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第60話
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「ふう。良く寝たな~」
身体を伸ばして津久見はそう言った。
そして自分の手のひらを見て、脚を見て、自分が石田三成である事を確認した。
それが彼の日課でああた。
『自分は石田三成なんだ。そして日本を二つに分けてしまった』
と、考えるまでが彼の一日の始まりであった。
外の廊下から足音が聞こえた。
(左近ちゃんかな)
津久見はそう思うと、衣服を改める。
「殿。左近でござる。」
「おはよう。左近ちゃん。どうぞ。」
「御免。」
と、左近が入って来た。
「広間に続々と諸大名集まってきてござる。」
「そうでござるか。」
と、左近の言い様を真似し津久見は答えた。
「何やら刑部様が先立ってお話がしたいとか…。」
左近が神妙な面持ちで言う。
「大谷さんが?」
「はい。恐らく我々の九州遠征中に何やら動きがあったかもしれませぬな。」
「そうですね。逆に無い方が可笑しい位ですよ」
と津久見は覇を見せて笑った。
「殿…?」
「なるようにしかなりませんよ。」
「…。」
「でも、僕の信念は断じて折れません。」
津久見は支度を終えるとそう言いながら、部屋を出た。
後に続く左近が聞く。
「信念…とは?」
そそくさと歩く津久見は振り返りもせずに
「戦の無い世ですよ。」
と、言うと階段を降りて行った。
大坂にある石田三成に用意された屋敷は今の大坂で言う谷町6丁目辺りであった。
平岡が屋敷の前で既に馬シップを引き準備をしていた。
「平岡ちゃん。おはよう。」
「殿!おはようございまする。」
「今日は冷えますね。」
「そうでございまするな。お身体は?」
「大丈夫ですよ。さて行きましょうか。」
こんな日常会話でも、一言一言が平岡には感動であった。
「はい!!!」
と、平岡は元気良く返事をした。
程なくすると、大阪城に着き、城内に入る。
ここからは、左近と二人である。
大手門から城内に入る前の門に、数人の列ができていた。
その脇にある庭園には、何十人もの兵がたむろしている。
諸大名の、大坂居残りの兵であろうか。
門の前に立っているのは増田長盛ましたながおりであった。
本日行わる、会議の出欠でも取っているようであった。
「小早川様。」
「うむ。」
「どうぞ、中にお入りください。」
「吉川様…」
と、諸大名の名を呼んでは中に誘っていく。
それを見ていた津久見に後ろから声を掛けてきた男がいた。
「治部よ。久しぶりじゃ。逢いたかったぞ。」
振り返ってみると、大谷吉継であった。
「大谷さん!!!!!」
と、咄嗟に津久見は吉継の手を支えるように肩を掴んだ。
「お久しぶりです。あ~逢いたかった~。」
「わしもじゃ。」
「お身体は大丈夫なんですか!?」
と、津久見は吉継の身体を下から上に見て言った。
「うぬ。まあ、冬になればなるほど、体に応えるわい。」
「無理をしないでください。私には吉継さんしか…。」
「治部よ。聞け。時間が無い。」
遮るように大谷吉継は言う。
「お主のおらぬ間、大阪城内はいささか問題があった。」
「問題??」
「うむ。まあ、諸々の問題はわしが解決したが、どうにもならんものが…。」
「なんですか?」
「毛利勢が諸大名に手を回し、派閥を形成し始めておる。」
「そうですか。毛利さん…。」
「お前の立場を守り切れるかわしにも分からん。」
「いえ、そこまでは想定内です。」
「なんと。まことか?」
「はい。私が大阪を離れれば私以外の誰かが、手を組みだすと思っていました。豊臣家を中心にと言えど、所詮はどの大名家も私利私欲に走るものです。だから…。」
と、津久見は門の前を見た。
門の前は少し揉めていた。
増田が動揺しているのが目に見える。
「名簿にござらんので…。」
「うるさい!!!わしは太閤様の子飼いの武将じゃぞ!長盛!」
「清正殿~」
と、増田長盛は根を上げながら、三成を見つけると助けを求めるように、三成を見つめた。
津久見は手で合図を出し、『入れてやれ』と言った感じで手を振った。
長盛は渋々加藤清正を入城させた。
「九州遠征はなかなか有意義なものになりました。」
吉継の方を振り返りながら、津久見は言った。
「清正を連れて来たか…はははは。お主が清正とはな。」
と、大谷吉継は少し感心しながら笑った。
「大谷さん。」
「なんじゃ。」
「全力で戦います。」
「うむ。全力で支えるわい。」
と、二人は握手すると、門の列に二人して並んだ。
