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水の国『メルクーア』〜水が創り出す魔物の大海〜

第136話

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 オーウェンはオルガの言葉を聞いて呆気にとられる。この女は何を言っているのか分からず混乱した。


「何を怒っているんだ?そもそも彼の優しさのおかげでこのダンジョン攻略に挑めたのだろう?」


「私が言っているのはあの人の力を世界で管理して困ってる所に派遣しようみたいな考えが気に入らないって事よ!レインくんは強いけど人間だよ。たった1人の家族のために常に全力で優しい……」


「お前ら!!さっきから何話してるんだ!敵が全方向から来てるんだから!手伝え!!」


 オーウェンとオルガが言い争いに発展しそうになった時、少し離れた所からレダスの声が響く。3人の神覚者が話し込んでいる間にモンスターの数は増していき島の全周を囲うほどになっていた。


 3人は話すのをやめて各地に散って行った。



◇◇◇



「…………なんかレダスが怒ってたな?何話してたんだ?」


 水龍の頭に乗りブレスでモンスターを薙ぎ倒していたレインの耳にはレダスの声だけが僅かに聞こえていた。3人がさっきの場所から動かず何か話していたのだけは分かった。


「まあ俺に関係してるなら後から言ってるよな?………というかモンスターが弱くなったな。さっきまでいたドラゴンも水に戻って大量の赤い布モンスターに変わってたし。上位巨人兵が2体増えたのはデカいな」

 しかしレインは気掛かりな事があった。さっきより覚醒者が増えた事によりモンスターの撃退は格段に楽になった。知識に乏しいレインであっても弱い奴を延々上陸させる意味が分からない。

 強い個体を違う方向から同時に上陸させた方が良いと思うが、何故そうしないのか。


「…………なあ、アルティ」

 "…………………………"

「アルティ?!」

 "ふぇッ?!な、なに?!呼んだ?"

「呼んだよ?忙しいのか?」

 "いや?全然暇だけど、しばらくやる事ないかなぁって思ってボーッとしてた。それで?どうしたの?"

「モンスターの動きがおかしいんだ。何で弱い奴を延々と上陸させてるのか分からない。こっちの人数は増えてるから強い奴を送り込んだ方が良さそうなのに」

 "え?いや送り込んでるじゃん?"

 そのアルティの言葉にレインは自分の心臓の鼓動が跳ね上がる感覚を覚えた。何を言っているんだ?強い奴を既に送り込んでいる?

「…………どういう事だ?」

 "レイン……魔力を察知しなよ。反対側で魔力が消えたのを感じない?ずっと見てた訳じゃないけど、ドラゴンが7体くらいいたでしょ?何でせっかく作ったのに何もせずに水に戻したんだろうね?水に戻したのにその辺の海面も増えてないよね?"

「…………そんな……クソ!!」

 レインは振り返り水龍の頭を足場にして砂浜へと戻る。そして撃退に成功しているレインがいた場所とは反対の方へと急いだ。しかし島がかなり広くなっているせいで全力であっても少し時間がかかるだろう。


