平凡以下な僕は幼馴染を守るために、初級魔術だけでも頑張っていきます。

気ままに

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序章ー入学試験編

第26話「スキュラの大森林」

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試験が始まり僕達はしばらく歩き続けた。
ゴールへ向かうために暗くて先が見えない森林を僕が先頭でただ真っ直ぐ歩いた。
魔物はまだ現れない…、いるのかもわからない。

ただ先ほど人間の死体らしきものがあったから、きっといるのだろう。
僕達は周りを警戒しながら進み続けた。

「俺たちこれで合っているのか?」

集団の中の1人がそう呟いた。
誰も返事をしようとしない。
きっと皆も薄々感づいていたことなのだろう。

僕達は別にスタート地点でスタートしたわけではないのだ。
ただスキュラの大森林の中のどこかにいることしかわからない。

だからゴールの位置は正面かもしれないし、真後ろかもしれない…。
もしかしたら気づいていないだけで、通り過ぎたっていう可能性もある。
だけど誰も場所がわからない以上、とりあえず進んで確かめるしかなかった。

「ねぇ、私達もう2時間は歩いてない…?」

また誰かが誰に向けたのかもわからない質問をした。
2時間か…、おそらくそれくらい経っているのだろう。

2時間経っているのに道は全く変化がなく、
魔物も現れない。
つまりまったく情報がこの2時間で得られていないのだ。

2時間進み続けて何も収穫がないという事実が、多くの人の不安を掻き立てた。

「おい!俺たちこのまま前に進んでもいいのか?こんなに歩いてるのに全く異変がない」

居ても立っても居られなくなったのか、1人の男が全員に聞こえるように言った。

だけど、誰も返事はしない。
理由はわからないから。
何を返せばいいのかがわからないのだ…。

「っ…! おい先頭のチビのお前!さっきからずっと先頭に立って前に進んでるけど、お前はなにも思わねーのか?」

ここで僕に白羽の矢が立った。
誰も何も言わないから、先頭にいる僕に話しかけたか。
別に僕はただ前に何かありそうだから進んでいるだけで、ついて来たのは君たちじゃないか…。

「まぁそろそろ何かあってもいいとは思いますけど」

「そうだ、何かあっても良いはずなんだ。魔物が現れるとか、光が見えるとか、この中の誰かが死ぬとかなぁ!だけど何もねぇ!ずっと暗い道を何の確証もなく歩き続けているだけだ!」

「そうですね」

そんなことはわかっている。
けどどうすればいいというのだ。

手分けをしろとでも言うのか?
僕達は今集団で動いてはいるが、ゴールさえどこにあるかわかれば敵同士なのだ。

協力なんてもってのほかだ。

「俺たちは確かに敵同士だが、ゴールできないことなんて死ぬことよりはマシだろ?
なら協力をしようぜ。良い案があるんだ」

協力か…。
僕はあまり乗り気じゃないんだけどな。
ここにいる奴らはどいつも赤の他人だ。
協力関係を結べたとしても、絶対に裏切り者が出ないとは言えない。

僕は単独行動をしたほうがいい気がするな。
けど一応案を聞いてみることにした。

「聞かせてください」

「俺の案はこうだ。ここを中心に全員で円になって全方位に向かって歩くだけだ。
そしたらこんな真っ直ぐ歩くよりも時間短縮にはなるだろ?」

「…」

確かに時間短縮にはなるし、このまま先も見えずに歩くよりは良いと考える人もいるだろう。

けど、その案は確実に魔物と遭遇する。
そしてきっと多くの死者が出る…。

そして死者が出れば円に綻びができて、ゴールが見つからなくかる可能性もある。

なにより恐怖で陣形など簡単に崩れてしまうだろう…。

「俺はそれでいいと思う。幸い人数はたくさんいる。しっかりと陣形を組んで進めば魔物と遭遇しても被害は最小限にできるはずだ」

今度は違う男性が返事をした。
確かに剣士と魔術士もいる。
バランスはいいが、相手の力量が不透明だ。
スキュラの大森林が恐れられているのはその中にいる魔物だ。

いくら仮想だと言っても、弱いことはないだろう。

遭遇したら戦うのではなく、逃げるという手段も必要だ。
だから僕は単独行動を選ぶ。

まぁ僕に関しては魔力障壁があるから大丈夫っていう考えも強いんだろうけど、使用回数は限られている。

少数で陣形を組んだとすると、必然と使用回数も多くなるだろう。

俺の力はお前らを守るためにあるものじゃない、アイリを守るためにあるものなんだ…。

「わ、私も賛成。1人でいるよりかは安心するもの」

「私も」

「俺も」

「僕は1人で行動する」

「!」

ほぼ全員が僕の方へ向いた。
この空気の中で言い出すのはなかなか骨が折れたが…。
別に言わなくても良かったんだけどな…。

「ふん、勝手にしろ。後で入れてとお願いしても許さねぇからな」

「ああ、そのつもりはない」

そして僕は一足先に集団から離れて、単独行動をした。
さっきと同じ道をまた進み始めた。
この道に拘る理由は特にはない。
まぁ何となくだ。

僕は一つ一つを消去法で導かないといけない性分だしね…。

そして奴らは僕のことを腫れ物を扱うような目で僕が過ぎ去っていくのを待っていた…。

そして1時間が経つ。

「まだ何もないか…」

ここまで来ると魔物なんて本当にいるのかと疑問になる。
実はさっきの死体は学校側のフェイクで、魔物がいるというのも僕達を試す嘘なのかもしれない。
そう思うほうがより信じられると思えてきた。

と、そこで一筋の光が見えた。

「あ、まさか!」

僕はすぐに走り出した。
ゴールを見つけた!
誰よりも早く見つけられた!
これで1位!
1位でゴールできたら村のみんなは僕を見直してくれるだろうとら思った。

そして僕は光の先に出た。

「ま、眩しい…」

この光には…なぜか親近感が湧いた。
知っている光だ…。

この光は僕の真上から来ている。

僕は手で目を少し覆いながら、上を見た。

「やっぱり、日の光だ…」

やっと日の光が見えた。
今までずっと光がささなくてずっと暗かったから少し嬉しかった。

けど…

「仮想なのにやけにリアルだな…」

そう、とても仮想的な世界とは思えなかった。
僕が今感じている日の光は小さい頃からいつも感じているもので、とても仮想でそこまで真似できるとは思えなかった。

そして、ある仮説が浮かび上がった。
さっきの腐食した死体…、そういえばあれは結界魔術のはずなのになんで死体があるのだろう。

結界はそこで作られるあたらしい世界のはずなのに…。
さらにあのキツイ臭いも、とても再現できるものではない気がする…。

もしかして…

「ここは本物のスキュラの大森林なんじゃ…」
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