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ルーファスSide
自覚
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レニドール殿下を見る度、いつも元気が無いように思う。理由は、あの心無い噂だろう。パルムに師事する彼はひたむきで、王族なのに隊員に対しても謙虚で胸が詰まる。
「殿下、お手合わせをお願いしてもよろしいですか?」
「っ! たのむ」
嬉しそうにふわりと笑い、駆け寄ってくる殿下がとても可愛い。馴れると懐に入ってくる小動物のようだ。
彼を放っておけなくて、構いたくて、訓練で一緒になるときはいつもそばにいるようにした。
たまに手が鞭で打たれたように赤くなっているのを見て、激高したものだ。殿下の教育係は本当に許せない。
ある時訓練場の影で蹲って泣いている殿下を見かけ、焦って駆け寄った。
「殿下っどうなさいました! ご気分でも悪いのですか!?」
「ルー……ファス?」
あぁ……神秘の瞳から清水が溢れ出している……。殿下の頬を流れる涙を指で拭う。
「どうされたのですか? 私でよければおっしゃって下さい」
「……ルー……俺、不義の子、なのかなぁ……? 父上にも、母上にも、誰にも似てない、不義の子っ……」
「……誰にそんな事言われたんですか」
あまりの酷い言葉に、殿下が悪いわけではないのに、恐ろしく低い声が出た。
「……っ!」
殿下はビクリと肩を震わす。あぁ、傷ついているのに怖がらせてしまった!
「先生に……。物覚えが悪いのも、両親に似てないのも……不義の子、だからじゃないかって……眼の色も髪の毛の色も王族の特徴じゃないって……ひっく」
そいつはクビだな。父上に報告して、陛下へ進言してもらおう。
「今日は訓練はお休みしましょう。殿下は私に付いてきて下さい。」
私はパルムに事情を話して殿下を連れ出し、王宮へ向かった。擦ったのか、目元が赤くなり少し腫れている。
お可哀想に……。
王宮宝物殿の前室に着いた。
「この部屋は宝物殿に繋がっており、王族しか入れません。殿下、扉に手を翳して下さい」
「……うん」
宝物殿前室の扉に手を翳してもらうと、結界が反応して鍵が解かれた。殿下に入室を促し、ある絵の前に足を止める。
「殿下、この絵をご覧下さい」
ある王族一家の肖像画を指す。先々代の王弟の嫡男であり故人であるお方。
「……っ! この人……」
「そうです。陛下の従兄弟にあたるお方で、残念ながら故人ですが、殿下の髪色と同じでしょう? ほら、こちらもご覧下さい」
また別の絵の前へ行く。そこにもまた、金茶色の髪の肖像画がある。
「……っ」
「殿下の髪色は三代前に南の隣国から嫁いで来た王女と同じです。紫の瞳は精霊を祖先に持つ、エウレニア公爵家から稀に産まれる特徴らしいです」
「ん……眼の事は、母上から教えられたけど……父上と血が繋がっているかはわからなかったから……」
「そもそもですが、この部屋は王族の血が入っていないと結界があるので扉が開きません」
「そっそうなのか! 知らなかった!」
「貴方は精霊の血も受け継いだ、れっきとした王族。素晴らしいお血筋なのです。もっと誇りに思って下さい。貴方を貶める事は誰にも出来ません」
殿下の瞳から大きな粒がポロポロ溢れ落ちる。
「そっかぁ……よかった……。ちゃんと父上と母上の子だったんだ……よかったぁ」
殿下は王族であったというより、陛下とご母堂との子であるという事に安堵したようで、私は胸が締め付けられた。