津久見の最大の戦いがここから始まるのであった。
第60話 完
身体を伸ばして津久見はそう言った。
そして自分の手のひらを見て、脚を見て、自分が石田三成である事を確認した。
それが彼の日課でああた。
『自分は石田三成なんだ。そして日本を二つに分けてしまった』
と、考えるまでが彼の一日の始まりであった。
外の廊下から足音が聞こえた。
(左近ちゃんかな)
津久見はそう思うと、衣服を改める。
「殿。左近でござる。」
「おはよう。左近ちゃん。どうぞ。」
「御免。」
と、左近が入って来た。
「広間に続々と諸大名集まってきてござる。」
「そうでござるか。」
と、左近の言い様を真似し津久見は答えた。
「何やら刑部様が先立ってお話がしたいとか…。」
左近が神妙な面持ちで言う。
「大谷さんが?」
「はい。恐らく我々の九州遠征中に何やら動きがあったかもしれませぬな。」
「そうですね。逆に無い方が可笑しい位ですよ」
と津久見は覇を見せて笑った。
「殿…?」
「なるようにしかなりませんよ。」
「…。」
「でも、僕の信念は断じて折れません。」
津久見は支度を終えるとそう言いながら、部屋を出た。
後に続く左近が聞く。
「信念…とは?」
そそくさと歩く津久見は振り返りもせずに
「戦の無い世ですよ。」
と、言うと階段を降りて行った。
大坂にある石田三成に用意された屋敷は今の大坂で言う谷町6丁目辺りであった。
平岡が屋敷の前で既に馬シップを引き準備をしていた。
「平岡ちゃん。おはよう。」
「殿!おはようございまする。」
「今日は冷えますね。」
「そうでございまするな。お身体は?」
「大丈夫ですよ。さて行きましょうか。」
こんな日常会話でも、一言一言が平岡には感動であった。
「はい!!!」
と、平岡は元気良く返事をした。
程なくすると、大阪城に着き、城内に入る。
ここからは、左近と二人である。
大手門から城内に入る前の門に、数人の列ができていた。
その脇にある庭園には、何十人もの兵がたむろしている。
諸大名の、大坂居残りの兵であろうか。
門の前に立っているのは増田長盛ましたながおりであった。
本日行わる、会議の出欠でも取っているようであった。
「小早川様。」
「うむ。」
「どうぞ、中にお入りください。」
「吉川様…」
と、諸大名の名を呼んでは中に誘っていく。
それを見ていた津久見に後ろから声を掛けてきた男がいた。
「治部よ。久しぶりじゃ。逢いたかったぞ。」
振り返ってみると、大谷吉継であった。
「大谷さん!!!!!」
と、咄嗟に津久見は吉継の手を支えるように肩を掴んだ。
「お久しぶりです。あ~逢いたかった~。」
「わしもじゃ。」
「お身体は大丈夫なんですか!?」
と、津久見は吉継の身体を下から上に見て言った。
「うぬ。まあ、冬になればなるほど、体に応えるわい。」
「無理をしないでください。私には吉継さんしか…。」
「治部よ。聞け。時間が無い。」
遮るように大谷吉継は言う。
「お主のおらぬ間、大阪城内はいささか問題があった。」
「問題??」
「うむ。まあ、諸々の問題はわしが解決したが、どうにもならんものが…。」
「なんですか?」
「毛利勢が諸大名に手を回し、派閥を形成し始めておる。」
「そうですか。毛利さん…。」
「お前の立場を守り切れるかわしにも分からん。」
「いえ、そこまでは想定内です。」
「なんと。まことか?」
「はい。私が大阪を離れれば私以外の誰かが、手を組みだすと思っていました。豊臣家を中心にと言えど、所詮はどの大名家も私利私欲に走るものです。だから…。」
と、津久見は門の前を見た。
門の前は少し揉めていた。
増田が動揺しているのが目に見える。
「名簿にござらんので…。」
「うるさい!!!わしは太閤様の子飼いの武将じゃぞ!長盛!」
「清正殿~」
と、増田長盛は根を上げながら、三成を見つけると助けを求めるように、三成を見つめた。
津久見は手で合図を出し、『入れてやれ』と言った感じで手を振った。
長盛は渋々加藤清正を入城させた。
「九州遠征はなかなか有意義なものになりました。」
吉継の方を振り返りながら、津久見は言った。
「清正を連れて来たか…はははは。お主が清正とはな。」
と、大谷吉継は少し感心しながら笑った。
「大谷さん。」
「なんじゃ。」
「全力で戦います。」
「うむ。全力で支えるわい。」
と、二人は握手すると、門の列に二人して並んだ。
津久見の最大の戦いがここから始まるのであった。
第60話 完
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