王子の凱旋

小野あやか

文字の大きさ
上 下
3 / 37
レニドールSide

討伐出立

しおりを挟む
一週間後、俺たちは最小限の見送りもそこそこに静かに出立した。
大々的に見送られて討伐に失敗したら、ルーファスの名誉に関わるしな。
平凡な俺が目立つのも嫌だし。

目的地は南の隣国アルハート国のさらに奥の国、ヴェルカ国の王都の中心にある城。
馬車移動や行軍なら1か月はかかるだろう。俺たちは馬と自分に身体強化と風魔法を使い、野宿をしながら高速で駆け抜けた。
隣国を横断する際に国王へ挨拶に行ったら、熱烈に歓迎され、魔物や魔王討伐に関して物凄く感謝された。
自国とのあまりの扱いの違いに、本当に戸惑った。
「王族の扱いはこれが普通ですから……。よりによってなぜ殿下が救世主などに……」
隣国王城の廊下を出口に向かいながら歩いていると、なぜかルーファスは青筋を立てながらぶつぶつと呟いた。
なんか、俺の為に怒ってくれているみたいで嬉しい……。

「んー、まあ、思い当たることが無くもない……」
「……それは、どういう……」


これといって取柄のない俺は、10歳の頃から剣神と呼ばれていた剣の達人、ヤハトの子パルムに師事していた。
パルムは当時の王国騎士団の歩兵部隊第二師団副隊長で、近衛師団含む歩兵部隊全般の剣の指南役をしていた。
パルムは平民からのたたき上げで、騎士団団長でもいいくらいの国内一の剣の腕前だったが、団長、隊長、近衛は上位貴族しか就けない。
子供で一応王族の俺に、指南役に就くことは難色を示された。そこを必死に頼みこんだ。
パルムは当時の俺の不当な扱いに同情してくれて、騎士団長経由で父に掛け合ってもらい、なんとか師事することができた。その時父に言われたのが
『剣神に師事するからには、自分の身は自分で守れるようにしろ』だ。
俺に割く護衛は無いと言われたようなもんだ。
ただパルムとの剣技の時間は、嫌なことを忘れられる唯一の癒しの時間で、のめり込んでいった。

「ふむ、レニドール殿下は筋が大変よろしいですね」

技が決まるとパルムはにこやかに褒めてくれた。今まで母以外褒められたことが無かったから、本当にうれしかった。
そしてその時に騎士見習いとして入ったルーファスと出会って親しくなった。
剣神パルムの師事のもと、ルーファスと稽古を重ね、剣の腕は兄達よりは上になった。
そのうち歩兵部隊の訓練にも参加させてもらえるようになって、それはもうがむしゃらに訓練した。

「次お願いします!」
 次々と歩兵隊員をなぎ倒していく。
「……殿下、もう立てる者がおりません。隊員達に少し休憩を下さい……」
「……むう……わかった」

副隊長に言われてあたりを見渡すと、死屍累々としている。
パルムとルーファスは平然としているが。
この時俺は13歳で、叙任式が終わった18歳のルーファスとは剣技は互角だ。
そう思っていた。この頃俺はかなり強くなったと調子に乗っていた。
騎士団に入れば俺でも役に立てるかもしれないと、自分の存在意義に希望を見出していた。
隊員たちと話がしたくて休憩室に向かうと、

「いやー、わざと負けるのもしんどいな」
「ははっ王族に華を持たせるのも騎士の務めだろ」
「王族に合わせる俺達優しいー」

俺を馬鹿にした隊員達の話声が胸に刺さった。
強くなったと思ったのは勘違いだっだ。隊員達がわざと負けてくれていたのだ。
この時わずかなプライドは粉々に砕けた。それからというもの隊員たちに追いつこうと、パルムにさらにしごいてもらった。
14歳になった時、魔力とは違う白い湯気のようなものが体に纏うようになった。
白いものは俺以外には見えていないようで……。
城の探検中、偶々罪を犯した王族が入れられるという塔の前を通った時、入り口付近にホロゴーストが佇んでいた。
まさか過去に死んだ元王族!?
俺の親族かもしれないと、複雑な気持ちでなんとなくホロゴーストに白いものを纏わせて触ってみたら、キラキラ光って浄化した。
それからは城や市街にちらほらある黒い澱みに、何となく触れると消えたりしたり。
パルムに付いて魔獣討伐に参加させてもらった時に、剣に白いものを纏わせたまま魔獣を切りつけたら、物凄い切れ味で真っ二つになった。
白いものの扱いがなんとなくわかってからは、俺は色々実験や実践を積んでいった。
武器に纏わせたり、炎や水、風魔法に練り込ませたり。
そのうち白いものが単体で魔法として行使できるようになった。これが所謂聖属性魔法なんだとか。
聖属性は澱みで穢れた魔物を殺すのに効果覿面。
神殿に行ったときに神官からなんとなく聞いた。
俺が聖属性魔法が使えるとは言ってない。

