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水の国『メルクーア』〜水が創り出す魔物の大海〜

第140話

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「今のでバレちゃったかな。さっさと終わらせよう。……というわけだ。今は私よりもアンタの方がレインの側に居てられるからね。レインとエリスを気にかけるんだ。じゃあ私はこのダンジョンの主までの道を作ろうかな」

 それだけを言い残してアルティは海岸を歩いて行った。その場には仰向けで寝そべるニーナと、ニーナの胸に顔を埋めたままのレインだけが取り残された。

「……………………レインさん」

 ニーナは名前を呼びレインの頭に手を回す。そして抱きしめるような形になる。

「レインさん……私が守ります。エリスさんも一緒に。だから私がピンチの時は助けて下さいね。私はずっとレインさんの側にいますから」

 そしてレインを抱きしめる力を強めた。

「…………はい、ありがとうございます」

「…………え?」

「え?……エリスの事を守ってくれるんですよね?ニーナさんなら任せられます。俺もニーナさんを助けますから。……あと出来れば離してもらえると助かります」

「え?!レ、レインさん?!」

 ニーナは慌てて手を離した。するとゆっくりレインは起き上がる。

「すいません。アルティに押さえ付けられていたみたいです。このお詫びは必ずします」

 レインは首を押さえながら話す。上から物凄い力で押さえつけられたせいで首が痛い。

 "アルティとニーナさんが何か話してたみたいだけど……全然聞こえなかったな。俺の悪口でも言ってたのか?"

「レインさん!」

 ニーナは大きな声を出す。

「は、はい!」

「何をどこまで聞いていましたか!」

「え?…………えーと、私が守ります……からですかね?俺は別にいいですが、エリスの事はお願いしようかなって。代わりにニーナさんが困ってる時は俺が助けますよ」

 レインは地面に座ったままのニーナに手を差し伸べる。ニーナは少し遠慮しながらもレインの手をとった。

 その光景を少し離れた位置で見るアルティ。少し気に入らないとは思うが、レインのためだと我慢した。

 そしてこの気に入らない感情を発散させる為の対象を見つけた。

「…………ここか。私がいる事はもう気付いてるんだろう?他の奴らに知られる前にここを終わらせてやろう。ここでもずっと居られる訳じゃないからね」

 アルティは地面へ手のひらを向ける。上陸しようとしていたモンスターはアルティの魔力に気押されて動けなくなっていた。
 他の覚醒者たちはモンスターが動かなくなった事とレインたちがいる方向に突如出現した巨大な魔力に関係があると思い対策を考えていた。

 ヴァイナー王国軍の援軍も来たとはいえ無策で突撃できるほど王国軍の大将は馬鹿ではなかった。神覚者やSランクを島の反対側へ集め、少数の偵察隊のみでレインがいる場所以外を監視している。

 レインたちがいる地点は他の覚醒者たちにとっては未知数だった。実際はアルティたちがわちゃわちゃしているだけだったが……。

「レイン!イチャイチャしてないでこっち来い!」

「別にしてない。何だよ」

 アルティがレインを呼ぶ。ニーナが握ったレインの手を離さなかったからその場にいただけだった。

「この下にこのダンジョンの主がいるよ。人間の言い方でボスって呼べばいいのかな?ここでレインのスキルの〈強化〉を完成させるから気合い入れなよ?私が助けて上げるけどビックリするほど即死したら無理だからね?」

「ビックリするほど即死?まあ頑張るよ。ニーナさんはどうするんだ?」

「あん?何?あの子も来てほしいとか思ってんの?」

「いや……ここに放置していくのかなぁって。何で怒ってんの?」

「別に怒ってないし!私はとても温厚な性格だから怒った事ないし!いい加減なこと言ってると怒るよ!」

 今この人……人ではないが、この魔王は何を言っているのか分からなかった。とりあえずニーナの事を言うと機嫌が悪くなるのが分かったレインはとりあえず話題を変える。

「じゃあ……2人で行こう。でもどうやって行くんだ?ここの真下って言っても掘るのか?」

「違うよ?魔王一撃で吹っ飛ばすんだよ。……じゃあそろそろ私の本気の魔法っていうのを見せてあげようかな!」

 アルティはこの時を待っていたとばかりに右腕をグルグルと回す。

「本気って……この島全部吹き飛ばしたりしないよな?」

「大丈夫だよ。ここを吹き飛ばすことも出来るけど、今回は下だ。ボスが隠れてる地下の部屋に向かって真っ直ぐ一撃で貫通させる」

「本当に……頼むよ?」

 アルティが加減を知らない事は知っている。人間と接した事もほとんどない。だからどれくらいやったら人間が死ぬのか理解していない。かといってもはやアルティの力がなければこの終わりの見えないダンジョンを攻略する事も難しくなっている。

「任せなさいって!」

 そういってアルティは空を飛ぶ。浮遊系の魔法なのかスキルなのかは分からない。ただ少し羨ましい。

「…………行くぞ」

 アルティが空から地面へ向けて手のひらを差し出す。すると黒い1枚の大きな魔法陣が出現する。

 それが出た瞬間、レインの中の記憶が呼び覚まされる。カトレアが天使を召喚した時と同じような魔法陣だ。

 しかしアルティはそれだけでは終わらない。その大きな魔法陣の下に一回り小さな魔法陣が出てくる。さらに続けてもう少し小さい魔法陣が出てきた。

 既にアルティの一撃は周囲を巻き込まないわけがないと判断したレインは後ろへ退がる。近くにニーナを守らなければならないと咄嗟に動いた。

「レ、レインさん?!あの魔法は……いえ…あの人は一体何なんですか?!」

 ニーナの混乱はもっともだ。ただ今、そこで立っていると死んでしまう。

「伏せて下さい!!傀儡!!」

 レインはニーナを抱き寄せて地面に押し倒す。そして上位巨人兵を壁に見立てて並べる。その足元には上位剣士たちだ。防御力を持つ傀儡を思い付く限りアルティとレインたちの間に配置した。

「〈魔王の魔法行使サタンズマジック 究極の黒闇爆裂アルティメット・ブラックバースト〉!!!!」

 アルティの手のひらから黒い一閃が放たれた。それは魔法陣を通過して地面へと高速で向かう。魔法陣を通るたびに、より大きく、より強力に、より速くなっていった。

 そしてそれが地面に着弾した瞬間、その場周辺から光と音を全て奪い去った。

 
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