天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志

文字の大きさ
33 / 102

第30話

しおりを挟む
「ささ、こちらでございます。」



「うむ。」



大垣城の大広間の前の廊下を左近は、小姓に案内され歩いていた。



その肩には、津久見の姿があった。



未だに、気絶している。



その津久見の顔に、喜内がチョンと触れる。



「ほんとに気絶してらっしゃるの。」

「喜内様おやめくだされ!!!」

平岡が制する。



この好奇心旺盛な男は、どこか憎めない。

時折見せる、子供の様な無邪気な一面。

それとは打って変わったような、宇喜多勢への魂の咆哮。



平岡は側にいながら、この男が大好きになっていた。



いやそれ以上に、左近・喜内・平岡の三人は、石田三成という男にドンドン惚れ込んでいった。



「戦の無い世。民百姓達が笑顔で暮らせる世」



そんな事は、思っていても、実際は敵対する勢力を倒したその先にあるものだと、思っていたが、三成の出した策はそれを凌駕する、『停戦。そして、天竜川を境に領国経営をする』。こんな突飛な考えは誰も予想していなかった。



大広間の前に着くと、左近は雑に津久見を降ろし、廊下の壁にもたれかけさせる。



「よし、ではやるかの。」



津久見の顔に手を添え、大きく振りかざす。



「パン!」

「いた!!」

「お目覚めでございますか?」

「痛っ。あ、左近ちゃん」

「大垣城でございます。」

「え、着いたの?」

「はい。この襖の先に諸大名がこぞって待っておられます。」

「あ、うん。てか、もう躊躇なく喋るよね。」

「どうもできませぬ故。」

「ま、良いんだけどね。すぐ気絶しちゃう俺が悪いから。むしろいつもありがとね。」



津久見は言いながら立ち上がると、乱れた袴を直す。

「さあ、行こうか。」

と、襖に手をかける。



「ガラっ」

と、襖を開けると、十数名の武将たちが座っている。



誰が誰だかは分からない。



ただ、皆…。



いかつい。



津久見は、咄嗟に自分が座るところが分かった。



上座である。



居並ぶ諸将も、一応の手前、三成は上座に座るものと考え、それに対面するように、連なって座っていた。



津久見は、諸将の顔を見ながら、上座につこうとした。



が、体を反転させ、諸将に近づいて行った。



そして、



「なんか緊張しちゃうんで、円になりません?」



と、一人あぐらをかいて座った。



諸将は驚く。



「ささ!」

と、津久見は両手で円を描くように、諸将を誘った。



困惑する諸将たちだが、一人の男が声をあげた。



「治部殿!面白いことを言う。そしたら、そうしよう。」



島津義弘であった。



「あ、島津のおっちゃん!」



と、気さくに津久見は言う。



(おっちゃんありがとう…。)



津久見はあの戦の最中での島津隊の咆哮を思い出し思った。



薩摩の猛将の言葉に、渋々他の将達も、円を描くように座った。



「ありがとうございます。」



津久見は深く頭を落とす。



「治部殿!??」



と、諸将は驚いた。



いつも高慢な態度で嫌われている三成が、何か様子が違う。



島津義弘は笑顔でそれを見ていた。



そんな中、ある男が切り出した。



「して、治部殿。勝手に停戦の触れを出し、ここ大垣城に戻って来るとは、いかがなもので。」



(誰!?)



「憎き、家康を討ち、豊臣家の為にこの戦を始めたのはお主であろう。」



(あ~、淀君の使者って人か。)



「お主に一応、西軍の指揮を取らせてはおったが、まさかの出来事に、淀様大変驚かれ、お怒りなられておりまするぞ。」



(だよな。そう来るよな…)



「淀様のお怒りは留まるところなく、治部殿に切腹をと言い始めておりまする。」



広間がざわつき始めた。



喜内は、その言葉を聞くと、怒りから立ち上がろうとしていたが、左近に腕を抑えられ、留まった。

その左近の顔も怒りの形相であった。



「聞くところによると、なんとも形勢は有利だったとか。それなのに、停戦とは。

もしやお主。家康と手を組んでおったのではないか?」



「何!?」



広間が更にざわつく。



「治部殿!何か言われよ!」



痺れを切らした、諸将が問い詰める。



津久見は諸将を見回し

「そんな事はありません。」

と言った。

すぐさま、淀の使者は

「では何故、家康と二人で真禅院でお話を?」

「それは…。」

「二人で話し合い、裏切った上で、大阪城に攻め込むと、でも話合われたか!?」

「そんな!」

「はっきり仰い!!!家康にどれほどの領土で抱え込まれか!!!」

「そんな!違う!!!」



使者は、津久見に話す隙を与えず、喋り続ける。



圧に押され、言葉を発せられずにいた。





すると、広間の外の廊下から声が聞こえた。





「なんとも都合の良い話じゃ。」





皆そちらを見る。



広間の襖が、ゆっくりと開く。



「すまぬの。調子が悪く、ちと遅れたわ。治部よ。」



そこには両脇を抱えられた、大谷吉継の姿があった。



第30話完

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全
歴史・時代
 西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。  幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。  北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。  清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。  色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。 一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。 印旛沼開拓は成功するのか? 蝦夷開拓は成功するのか? オロシャとは戦争になるのか? 蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか? それともオロシャになるのか? 西洋帆船は導入されるのか? 幕府は開国に踏み切れるのか? アイヌとの関係はどうなるのか? 幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

処理中です...