上 下
4 / 53
1章 警察署編

4話

しおりを挟む
「!?」

 (正面の部屋の奥からバケツが倒れたような音がしたよな……?ゾンビの仕業か?)

 俺はゾンビが集まろうとしている方向へ自分も進み、音の発生源であろう部屋のドアの前に辿り着いた。

 (ここ……だよな?)

 ドアノブをゆっくりと捻る。

 ガチャッ ガチャガチャッ

 (ドアノブを捻っても開かない……つまり誰かが中から鍵を掛けているということか)

「ヴォォォ!!」

 後ろにいたゾンビもドアの前に辿り着いた様で、ドアを叩きながら大きな呻き声をあげる。

 俺は後ろからやってくる大量のゾンビに体をドアへ押し付けられる。

 (痛っ……ゾンビ共め発情しすぎなんだよっ……)

 俺はドアノブから手を離しこの血生臭い空間からいち早く抜け出そうと、ゾンビの流れに逆行しながら進む。

 10歩ほど進んだところでゾンビ共の集団から抜け出す事に成功する。ドアの前に集まっていたゾンビは見た感じ恐らく20人以上はいるだろう……。

 「これは中にいるやつも助かりそうに無いかもな……」

 (今日の所はひとまず帰るとするか。映画とかは見たいからまたここに訪れるし。できればこの中にいる人間は早く別の場所に移って欲しいんだけどな……)

 俺は服に着いた血や汚れをはたきながら帰路へついた。


 1週間後……

「飽きた。暇だ、すっげ~暇」

 俺はとうとう限界に達してしまっていた。3日目までは全然楽しかったのだが、4日目から雲行きが怪しくなって行き、5日目からはゾンビ映画を見るよりもベランダで外にいるゾンビを眺めている方が遥かにおもしろかった。

「最初こそ退屈しないで済んだけど流石にゾンビ映画ばっかだと飽きるな」

 ゾンビに関する知識を集めるために見ていたのだが、こうもゾンビが人を喰う姿ばかり見てしまうとかなり気分も萎えてしまう。

 (映画は勉強目的で見るもんじゃ無いな……)

 俺は冷蔵庫から飲み物を取り出すために手を地面について体を支えながら立ち上がる。

 その体は1週間前よりも僅かに重くなっている様に感じた。原因はこのだらしない生活のせいだ。

「しかも全然部屋出てないしコンビニ飯だからすげー不健康な気がするわ……」

 美味いのだが、コンビニ飯は消費期限が短いためすぐダメになってしまう。新しく仕入れられる事も無いため、これからは弁当ものを食べることを控えなければいけない。

 電力はまだ働いているが、いつ電力供給が切れるかも分からないため今あるカップ麺類も早めに消費しておいた方がいいかもな。

 美味い飯を食えるのは電力が働いているおかげでおり、電力を失えば日持ちする菓子類を食うハメになってしまう。

 俺のこの生活も長続きはしない可能性が出てきた。しかし電力が無くなった後を考え続けても気が滅入るので別のことを考える事にした。

「久しぶりに外に出るとして行く場所は……本屋で適当におもしろそうなの持ち帰るか」

 結局俺は映画の次は本という、別の娯楽に手を出すため外出する事に決めた。

「てことで、ヴォォォ……てかこれ人がいる時にだけでよくね?うん、そうしよう」

 ゾンビのフリって意外にめんどくさいな……。人が見てなくても何か羞恥心ハンパないし。


「何読もうかな~ワンピースにするかヒロアカにするか……。いやでも今こんな世界じゃ続きでないじゃん。俺ストーリーが途中で終わるの嫌いなんだよな……。ゾンビ許すまじ」

 俺は本屋に着いて気になる本を物色していた。この世には娯楽など無限の様にあるが、漫画などの様に続きが出ない事が決まっている作品ほどつまらないものはない。

 俺の娯楽生活も3ヶ月は持つだろうけど……それ以上はどうなるかな……。

 つまらないことを考えていると、後ろで何者かが通り過ぎるのを感じた。

 (まぁそりゃゾンビだわな……)

「ん?」

 そのゾンビを見ていると、ただ彷徨っているわけではなく目的意識を持って動いてるのを何となく感じた。

「まーたここにも誰かいるのか?」

 別に音とかは聞こえなかったが、ゾンビ共が人間以外に興味を示すとも思えないし……

「(暇だし……ちょっと覗いて行くか)」

 そうだそうだ、一応ゾンビの真似しとくか。

「ヴォォォ……」

 

「(ここは……スタッフルーム。ドアは引き戸なのにゾンビ共は何してるんだ?)」

 ゾンビ達は引き戸のドアの前に集まってとにかくドアを叩きながら体を前に強く押し付けていた。

 勿論引き戸の為あれではいつまで経っても中に入る事は不可能だ。まぁドアが壊れたら話は変わるけど……。

 (しかしおかしくないか?俺を噛んだゾンビは鍵のロックをいとも簡単に解除してたのに……どういうこと何だ?)