この方をお守りしたい、笑顔にさせたい、幸せにしたい。
愛しさが溢れ、込み上げて華奢な身体を抱きしめた。胸でぐすぐすと泣く殿下の髪を暫く撫でてあげると落ち着いたようだ。
「ルーファス、教えてくれてありがとう」
「貴方はもっと自身を持っていいんです。さ、落ち着いたら戻りますよ。明日から訓練再開しましょう」
「うん、明日も手合わせ頼むな」
「ふふ、御意に」
元気を取り戻した殿下は、その後心無い噂に傷つく事が少なくなったように思う。たまに落ち込んでいるのを見かけた時は愚痴を聞いたり、頭を撫でてあげる。気軽に身体に触れてはいけないのだが。本人は表情に出さないようにしているが、嬉しそうだからいいのだ。
あの後すぐに殿下の教育係や侍従やらは入れ替えになったとか。
殿下はどんどん麗しく成長していき、剣の腕も騎士団の中では上位になっていった。
「次お願いします!」
次々と歩兵隊員をなぎ倒していく。
「……殿下、もう立てる者がおりません。隊員達に少し休憩を下さい……」
「……むう……わかった」
殿下は御年十三で、すでに剣の腕がパルムの次になってしまったのだ。殿下のお相手をして立っていられるのは、この訓練場ではパルムと、殿下といつも剣を交えている私しかいない。
休憩所で水分を補給していると、
「いやー、わざと負けるのもしんどいな」
「ははっ王族に華を持たせるのも騎士の務めだろ」
「王族に合わせる俺達優しいー」
先輩にあたる隊員達が、平凡だとバカにされている殿下にコテンパンにやられて悔しいのか、下卑た笑いをしながら負け惜しみを言っている。実力の差は明らかなのに、よく平気でそんな嘘が言えるな。反吐が出る。
休憩所を出ると殿下の後姿が……。
「……殿下」
「……っルーファス……。俺、剣の腕はまだまだだから、本気になってもらえるよう頑張るなっ」
彼は振り返ると泣きそうな顔で無理に笑う。
「あんな者達の言葉真に受けないで下さい! 貴方以上に強い者はもうパルム以外いないのですから!」
「へへ、ありがとう……。ルーファスは相変わらず優しいな」
本当の事を言ってもお世辞だと思われている。私は殿下にはお世辞も嘘もついたこともないのに。たまらずに殿下を抱きしめた。
「……っルーファス……」
殿下は腕の中でピクリと動く。
抱きしめたはいいが不味い事になった。
「殿下、お手合わせをお願いしてもよろしいですか?」
「っ! たのむ」
嬉しそうにふわりと笑い、駆け寄ってくる殿下がとても可愛い。馴れると懐に入ってくる小動物のようだ。
彼を放っておけなくて、構いたくて、訓練で一緒になるときはいつもそばにいるようにした。
たまに手が鞭で打たれたように赤くなっているのを見て、激高したものだ。殿下の教育係は本当に許せない。
ある時訓練場の影で蹲って泣いている殿下を見かけ、焦って駆け寄った。
「殿下っどうなさいました! ご気分でも悪いのですか!?」
「ルー……ファス?」
あぁ……神秘の瞳から清水が溢れ出している……。殿下の頬を流れる涙を指で拭う。
「どうされたのですか? 私でよければおっしゃって下さい」
「……ルー……俺、不義の子、なのかなぁ……? 父上にも、母上にも、誰にも似てない、不義の子っ……」
「……誰にそんな事言われたんですか」
あまりの酷い言葉に、殿下が悪いわけではないのに、恐ろしく低い声が出た。
「……っ!」
殿下はビクリと肩を震わす。あぁ、傷ついているのに怖がらせてしまった!
