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あき

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似ている生徒

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「で、毎日お茶に誘ってるわけだ」

鮫村はそういうとはぁと大袈裟に大きな息を吐いた。そんなに主張しなくてもめんどくさいことを言っている自覚はある。

「だって、気になるでしょ。てか、もう平方にしか目がいかねぇんだもん」

「男がもん言ってもキモイんだよ。気になるってもうそれって……」

鮫村はまたひとつ大きなため息をついた。自覚はある。今までにないほど平方に執着していることも、もう既に平方のことが俺の中で、特別…大切になりかけていることに。

「だとしてももうちょっとやり方があるだろう。嫌いって言われて好きになるとかお前マゾかよ」

「まだ好きって程じゃないって。気になるってだけ。俺の事嫌いなんて言うやつ今までいなかったしそれに確かに平方は高校の時の俺に似ている気がして、」

あの時色んな人と付き合っては別れてを繰り返した。自分はほかと同じなのかって言われて振られるばかり。残ったのは鮫村と数人の友達。恋愛感情を持っていたやつはみんな居なくなった。

「寂しいってか?お前のように、裏切られたって?」

「あの事件か?あの時は笑ったよな。鮫村だけ焦ってたのは面白かった。」

高校の時に集金した金が消えて俺のカバンに入っていたことがあった。やったのは仲良かったクラスメイト。女を取られた逆恨みでやったらしい。俺が集金袋を出すと大人までもが良かったと言葉を紡いだ。やってないのは確かだから疑われなくて済んだのは良かったけどなんとなく恐怖を感じた。そして、同時に誰も俺の事を見てないんだと気づいた。別にその男のことを恨んだことは無い。怒られることもなかったから。逆に感謝している。俺に気づかせてくれたのだから。

「人気者は大変だな」

「まぁ、俺、顔がいいから」

鮫村はハイハイと適当に返事をしながらビールを流し込んだ。あの時に焦っていたのはこいつだけだった。俺が疑われるんじゃないかと1ミリでも心配したのは鮫村だけでほかは俺がするわけもないと全肯定していた。トラウマだなんてそんな大層なものでは無いけれどショックだったのは覚えている。

「俺、お前のことやっぱ好きだよ」

「来世でよろしく。お前ちゃんと美女で生まれれよ」

鮫村は目の前の枝豆を爪楊枝で貫きながら、女優の誰がタイプだなんだと話し始めた。こいつ、大丈夫なのか。鮫村には記憶通りなら3年目の彼女がいるのに。
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