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66話

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ちゅんちゅん。

小鳥のさえずりで津久見は目を覚ました。

昨日の緊張と安国寺恵瓊という強敵の出現で、会議終わりからの記憶がほとんどないくらい疲れて泥の様に寝ていた。

「ふわ~」

と、津久見は口を手で押さえながら言うが頭の中では

(あの安国寺恵瓊っていう人…)

起きてもすぐその事が頭に浮かんで仕方が無かった。

軽い朝餉《あさげ》を済ますと外から自分を呼ぶ声がした。

「殿~。」

横山喜内《よこやまきない》の声であった。

急いで支度を済ませ、外に出るとそこにはいつもの面々と秀信の姿があった。

「治部殿、おはようございます!」

秀信が元気な声で言って来た。

「あ、秀信さん。おはようございます。」

「さん?」

秀信は頭を斜めにし、怪訝な顔をしたがすぐに

「では行きましょう!今日お会いして頂く方は、私が大好きな御仁でございます!」

元気に言う。

「そうですか。楽しみですね。」

「殿、こちらへ。」

平岡がシップを引いて手綱を渡す。

「ありがとう。平岡ちゃん。」

「いえ。」

平岡もちゃん呼ばわりに何も抵抗は無い。

津久見は颯爽とシップに跨ると、他の者も馬に乗る。

「ではこちらです。」

秀信がゆっくりと先に進む。

皆が馬の歩みを進めた。

すると左近が津久見に馬を寄せて

「殿。次の会議までに安国寺恵瓊がどの様に動くか分かりませぬので、一応忍びを何人か安国寺の宿舎に見張らせておりまする。」

と、小声で言った。

「そうですか。ありがとうございます。あの人の事ですから、また何かやって来そうですもんね…。」

「左様でございます。ですので、こちらも何か手を打たねばならないのに、岐阜殿と京へ行くというのは、私はいささか…。」

左近が言い終わる前に津久見は言った。

「秀信さんは昨日私を助けてくれました。助けてくれた人のお誘いを無下に断る事はできません。」

「しかし…。」

「いいじゃないですか。京。楽しそうだし!」

目を輝かす津久見に左近はも何も言えなかった。

(また純真が始まったか…。)

左近はそう思うと、秀信に向かって言った。

「岐阜殿。京はどちらへ?」

「ああ。左近殿。京は京でも外れの方です。」

「外れ?」

「はい。もうその方は長らくご隠居の身なので。」

「ご隠居?どちら様で?」

「会ってからの楽しみにしててください。多分左近殿もお名前だけは聞いたことあると思いますよ。」

「はあ。」

左近は目をキラキラさせる秀信に

(岐阜殿のこんな笑顔を見たのは初めてじゃ)

と、思いながら秀信の顔を見直した。

「ちょっと遠いので、飛ばしますよ~皆さんついて来てくださいね!!!」

秀信は後ろを振り返りながら言うと、馬に鞭を入れて加速していった。

「いやはや…何かと元気なお方で…。」

喜内はそう言うと負けじと馬を走らせた。

(何か平和だな~)

と津久見は思いながらシップに鞭を入れた。

______________________________


どれくらい走ったであろうか。

途中茶屋には寄ったが、津久見の思うな京の街を見ることは無かった。

というのも、秀信は近道なのか、山間を縫うように猛スピードで走って来たのである。

「お!川だ!!もう少しです!あの橋を渡った先の竹林の方です。」

と、秀信は前面に広がる川を指さし言う。

(川?橋?)

と、津久見は覗き込むように前を見る。

(ん????何か、見た事ある??)

5人は橋を渡り始める。

津久見はふと橋の麓に目をやり感嘆の声をこぼした。

そこには

「渡月橋」

と書いてあった。

(ってことはここ、嵐山か!!!!!)

と、津久見は現実世界でも何度か訪れたここ嵐山の400年前の景色に感動していた。

(いや、綺麗だな~建物も少ないし)

川と山のコントラストに心躍らす、津久見に秀信が言った。

「治部殿。今日お会いさせたいお方なんですがね…。」

「え?はい。」

「ちょっと、何と言うか、癖が強いというか、私は好きなんですがね…。」

「あ、秀信さん。黒田さんとか、加藤さんとか癖強めな人と会って来たんで、私結構免疫あるんで大丈夫だと思いますよ。」

津久見は自信ありげに言う。

「本当ですか!良かった~。あ、ここは天龍寺です。って、知ってますよね。」

と、秀信は寺を指さし言う。

寺の前にはほうきで掃除をしている若い坊主が何人かいた。

(あ~~~~!!!!天龍寺だ~~~~!!!!お庭の綺麗なとこ!!!!)

津久見は目を輝かせ体を振りながらどうにか中庭を見ようとしたが、一行は止まる雰囲気を見せず、津久見は断念した。

(いや、ほんと時間あったら色々見たいな~。)

と、何かを思い浮かべながら空を見た。

(三十三間堂でしょ。それに平安神宮。それに先斗町《ぽんとちょう》に、蛤御門《はまぐりごもん》に…池田屋!!!)

日本史の教師をしているのに津久見は時代のバラバラな京都の観光名所を思い浮かべていた。

と、そこに

「着きました。このお屋敷です。」

秀信が馬を止めて言う。

津久見は、はっと我に戻って屋敷を見た。

竹林の中にポツンとある、決して優美な屋敷とは言えない屋敷であった。

「ここですか…。」

津久見は少し落胆したように言った。

すると、屋敷の中から

「びゅっ!びゅっ!」

と、何やら音がする。

「ちょっと先に行って来ますね。」

と、秀信は言うと屋敷の扉を開いた。

「御免!!」

秀信の威勢の良い声だけが聞こえる。

すると先程聞こえた音が止んだ。

「お!!!!!!!!三法師様じゃないか~!!!」

図太い声が聞こえた。

「ちょっと、牛一様。あなただけですよその名前で呼んでるの!!」

姿は見えないが、屋敷の中庭での声が聞こえる。

「がはははははは。」

「今日はお会いさせたい方を連れてまいりましたので。」

「ん??誰じゃ?」

「まあまあ。」

と、秀信が言うと、また屋敷の前に現れ、

「皆さまお越しください!!!!」

と、大きく手を振る。

「何やら楽しそうですな…。」

と左近は津久見に、言いながら馬を降りる。

(牛一?誰だろ…)

津久見は考えながら馬を降り、屋敷の前に立ち中を見た。

そこには秀信と上半身汗だくで竹刀を握る老人が立っていた。

顔の割に筋肉が隆々としている。

(おっと。こういう人何人も見て来たから全然大丈夫。)

津久見は安心した。

「牛一様。こちらが石田治…。」

と、秀信が言おうとすると、老人は竹刀を地面に落とし、津久見に寄って来た。

(な、な、な、何?でもこういうのも何回かあったし…)

老人は津久見の両肩を鷲掴みして言った。

「石田治部少輔三成!!!何故生きておる!!!!???」

(え!?)

津久見は老人にもたれかかるように気絶した。

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