イツマデモ君トコノ星ヲ

縹トヲル

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第三章

北極星(ポラリス)・21

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◆◇◆

「あの、ほんとにいいんですか?これ」
 襟元や袖を引っ張りながら、何度目かの同じ問いかけをする。俺が着ている上着は、値札を取ったばかりの新品のウインドブレーカー。形も色もシンプルだが、縫製やデザインが凝っている。
 駅前の商店街。光と以前行ったところとは違うが、やはりちょっと洒落た路面店で購入したものだ。いや、正確には「買ってもらった」のだが。
「いいんだよ、俺がお前にプレゼントしたかっただけなんだから」
「プレゼント、て。俺、釈七さんにそんなことしてもらう道理が……」
「あのな、人に物を贈るってのは、もらった方よりむしろ渡す側のが嬉しいもんなんだよ。気に入ってくれんなら尚更、な?」
 トルソーにセットアップされていたのを、目に留めたのは確かに俺だ。下着や寝間着代わりのスウェット、シャツなどは大手の量販店である程度買い込んだが、夏に向かう五月ともなるとそういう店舗に羽織り物は少ない。薄手のパーカーを一着だけ見繕い、帰りがてら他の買い物も済ませようと散策していたところで、これをみつけた。スポーツブランドを扱う店で、こちらが訊かずともあれこれ話し掛けてきた店員によれば、撥水加工がしてあるため梅雨時にも重宝するからと店頭に飾っていたという。
「お前、いつも着てるパーカーも羽織らずに家飛び出しただろ?いくら気温が高くなってきたとはいえ、バイクで風切るには心許ないからな。これならぴったりだ」
 少々の雨も防げるならば尚好都合。サイズも丁度良かったので、すぐに買い上げを決めた。が、レジに運んだのは釈七さんで、支払いも済ませてしまった。
「こういう場合は素直に喜んどけ。俺もその方が有難い」
「は、はい。ありがとう、ございます。大事に着ます」
 食べ物や小物の贈答なら、光とも何度か交わしている。けれど、全く予期せぬ人から予期せぬ形で「プレゼント」を受け取ったことは、子供の頃以来あまり経験がなかった。
 幼少期の記憶での贈り物は「施設の子どもたち皆に」というものばかりだったから、個人的に何かをもらうなど、今までほとんど無かったと言っても過言ではない。
 だから、申し訳なさはあったものの単純に嬉しくもあった。顔を合わせる時間の大半が制服姿の釈七さんから「似合う」と言ってもらえたのも、照れ臭くも心弾んだ。自分がこういう時どんな顔をしているのかはわからないままだが、その嬉しさが若干表に現れたのだろう。光のことを考えると無思慮な気もしたが、自制が及ばないほど、反射的に。
 釈七さんはしかし、そんな俺に笑みを返してくれた。
「その言葉が聞けて、俺も嬉しいよ。んじゃ、帰るか」
 俺の頭を一撫ですると、バイクを停めた駐輪場へ向かう。

 商店街の出入り口を示す、アーチの付近まで来た時だった。
「……光?」
 見慣れた金髪頭の長身を、数十メートルほど離れた視界の先に認めた。夕刻の人混みの中でもはっきりとわかった。学校からの帰りだろうか。気付かれたら何をどう言えば良いのか、なんてことを考える余裕も無く。
 隣には、もう一人の姿。金髪と言うよりはブロンド、と呼ぶ方がしっくりくる色。細く軽やかに風に揺れている。すんなりと伸びた、男にしては華奢な手足。あれは、見間違えようも無い……
「キルト、さん」
 二人が並んでいるのは、遠目からでもかなり目立つ。何やら言い合いをしているようだ。
 光は困った様子でも、キルトさんの方は以前会った時みたいに、腕を取ったり、寄り添ってみたり。
「どうした?」
 歩みを止めた俺に気付いて、釈七さんが振り返る。凝り固まった視線を、辿るように追った。
「光一郎……」
 揉み合っていた二人の影が、不意にぴたりとくっついた。と、思うが矢先、キルトさんが光に唇を寄せた。ビクリ、と肩が跳ね上がる。

 拙いことに、駐輪場はこの先だ。彼等のすぐ近くを通り過ぎなければならない。強く唇を噛みしめると、俺は足を速めた。
「行きましょう、釈七さん」
「!! ちょ、キルト、何して……え、鞍……?」
 光の声が耳を掠めたが、無視してすり抜ける。駐輪場へ駆け込むと、自ら先にバイクの後部へ乗り込んだ。
「鞍!待ってよ!!」
 光はこちらに足を向けかけたが、腕にはキルトさんが絡みついたままだ。走って追いついた釈七さんがヘルメットを投げ寄越す。素早く被って、顔を隠した。
「いいのか、鞍?」
「いいから早く出して下さいっ!」
「待ってってば!話を聞いてよ!!俺は……っ」
 釈七さんは戸惑いながら光の方へ一瞥を投げたが、エンジンをかけると振り払うようにバイクを発車させた。
「鞍っ!」
 掴まっていて耳は塞げないので、釈七さんの背に頭を埋め、押しつけた。何も言わない、聞きもしない。ただ逃げるのが狡いことくらい、痛いほど判ってる。
 でも、無理だ。どうしても。
 叫ぶ光の一歩後ろで、キルトさんがいつかと同じく、少し寂しそうに手を振っている……目にしたわけではないのに、その光景が鮮やかに頭に浮かんだ。
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