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75話
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平岡の働きにより、秀信は枚方宿から来た医者と共に駕籠にゆられながら、枚方宿の医者の屋敷に運ばれた。
「殿。一応は大丈夫でございましょう。」
左近が言う。
「うん。」
津久見の声は淡泊だった。
くないに掘られた家紋への衝撃のせいか、心が無になりかけていた。
手には秀信の傷口に当てていた血に染まった布が握りしめられていた。
(秀信さん…)
「左近ちゃん。大坂へ急ごう。」
「そうですな。くないの件も気になりますしな。」
「うん。」
と、津久見は答えるとシップに跨った。
秀信の付き添いには平岡を置いていく事にし、左近と喜内の三人で大坂に走り出した。
______________________________________
夜の闇が一段と深くなった頃、津久見一行は大坂へ到着した。
「殿。私はちと調べておきたいことがありますので失礼つかまつる。」
「あ、うん。分かった。今日はありがとうね。」
「…。」
左近は照れる仕草を隠し闇夜に消えて行った。
「喜内さん。」
と、津久見は喜内を呼んだ。
「は。」
「ちょっと、お願いが…。」
「あの~ちょっと書簡があってよく分からないんで、一緒に読んでもらえますか?」
「はい?????」
「いいからいいから。」
と、喜内を強引に石田屋敷に連れ込んだ。
「殿、書簡とは?」
「これです。」
津久見は屋敷の奥の間で、その書簡を大事そうに開いた。
「これですね…。ええっと…。」
「読めます?」
「え?殿読めないんですか?」
「いや、あの疲れ目?霞んじゃって。」
「左様でございまするか。」
「ちょっとゆっくり読んでもらっていい?」
「かしこまりました。」
と、喜内はその書を手に持ち書に書かれている文字を読み始めた。
「『羽柴筑前守《ちくぜんのかみ》…。これは太閤様への書簡でございますか?」
と、喜内は驚きながら言う。
「うん。続けて。」
「は、はい。」
喜内は畏まりながら続けた。
備中高松城の水攻めの時の書簡であった。
備中高松城の戦い
天正10年(1582年)に織田信長の命を受けた家臣の羽柴秀吉が毛利氏配下の清水宗治の守備する備中高松城を攻略した戦いである。
秀吉は高松城を水攻めによって包囲したことから、『高松城の水攻め』とも呼ばれる。
水攻めの最中に主君である織田信長が明智光秀に討たれる本能寺の変が起きた。
その報を聞いた秀吉はただちに毛利方と和睦を結んで、城主・清水宗治の切腹を見届けた後、明智光秀を討つために軍を姫路へ引き返した。
これが津久見の知っている備中高松城攻めだ。
その最中に敵方の安国寺恵瓊から秀吉宛ての書簡である。
喜内は読み進めるとその手は震え口は空きっぱなしになっていた。
「と、と、殿、これは…。」
「なるほど。全貌が解明されてきましたね。」
「殿。するとこれが切り札で?」
「うん。今のところはこれしかないよ。」
「なるほど…。でもこれであの坊主喰い下がりますかね?」
「分からない。」
津久見は素直に答えた。
「それに…。」
と、津久見は横に置いておいたくないを見ながら言った。
「これが、本当だったら、もうダメかもしれないけど…。」
「ああ。それですか…。もう何が何だか…。」
喜内は首を垂れ下げながら言う。
と、そこに
「御免。」
と、左近の声が聞こえた。
「あ、左近ちゃん。」
後ろにはせんもいた。
「何か分かりました?」
「はい。事の真相。このせんが大いに働いてくれましたぞ。」
と、せんの方を向いて言った。
せんは少し照れながら下を向いた。
「事の真相?」
「はい。あの枚方宿での襲撃…。」
左近はせんの報告と共に津久見に全て報告した。
「なんと!!!……。」
津久見は唇を噛みしめながら言った。
「殿。明日は絶対に負けられませぬな。」
「うん。」
それから津久見達は明日の大坂会議の段取りを話し合った。
話し終え、津久見は立ち上がると血に染みた布を握りしめ中には出る。
月を眺めた。
(許さない。秀信さんをあんな目に…。絶対に負けられない…。)
月を眺めるその目は鋭く、気迫に満ちていた。
_____________________________________
夜が明け、各大名はまた大坂城の広間に集まっていた。
最後に津久見が部屋に入り、定位置に座る。
すると郡《こおり》が言う。