「先生に……。物覚えが悪いのも、両親に似てないのも……不義の子、だからじゃないかって……眼の色も髪の毛の色も王族の特徴じゃないって……ひっく」
そいつはクビだな。父上に報告して、陛下へ進言してもらおう。
「今日は訓練はお休みしましょう。殿下は私に付いてきて下さい。」
私はパルムに事情を話して殿下を連れ出し、王宮へ向かった。擦ったのか、目元が赤くなり少し腫れている。
お可哀想に……。
王宮宝物殿の前室に着いた。
「この部屋は宝物殿に繋がっており、王族しか入れません。殿下、扉に手を翳して下さい」
「……うん」
宝物殿前室の扉に手を翳してもらうと、結界が反応して鍵が解かれた。殿下に入室を促し、ある絵の前に足を止める。
「殿下、この絵をご覧下さい」
ある王族一家の肖像画を指す。先々代の王弟の嫡男であり故人であるお方。
「……っ! この人……」
「そうです。陛下の従兄弟にあたるお方で、残念ながら故人ですが、殿下の髪色と同じでしょう? ほら、こちらもご覧下さい」
また別の絵の前へ行く。そこにもまた、金茶色の髪の肖像画がある。
「……っ」
「殿下の髪色は三代前に南の隣国から嫁いで来た王女と同じです。紫の瞳は精霊を祖先に持つ、エウレニア公爵家から稀に産まれる特徴らしいです」
「ん……眼の事は、母上から教えられたけど……父上と血が繋がっているかはわからなかったから……」
「そもそもですが、この部屋は王族の血が入っていないと結界があるので扉が開きません」
「そっそうなのか! 知らなかった!」
「貴方は精霊の血も受け継いだ、れっきとした王族。素晴らしいお血筋なのです。もっと誇りに思って下さい。貴方を貶める事は誰にも出来ません」
殿下の瞳から大きな粒がポロポロ溢れ落ちる。
「そっかぁ……よかった……。ちゃんと父上と母上の子だったんだ……よかったぁ」
殿下は王族であったというより、陛下とご母堂との子であるという事に安堵したようで、私は胸が締め付けられた。
この方をお守りしたい、笑顔にさせたい、幸せにしたい。
愛しさが溢れ、込み上げて華奢な身体を抱きしめた。胸でぐすぐすと泣く殿下の髪を暫く撫でてあげると落ち着いたようだ。
「ルーファス、教えてくれてありがとう」
「貴方はもっと自身を持っていいんです。さ、落ち着いたら戻りますよ。明日から訓練再開しましょう」
「うん、明日も手合わせ頼むな」
「ふふ、御意に」
元気を取り戻した殿下は、その後心無い噂に傷つく事が少なくなったように思う。たまに落ち込んでいるのを見かけた時は愚痴を聞いたり、頭を撫でてあげる。気軽に身体に触れてはいけないのだが。本人は表情に出さないようにしているが、嬉しそうだからいいのだ。
あの後すぐに殿下の教育係や侍従やらは入れ替えになったとか。
殿下はどんどん麗しく成長していき、剣の腕も騎士団の中では上位になっていった。
「次お願いします!」
次々と歩兵隊員をなぎ倒していく。
「……殿下、もう立てる者がおりません。隊員達に少し休憩を下さい……」
「……むう……わかった」
殿下は御年十三で、すでに剣の腕がパルムの次になってしまったのだ。殿下のお相手をして立っていられるのは、この訓練場ではパルムと、殿下といつも剣を交えている私しかいない。
休憩所で水分を補給していると、
「いやー、わざと負けるのもしんどいな」
「ははっ王族に華を持たせるのも騎士の務めだろ」
「王族に合わせる俺達優しいー」
先輩にあたる隊員達が、平凡だとバカにされている殿下にコテンパンにやられて悔しいのか、下卑た笑いをしながら負け惜しみを言っている。実力の差は明らかなのに、よく平気でそんな嘘が言えるな。反吐が出る。
休憩所を出ると殿下の後姿が……。
「……殿下」
「……っルーファス……。俺、剣の腕はまだまだだから、本気になってもらえるよう頑張るなっ」
彼は振り返ると泣きそうな顔で無理に笑う。
「あんな者達の言葉真に受けないで下さい! 貴方以上に強い者はもうパルム以外いないのですから!」
「へへ、ありがとう……。ルーファスは相変わらず優しいな」
本当の事を言ってもお世辞だと思われている。私は殿下にはお世辞も嘘もついたこともないのに。たまらずに殿下を抱きしめた。
「……っルーファス……」
殿下は腕の中でピクリと動く。
抱きしめたはいいが不味い事になった。
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