「殿下……?」

もしかしたら聖属性魔法を使える者が救世主なのかも、と考えていると、ルーファスは急に黙った俺に声かける。
「ああ……悪い。先を急ごうか」
俺たちは城を後にして先を急いだ。隣国を横断中魔物はあまり出なかったが、さすがにヴェルカ国境付近は魔物が多かった。国境付近の村は暴走した魔物の影響か、廃村が目立った。襲い掛かってくる魔物をスパスパ切り裂いていく。聖属性は便利だな。剣を使わなくても小型なら聖属性を纏わせて殴れば一発で潰れるしな。
「ルーファス、大丈夫か」
「……ええ、これくらいは何とか……」
俺みたいにスパスパとはいかないが、ルーファスも好調に魔物を殺している。
魔物を殺すルーファスの姿が尊い……。
それにしても……敵の歯ごたえがない。
ヴェルカ国王城にいる魔王に近づけば、比例して強くなっていくのだろうか?
二人きりの無茶な魔王討伐旅にルーファスを巻き込んでしまって、若干罪悪感があったけど、この分だと王城までは余裕そうだな。
ヴェルカ国は花の都と呼ばれるほど、安定した温暖気候に花が咲き乱れる美しい国だった。
国境から国に入ると、眼前に広がるのは崩れた村の残骸に、葬られることのない人々の遺骸…。
襲われた時に出火したのか、あちこちに炎が燻っている。
国中が燃え、灰と煙のせいなのか空は赤黒かった。

「酷い……」
「……他の国に被害が広がらないうちに急いで討伐しましょう……」
「そう……だな……」

魔物の手ごたえがないとは思ったが、眼前の光景を見ると魔王討伐が急に不安になってきた。
この戦いでルーファスを生きて還す事ができるのかと。

「今日は被害の少ない森の入り口で野宿しましょう」
「ああ……。明日は一気に王城まで行くぞ」
「御意に」
ルーファスは手慣れた様子でテントの設置や食料の用意をしてくれた。
テントの中に二人で入って食事を摂った。
吐くまではしなかったが、国中に漂う遺体の焦げた臭いや腐敗臭で、食欲は全く湧かなかった。
携帯食を口に入れるが、砂を食べているようだ。父母、兄達は今頃王城でぬくぬく日常を過ごしているのだろう。
危険で嫌なことを俺に押し付けて。
戦争になったら王族だって戦場に駆り出されるんだろうけどさ。
この地であの遺骸と同じように俺も朽ちていくのか。
誰にも葬られずに……。
じわりと涙が浮かんできた。
「貴方は私がお守りします。必ず生きて帰りましょう」
ルーファスが優しく頭をなでる。
二人きりの時はたまにこうして身分関係なく頭をなでてくれる。
辛い想いしていると顔色でわかるのか、人気のない所へ手をひいて、愚痴を聞いてくれたり慰めてもらっていた。
俺が唯一幸せを感じる時だ。
また彼に気を遣わせてしまった。

「俺に何かあったら自分の命を優先しろ。俺を庇わなくていい。絶対に逃げろ」
「……貴方は……」
ルーファスは悲し気に俺を優しく抱きしめてくれた。
戦地に向かう騎士の最後の抱擁というやつか。
ふわりと体臭が鼻をくすぐる。ルーファスのおかげで心が、身体がほんのりあったかくなった。
最期に幸せをくれてありがとうな。
もし生きて帰れたら、俺は……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

魔法学者は傷を抱く 傲慢溺愛王子様は僕を孕ませたいらしい

鳥羽ミワ
BL
剣と魔法の世界の、傲慢だけど溺愛してくる第三王子×倫理観がユニークな反骨精神強め研究者 魔術を学ぶことへの意欲が強すぎる余り、騎士団を辞めて実家の公爵家を勘当されたフラエ=リンカー。知的好奇心の赴くまま研究を重ね、誰でも妊娠できる魔術を開発する。自らで治験を行い、紆余曲折の末植物性モンスターの種子の出産を報告したら、第三王子グノシスの様子がおかしくて…? 「学生時代から、ずっと好きだった」「俺の子を産んでくれ」 あなたは僕を五年前に拒絶しただろうが!どの口でそんなことを言うんだよ! そんなフラエの気持ちに構わず溺愛を注ぐポンコツ王子と、情緒面がポンコツな元騎士研究者のお話。 ※R-18描写のある話には*マークがついています ※作中、不妊についての言及・描写があります ※残酷描写があります この小説はムーンライトノベルズ様・エブリスタ様にも掲載されています。そちらは加筆・修正版となっております。 素敵な表紙イラストを廃寺さんに描いていただきました!本当にありがとうございます。 追記:後天的ふたなりのタグを追加しました さらに追記:タグつけを全体的に見直しました さらにさらに追記:題名を『執着溺愛王子様は僕を孕ませたいらしい』から改題しました。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

落ちこぼれ元錬金術師の禁忌

かかし
BL
小さな町の町役場のしがない役人をしているシングルファザーのミリには、幾つかの秘密があった。 それはかつて錬金術師と呼ばれる存在だったこと、しかし手先が不器用で落ちこぼれ以下の存在だったこと。 たった一つの錬金術だけを成功させていたが、その成功させた錬金術のこと。 そして、連れている息子の正体。 これらはミリにとって重罪そのものであり、それでいて、ミリの人生の総てであった。 腹黒いエリート美形ゴリマッチョ騎士×不器用不憫そばかすガリ平凡 ほんのり脇CP(付き合ってない)の要素ありますので苦手な方はご注意を。 Xで呟いたものが元ネタなのですが、書けば書く程コレジャナイ感。 男性妊娠は無いです。 2024/9/15 完結しました!♡やエール、ブクマにコメント本当にありがとうございました!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

処理中です...