「では皆さま第二回の会議を開始いたしましょう。」
決戦の火蓋が切り落とされた。
完
「殿。一応は大丈夫でございましょう。」
左近が言う。
「うん。」
津久見の声は淡泊だった。
くないに掘られた家紋への衝撃のせいか、心が無になりかけていた。
手には秀信の傷口に当てていた血に染まった布が握りしめられていた。
(秀信さん…)
「左近ちゃん。大坂へ急ごう。」
「そうですな。くないの件も気になりますしな。」
「うん。」
と、津久見は答えるとシップに跨った。
秀信の付き添いには平岡を置いていく事にし、左近と喜内の三人で大坂に走り出した。
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夜の闇が一段と深くなった頃、津久見一行は大坂へ到着した。
「殿。私はちと調べておきたいことがありますので失礼つかまつる。」
「あ、うん。分かった。今日はありがとうね。」
「…。」
左近は照れる仕草を隠し闇夜に消えて行った。
「喜内さん。」
と、津久見は喜内を呼んだ。
「は。」
「ちょっと、お願いが…。」
「あの~ちょっと書簡があってよく分からないんで、一緒に読んでもらえますか?」
「はい?????」
「いいからいいから。」
と、喜内を強引に石田屋敷に連れ込んだ。
「殿、書簡とは?」
「これです。」
津久見は屋敷の奥の間で、その書簡を大事そうに開いた。
「これですね…。ええっと…。」
「読めます?」
「え?殿読めないんですか?」
「いや、あの疲れ目?霞んじゃって。」
「左様でございまするか。」
「ちょっとゆっくり読んでもらっていい?」
「かしこまりました。」
と、喜内はその書を手に持ち書に書かれている文字を読み始めた。
「『羽柴筑前守《ちくぜんのかみ》…。これは太閤様への書簡でございますか?」
と、喜内は驚きながら言う。
「うん。続けて。」
「は、はい。」
喜内は畏まりながら続けた。
備中高松城の水攻めの時の書簡であった。
備中高松城の戦い
天正10年(1582年)に織田信長の命を受けた家臣の羽柴秀吉が毛利氏配下の清水宗治の守備する備中高松城を攻略した戦いである。
秀吉は高松城を水攻めによって包囲したことから、『高松城の水攻め』とも呼ばれる。
水攻めの最中に主君である織田信長が明智光秀に討たれる本能寺の変が起きた。
その報を聞いた秀吉はただちに毛利方と和睦を結んで、城主・清水宗治の切腹を見届けた後、明智光秀を討つために軍を姫路へ引き返した。
これが津久見の知っている備中高松城攻めだ。
その最中に敵方の安国寺恵瓊から秀吉宛ての書簡である。
喜内は読み進めるとその手は震え口は空きっぱなしになっていた。
「と、と、殿、これは…。」
「なるほど。全貌が解明されてきましたね。」
「殿。するとこれが切り札で?」
「うん。今のところはこれしかないよ。」
「なるほど…。でもこれであの坊主喰い下がりますかね?」
「分からない。」
津久見は素直に答えた。
「それに…。」
と、津久見は横に置いておいたくないを見ながら言った。
「これが、本当だったら、もうダメかもしれないけど…。」
「ああ。それですか…。もう何が何だか…。」
喜内は首を垂れ下げながら言う。
と、そこに
「御免。」
と、左近の声が聞こえた。
「あ、左近ちゃん。」
後ろにはせんもいた。
「何か分かりました?」
「はい。事の真相。このせんが大いに働いてくれましたぞ。」
と、せんの方を向いて言った。
せんは少し照れながら下を向いた。
「事の真相?」
「はい。あの枚方宿での襲撃…。」
左近はせんの報告と共に津久見に全て報告した。
「なんと!!!……。」
津久見は唇を噛みしめながら言った。
「殿。明日は絶対に負けられませぬな。」
「うん。」
それから津久見達は明日の大坂会議の段取りを話し合った。
話し終え、津久見は立ち上がると血に染みた布を握りしめ中には出る。
月を眺めた。
(許さない。秀信さんをあんな目に…。絶対に負けられない…。)
月を眺めるその目は鋭く、気迫に満ちていた。
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夜が明け、各大名はまた大坂城の広間に集まっていた。
最後に津久見が部屋に入り、定位置に座る。
すると郡《こおり》が言う。
「では皆さま第二回の会議を開始いたしましょう。」
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