ゾンビの仕業か?)

 俺はゾンビが集まろうとしている方向へ自分も進み、音の発生源であろう部屋のドアの前に辿り着いた。

 (ここ……だよな?)

 ドアノブをゆっくりと捻る。

 ガチャッ ガチャガチャッ

 (ドアノブを捻っても開かない……つまり誰かが中から鍵を掛けているということか)

「ヴォォォ!!」

 後ろにいたゾンビもドアの前に辿り着いた様で、ドアを叩きながら大きな呻き声をあげる。

 俺は後ろからやってくる大量のゾンビに体をドアへ押し付けられる。

 (痛っ……ゾンビ共め発情しすぎなんだよっ……)

 俺はドアノブから手を離しこの血生臭い空間からいち早く抜け出そうと、ゾンビの流れに逆行しながら進む。

 10歩ほど進んだところでゾンビ共の集団から抜け出す事に成功する。ドアの前に集まっていたゾンビは見た感じ恐らく20人以上はいるだろう……。

 「これは中にいるやつも助かりそうに無いかもな……」

 (今日の所はひとまず帰るとするか。映画とかは見たいからまたここに訪れるし。できればこの中にいる人間は早く別の場所に移って欲しいんだけどな……)

 俺は服に着いた血や汚れをはたきながら帰路へついた。


 1週間後……

「飽きた。暇だ、すっげ~暇」

 俺はとうとう限界に達してしまっていた。3日目までは全然楽しかったのだが、4日目から雲行きが怪しくなって行き、5日目からはゾンビ映画を見るよりもベランダで外にいるゾンビを眺めている方が遥かにおもしろかった。

「最初こそ退屈しないで済んだけど流石にゾンビ映画ばっかだと飽きるな」

 ゾンビに関する知識を集めるために見ていたのだが、こうもゾンビが人を喰う姿ばかり見てしまうとかなり気分も萎えてしまう。

 (映画は勉強目的で見るもんじゃ無いな……)

 俺は冷蔵庫から飲み物を取り出すために手を地面について体を支えながら立ち上がる。

 その体は1週間前よりも僅かに重くなっている様に感じた。原因はこのだらしない生活のせいだ。

「しかも全然部屋出てないしコンビニ飯だからすげー不健康な気がするわ……」

 美味いのだが、コンビニ飯は消費期限が短いためすぐダメになってしまう。新しく仕入れられる事も無いため、これからは弁当ものを食べることを控えなければいけない。

 電力はまだ働いているが、いつ電力供給が切れるかも分からないため今あるカップ麺類も早めに消費しておいた方がいいかもな。

 美味い飯を食えるのは電力が働いているおかげでおり、電力を失えば日持ちする菓子類を食うハメになってしまう。

 俺のこの生活も長続きはしない可能性が出てきた。しかし電力が無くなった後を考え続けても気が滅入るので別のことを考える事にした。

「久しぶりに外に出るとして行く場所は……本屋で適当におもしろそうなの持ち帰るか」

 結局俺は映画の次は本という、別の娯楽に手を出すため外出する事に決めた。

「てことで、ヴォォォ……てかこれ人がいる時にだけでよくね?うん、そうしよう」

 ゾンビのフリって意外にめんどくさいな……。人が見てなくても何か羞恥心ハンパないし。


「何読もうかな~ワンピースにするかヒロアカにするか……。いやでも今こんな世界じゃ続きでないじゃん。俺ストーリーが途中で終わるの嫌いなんだよな……。ゾンビ許すまじ」

 俺は本屋に着いて気になる本を物色していた。この世には娯楽など無限の様にあるが、漫画などの様に続きが出ない事が決まっている作品ほどつまらないものはない。

 俺の娯楽生活も3ヶ月は持つだろうけど……それ以上はどうなるかな……。

 つまらないことを考えていると、後ろで何者かが通り過ぎるのを感じた。

 (まぁそりゃゾンビだわな……)

「ん?」

 そのゾンビを見ていると、ただ彷徨っているわけではなく目的意識を持って動いてるのを何となく感じた。

「まーたここにも誰かいるのか?」

 別に音とかは聞こえなかったが、ゾンビ共が人間以外に興味を示すとも思えないし……

「(暇だし……ちょっと覗いて行くか)」

 そうだそうだ、一応ゾンビの真似しとくか。

「ヴォォォ……」

 

「(ここは……スタッフルーム。ドアは引き戸なのにゾンビ共は何してるんだ?)」

 ゾンビ達は引き戸のドアの前に集まってとにかくドアを叩きながら体を前に強く押し付けていた。

 勿論引き戸の為あれではいつまで経っても中に入る事は不可能だ。まぁドアが壊れたら話は変わるけど……。

 (しかしおかしくないか?俺を噛んだゾンビは鍵のロックをいとも簡単に解除してたのに……どういうこと何だ?)

 俺は娯楽に飢えていたからなのか、部屋の中の様子が気になりゾンビ共の集団の、微かに空いている隙間に自分の体を滑り込ませる。

 ゾンビの蹴りや肘が体中に当たるが、そんな事はお構いなしにどんどん前へと押し進む。

 そしてドアの前に着いた俺はドアを開けれるほどのスペースを、尻で後ろにいるゾンビを押しながら作る。

 そして空いた人間一人分の隙間からヒョイと自分の体を滑らせる様に入れてすぐにドアを閉める。

「(よしっ、上手く俺だけ入り込むことができたな。中の様子は如何なものか……へ?)」

 俺は部屋の奥の様子を本棚で体を隠しながら気づかれない様に覗いた。するとそこにあったのは唯ならぬ光景であった。


「や、やめて下さい……先輩っ」

 嫌そうな顔で男の両手を抑えながら抵抗する女。その女は黒くて長い髪を後ろにまとめていて、遠くから見ていても綺麗な顔立ちであることが分かった。

「良いじゃないか長い付き合いになるんだ。こんな閉鎖された空間ですることも何も無いんだから、一回くらい……な?」

 そしてそんな女の様子にも気付かず下心を丸出しで女を襲おうとする男。その男は遠くから見ても如何にもイケメン風で自意識過剰そうな……体中がムズムズしてきそうな男であった。

「嫌です!本当にっ……軽蔑しますよ?」
「そんな酷いこと言わないでくれよ。それに朝美ちゃんも本当はムラムラしてきてるんじゃないのかい?」
「そ、そんなわけ……きゃっ!どこ触っているんですか!?」

 (こんな絶体絶命の状況で一体何をしてるんだこいつらは……)

 諦めているからこそ一発ヤりたいとでも思っているのかもしれない。それともこんな状況だからこそ興奮するとか……?

 そう考察していると、とうとう女の方が力負けをして本棚に体を押し付けられてしまう。

 (このままだと女の方が力負けして行為にまで及びそうだな)

 別にあの女が襲われた所で俺には関係が無いからどうでもいいのだが……

 (見てると無性にムカムカとするな。‥‥邪魔でもしてやるか)

 俺は不敵な笑みを浮かべながら部屋の外へ抜け出した。




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