天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志

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第87話

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「角倉さん…いい人でしたね」

舞う雪を見上げながら京の町を大坂方面へ馬をゆっくり走らせながら久見は言った。

「孤児を集めて学ばせているとは思いもよらんかったわ」

並走する小西が言う。

「あの方も戦の世に終止符を打ちたかったんでしょうな。」

後ろから左近が言う。

「して治部よ、あの様に角倉殿とお約束されたは良いが良案でもあるんか?」

小西は不思議そうに聞く。

「はい。はこの為だったかもしれませんね。」

津久見はニコッと笑いながら左近の方を向いた。

津久見の言を察した左近は言った。

「左様でございますな。あの御仁の甲冑が活躍しそうでございますな…。」

左近は言いながら少し考えながら空を仰いだ。

「ん?左近殿もご存じなのか?」

小西が左近に向かって言う。

「あ、はい。恐らく殿は堺にいる、元足利家家臣の大舘殿の開発した甲冑を頼みにしておられるかと…。」

「大舘…。ふむ。そのような方がおるんか。ほんま治部は様々な人間を味方に付けよるな。」

小西は感心したように言う。

「…。」

左近はまた空を見ながら何か考えていた。

「どしたの左近ちゃん?」

津久見が聞く。

「…。角倉様の二つの条件…。一つは治水の利権。これはどうにかなりましょう。」

「そうやな。治水に関してはあのお方の右に出る者を儂は知らんからの。」

小西が言う。

「2つ目の条件…。京の治安。これも今後の会議で兵の配備に異論は出ないでしょう…。」

「そうやな。そう考えると了以殿は案外簡単な条件を出して来たもんやな。」

「そこです。」

左近は続ける。

「了以様が京での狼藉を働く者達へいかに強い怒りを持っているかを考えると、大館殿の甲冑だけでご納得されるか…。」

「ん~。ええ甲冑なんやろ。それやったらええんちゃうの?」

「…。」

左近は黙り込む。

そこに話を聞いていた津久見が口を開く。

「確かに落ち着いて考えたら案外簡単そうで奥が深そうですね…。」

「了以様の申された『』と言う言葉が引っかかっておりまする。」

左近が言う。

「確かに人の殺される様をわざわざ言うのも違和感あるなぁ」

行長が顎の髭を触りながら言う。

「京の町の治安。それに子供の教育…。」

津久見は上を向きながらつぶやいた。

(子は未来の宝。これは了以殿と同じ考えか…。それまでに子を愛する人…。)

津久見達一行が京は三条の橋に差し掛かったその時であった。

キャーと悲鳴と共に母親らしき女が子の手を取って何者からか逃げていくのが見えた。

「何でしょうか…。」

左近が馬を進め言う。

よく見るとその逃げる親子は近くにある薬屋に助けようと戸を叩くが、薬屋は固く戸を閉じ助けを出そうとはしなかった。

「ははは。観念せえや。」

追いかける男は、逃げ場を失った親子を見ながらニヤニヤと笑いながら近づいて行く。

その男が抜刀すると、左近も瞬時に刀を抜き猛然と馬を走らせた。

「ひいい。」

母親は悲痛な叫びと共に子を腕でかくまった。

(!!!!!)

津久見はその行動を見て何かに気付いた。

そして叫んだ。

「左近ちゃん!!!斬っちゃダメです!!!」

「合点。」

津久見の声を聞く前から左近は既に刀を逆さに持っていた。

「カーン!!!」

鈍い金属音がした。

と、同時に男の刀は彼方に飛んで行った。

親子はその轟音に怯えながら身を固めていた。

「去れ。」

左近の低い声が男を刺した。

「う、う…。」

声にもならない声を発しながら男は去って行った。

「けがは無いか?」

さっきまでの低い声とは違う暖かな声で左近は馬を降りながら親子に問いかけた。

「…。」

親子は観念したまま震えていた。

子をかくまう腕は震えながらも、我が子を守らんとその意志が腕から見て取れた。

女はやっとまだ生きている事を実感する様に

「ありがとうございます。」

と、泣きながら子を抱いていた。

「まだまだ京には狼藉者がおると見える。外に出るときは用心せえ。」

左近は子供に降りかかった服の埃を叩きながら言った。

「本当にありがとうございます。」

女はそう言うと子供の手を取って走って去って行った。

「左近ちゃん…。」

津久見達が馬を寄せる。

「殿。未だ了以様の言う。思った以上に深刻なようですな。」

左近は刀を収めると馬にまたがりながら言った。

「うん。そうだね。角倉さんが条件に出すだけの事はありそうだね。それに…。」

津久見は先程まで親子がいた場所を見つめながら言った。

「それに、なんや治部。」

小西が聞く。

「今日に至るまで子供たちは親が目の前で殺されて来たのを見て来たかと思うと…。」

津久見は胸を痛めた。

「確かにな。そんなん見たら一生引きずってまうやろな…。」

小西が言う。

津久見はそんな小西に顔を向けて言った。

「そこで気付いたんです。」

「何をや?」

「角倉さんが言っていた、と言う言葉。私が今思った事と関係あるのではないでしょうか?」

「ん?どういうことや?」

小西は目を細めながら聞く。

「角倉さんは『子は宝』と。そんな子供たちが凄惨な現場を目撃する事に、心を痛めていたんじゃないでしょか?」

「なるほど。」

小西は言うがまだピンと来ていない。

そこに

「笠でございますかな?」

左近が言った。

「そうです!恐らくその惨状で心に傷を負った子供達を想って…。」

「なるほど。せやから了以殿はあんなこと言うてたんか…。」

小西は腑に落ちた様子で言う。

「だとすると、大館さんの甲冑だけじゃ納得されないかもしれない…。」

津久見は少し落胆したように顔を落し言う。

「…。」

小西も同じく顔を落した。

コツコツ。

空しく馬の足音だけが響く。

すると一頭の馬が歩みを止めた。

左近であった。

「あ。殿。私少し思い当たる者が…。」

「え!?」

慌てて津久見は馬を止めた。

「え、左近ちゃんどういう事???」

「ふふふ。」

左近がニヒル笑みを浮かべる。

「ちょ!!何もったいぶってんの!!!」

「ぷっ。」

小西が噴き出す。

「まあ、教えて差し上げても良いですが…。」

左近の左の口角が上がる。

「遊ばないでくれる。」

津久見は目を細めながら言う。

「はあ、まあちょっとここから距離はりますが、うってつけの者がおりまする。」

「どこ?」

「福知山でございます。」

「福知山!??」

津久見と小西は声を揃えて言った。

「私の娘婿でございます。」

「娘婿!!!???」

津久見は一斉に押し寄せる情報に頭がパンクしかけ馬にもたれかかった。
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