 俺は娯楽に飢えていたからなのか、部屋の中の様子が気になりゾンビ共の集団の、微かに空いている隙間に自分の体を滑り込ませる。

 ゾンビの蹴りや肘が体中に当たるが、そんな事はお構いなしにどんどん前へと押し進む。

 そしてドアの前に着いた俺はドアを開けれるほどのスペースを、尻で後ろにいるゾンビを押しながら作る。

 そして空いた人間一人分の隙間からヒョイと自分の体を滑らせる様に入れてすぐにドアを閉める。

「(よしっ、上手く俺だけ入り込むことができたな。中の様子は如何なものか……へ?)」

 俺は部屋の奥の様子を本棚で体を隠しながら気づかれない様に覗いた。するとそこにあったのは唯ならぬ光景であった。


「や、やめて下さい……先輩っ」

 嫌そうな顔で男の両手を抑えながら抵抗する女。その女は黒くて長い髪を後ろにまとめていて、遠くから見ていても綺麗な顔立ちであることが分かった。

「良いじゃないか長い付き合いになるんだ。こんな閉鎖された空間ですることも何も無いんだから、一回くらい……な?」

 そしてそんな女の様子にも気付かず下心を丸出しで女を襲おうとする男。その男は遠くから見ても如何にもイケメン風で自意識過剰そうな……体中がムズムズしてきそうな男であった。

「嫌です!本当にっ……軽蔑しますよ?」
「そんな酷いこと言わないでくれよ。それに朝美ちゃんも本当はムラムラしてきてるんじゃないのかい?」
「そ、そんなわけ……きゃっ!どこ触っているんですか!?」

 (こんな絶体絶命の状況で一体何をしてるんだこいつらは……)

 諦めているからこそ一発ヤりたいとでも思っているのかもしれない。それともこんな状況だからこそ興奮するとか……?

 そう考察していると、とうとう女の方が力負けをして本棚に体を押し付けられてしまう。

 (このままだと女の方が力負けして行為にまで及びそうだな)

 別にあの女が襲われた所で俺には関係が無いからどうでもいいのだが……

 (見てると無性にムカムカとするな。‥‥邪魔でもしてやるか)

 俺は不敵な笑みを浮かべながら部屋の外へ抜け出した。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

200年後の日本は、ゾンビで溢れていました。

月見酒
ファンタジー
12年間働いていたブラック企業やめた俺こと烏羽弘毅(からすばこうき)は三日三晩「DEAD OF GUN」に没頭していた。 さすがに体力と睡眠不足が祟りそのまま寝てしまった。そして目か覚めるとそこはゾンビが平然と闊歩し、朽ち果てた200年後の日本だった。 そしてなぜかゲーム内のステータスが己の身体能力となり、武器、金が現実で使えた。 世界的にも有名なトッププレイヤーによるリアルガンアクションバトルが始動する! 「一人は寂しぃ!」

どうやら世界が滅亡したようだけれど、想定の範囲内です。

化茶ぬき
ホラー
十月十四日 地球へと降り注いだ流星群によって人類は滅亡したかと思われた―― しかし、翌日にベッドから起き上がった戎崎零士の目に映ったのは流星群が落ちたとは思えないいつも通りの光景だった。 だが、それ以外の何もかもが違っていた。 獣のように襲い掛かってくる人間 なぜ自分が生き残ったのか ゾンビ化した原因はなんなのか 世界がゾンビに侵されることを望んでいた戎崎零士が 世界に起きた原因を探るために動き出す――

《完結》 世界の終焉に何を思う

くみたろう
ホラー
世界が変わるのは一瞬だった。 つい先程までは、変わらない日常を送っていたのに。 蔓延するのはウィルスが原因なのか、それとも薬品か。 そんなことはわからないけれど、今は人が人を襲い化け物に変える。 わかるのはこれだけ、これだけなのだ。 ホラー、パニック、グロテスクな表現があります。 ゾンビもののお話しで、世界の終焉の始まりのお話し

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

異世界召喚された俺は余分な子でした

KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。 サブタイトル 〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

性奴隷を拒否したらバーの社畜になった話

タタミ
ホラー
須原幸太は借金まみれ。 金貸しの元で無償労働をしていたが、ある日高額報酬の愛人契約を持ちかけられる。 『死ぬまで性奴隷をやる代わりに借金は即刻チャラになる』 飲み込むしかない契約だったが、須原は気づけば拒否していた。 「はい」と言わせるための拷問が始まり、ここで死ぬのかと思った矢先、須原に別の労働条件が提示される。 それは『バーで24時間働け』というもので……?

処理中です...