イツマデモ君トコノ星ヲ

縹トヲル

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第四章

My secondary planets 〜宵の明星後日談・2

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◇◆◇

「で、これが俺の通ってる学校。裏山に公園があって……」
 慈玄と慈海、二人の中央で手を繋いだまま、和宏が説明する。

 折しも、日曜日の午後だった。学校に人の気配はほとんど感じられない。運動部の生徒や顧問以外は、今日は在校していないのだろう。梅雨入り前の空は晴れ、風も弱い。気温は少々高いが過ごしやすい気候。一貫制の巨大な校舎を迂回して、裏山の公園へ続く坂道を往く。
「そうそう、ここで慈斎とクレープ食べたんです!慈海さんもどうですか?」
 その後涙を溢すほど辛い言葉を投げ付けられたのはすっかり記憶の奥底か、とここまで迎えに来た慈玄は笑う。つい半月ほど前の出来事だが、続けざまに様々な騒動があったのでもう遠い過去のようだ。
「くれーぷ?」
「まぁ、甘味の一種だな。和が作ったほっとけーき、の薄っぺらいのみたいなやつだよ」
「そうか。だが、それは後にしておくか。夕食を馳走になるならな」
「あ、それもそーですね」
 同じ場所にクレープを売るワゴン車を横目で確認しながら、公園内に入った。和宏だけは少し惜しそうに。
「カフェにもまだ寄ってねぇしな。デザートはそっちで買おうぜ?」
「そっか、そうしよう!」
 いたって楽しげに、和宏が手を引く。

 敷地内には、わずかながら人の姿が目に入る。犬を連れた老人や、ジョギングをする男性、幼子を遊ばせる若い母親達。街の中心にある桜公園ならば、こういった人々はもっと多いだろうが。
「慈玄」
 その中でやや異色の三人組、一番年長に見える慈海が、大柄な慈玄に目配せをした。真ん中の少年は、頭上で交わされたコンタクトにはまだ気付いていない。
 野球のグラウンドほどの広さに平された公園の奥に、更に上部へと繋がる小路があった。柵で囲われた先は植樹ではなく、野生の雑木が生い茂っている。
「和、あそこから上、行ったことあるか?」
「? うん、あるけど。確か、狭いけど少しだけ頂上部分が開けていたような」
 登れはするが、めったに地元の者でも足は踏み入れないと和宏は言う。特に何があるわけではないからと。
「なんか感じるか、慈海」
「いや。むしろ澱んでいるというか、滞っているような気だが」
 引き寄せられるように、三者は小路へと進んだ。

 迦葉の登山道よりは険しくないが、幅が狭いのと思いの外木々が押し迫っているため、そこからは突如異空間に入り込んだような錯覚を覚えた。ほんのいくらか下った場所に住宅地があるとは思えないほどだ。鬱蒼と薄暗い細道を進むと、背の高い草木に隠れた異物を、慈海がみつけた。
「祠、だな」
 大きなクヌギの根元に、石で作られた小さな社があった。表面は苔で覆われ、完全に周囲と同化している。
「へぇ、こんなのあったんだ。前に来たときは気付かなかった」
 和宏がまじまじと眺め一歩近づいたが、従っている二人が引き止めることはない。
「どう思う?」
「今は空のようだ、残滓は相当古くて読み取れん」
「俺も同感だ。闇らしきもんは無さそうだな」
「昔の住人があつらえたものだろう。しかし」
 まだ観察している和宏に、慈海が並ぶ。そして石の祠の屋根部分に、手をかざした。
「どうもおかしい。元々居たのは神ではなく妖に近いようだが…にしても、やけに『歪』だ」
 和宏が慈海の顔を覗き込む。
「いびつ?」
「あぁ。妖のようであり人のようであり、というか、な。かと言って私のように、そもそもが人間だったもの、というのとも違う」
「ふぅん」
「ま、どっちにしても今は何もいねぇな。なんかの手がかりかもしんねぇが、これが発生元とは言えねぇだろ」
 一応のポイントとして抑えつつ、彼等は来た道を戻った。

「そうだ、人間だった、っていえば。慈海さん、この間は、昔のこと話してくれてありがとうございます。慈玄もだけど、皆昔のことを思い出すのは苦しそうなのに」
 手を繋ぎ直し、和宏は慈海を見上げた。慈玄や慈斎ほどではないが、慈海も身長は高い。
「あぁ。なぜか君には、話しておきたくなったのだ。過ぎた昔の話だし、辛い思い出ではあるが今更苦にはしていない。今も過去の因果を背負う慈玄とは別だがな」
「だけど俺は、慈玄もだけど、慈海さんにも幸せになって欲しいです!罪とか後悔とかいろいろ俺の分からないこともあるけど、今は今、ですから!!」
 向けられた笑顔に、慈海は癒やしを感じた。潜在的な気質を持ち合わせてはいても、和宏は人間。なにかと忸怩たる思いを抱えたままなのもわかる。だが、力はなにも霊の浄化を行ったり、術を跳ね返すばかりではない。もっと明白な「能力」が、和宏にはあるのだ。
「今は今、か」
「そうですよ。一緒に同じもの食べて、味わって、同じように美味しいって思えたら俺は幸せです。だから、夕飯美味いもの作りますね!」
 そうこうして歩いているうちに、景色は一変していた。現代の街並みを見慣れない慈海は、物珍しそうに視線を巡らせる。賑やかな人通り、色とりどりの外壁。桜公園周辺は、洒落た建物が多い。
「あっ、あそこです、俺がバイトしてるカフェ!」
 和宏が指差した先は、ガラス張りの内部に客席が見える店舗だった。
 気のせいか、と思える程度の奇妙な表徴を慈海は察知した。しかし今一度確かめる間もなく。
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