◇◇◇



「貴様……何者だ?」


 シリウスは突然気配が消えたヴァイナー王国軍の覚醒者を探して反対側の海岸、その近くにある森の中を歩いている時にそれと遭遇した。

 2本の剣を持ち、フードを深く被った人間のような姿をした奴がいる。しかし人間ではないし、味方でもない。

 シリウスがそう判断したのは、そのモンスターの後ろに先行させていたAランクの覚醒者部隊の亡骸が転がっているからだ。

 戦闘の後もない。亡骸は綺麗に隊列を組んだような形のまま地面に並んでいる。覚醒者たちは反応する間も無く一瞬で殺された。


「……仲間の仇だ。楽には殺さなッ」


 シリウスが言い切る前にモンスターは斬りかかった。

 バチンッ――しかし剣がシリウスに当たる事はなかった。モンスターが持つ刀剣がシリウスに触れようとした瞬間、雷撃が発生してモンスターを弾き飛ばした。

「速いな。だが俺との相性は最悪だな」

 シリウスが発生させた電撃はモンスターが持つ刀剣からモンスター自身へと流れる。モンスターの身体は一瞬だけ痙攣し、次いで全身から煙を出す。


「今ので死んでないのか?なかなか頑丈だな。だがッ」


 モンスターはまたシリウスが話している途中で接近する。今度は戦鎚を上から振り下ろした。しかし、バチンッ!――と雷撃が起こり先程と同じように弾き飛ばす。


「俺に武器は効かない。お前に言っても仕方ないが、後ろで怯えてしまった仲間へ希望を持たせてやらねばならないからな」


 モンスターが武器を構えた瞬間だった。今度はシリウスの指先から放たれた雷撃がモンスターを直撃する。


「〈上位雷撃グレーターライトニング〉」


 モンスターは雷撃によって胸の部分をくり抜かれた。しかしすぐに再生する。ただ体内に残った雷撃は残り続けモンスターの動きを鈍らせる。


「そこが急所ではないのか?なら……」


 モンスターは再びシリウスへと斬りかかる。しかし体内に残る雷撃に対処が出来ず動きが鈍らされたままだ。それでもかなり速いが反応できない速度ではない。


「〈天雷〉」


 シリウスが右手を振り下ろす。すると何もない青い空から雷撃が降り注ぐ。複数の雷撃により動きが鈍ったモンスターに当てるのは容易だった。


「他に急所があるのか?一定の再生能力があるのか?本来ならじっくり調べてから殺してやるが、今は余裕もない。不死なんて奴は存在しない。
 その〈天雷〉はお前の命が尽きるまで落ち続ける。さっさと諦めて死ぬんだな。…………だから助けはいらないぞ?」


 シリウスの後ろには少し息が上がったレインがいた。空から落ちる雷撃のおかげですぐに場所が特定できた。


「……お前、これを倒せるのか?俺がかなり苦戦した奴なのに」


「そうなのか?……まあ確かにあの速度に加えて再生能力だ。武器を瞬時に持ち帰る能力もある。苦戦するのは当然か。……ただ俺のスキルと相性が悪すぎたな」


「……相性?」

「そうだ。俺は戦場では常に雷撃を纏ってるんだ。金属は電撃を通す。だから俺に武器を使って攻撃すれば、当たる直前にカウンターで雷撃が放たれるんだ」

「……なるほど」

 という事は魔法攻撃手段がないさっきのモンスターにはどうする事も出来ないって事か?こんな奴がまだいるなんて。少し前のレインであれば手も足も出なかっただろう。だが少し疑問もあった。


「でもモンスターの中には武器を使わないタイプだっているだろ?そんな奴らは遠くから制圧するのか?」

「それも出来ない訳じゃない。俺は雷を作ったり、放ったり、雷そのものにもなれるからな。ただ俺たち第一軍団の相手はモンスターじゃないんだよ」

「どういう意味だ?」

 と聞いてはみたが聞き過ぎか?とレインは少し不安に思う。自分の国の情報を他国に漏らすのは良くないはずだ。
 
「……いや……聞き過ぎたよな?別に言わなくて良い」

「別に気にする事じゃないさ。それにこの話は割と有名なんだよ。エタ……いやもうレインと呼ばせてもらうぞ?俺たち第一軍団の相手は人間だ。他国との戦争状態に突入した時に俺たちは敵国へと攻め込む、敵が攻めてきたら守る……という事が任務なんだ」

 そうか。相手が人間なら武器を使う。それならシリウスのスキルは最強だ。相手がカトレアくらいの魔法使いでなければ完封できるだろう。

「戦争か。俺には縁がない物だと思いたいが……いつかはそうもいかなくなるんだろうな」

「仕方ない事だ。それにイグニスと違ってヴァイナーは国の位置が特に悪い」

「位置?」

 "そもそもヴァイナーって何処にあるんだ?確か……北の方……だよな?世界地図……ここから帰ったらシャーロットに貰おうかな"

「レインは北部同盟を知ってる……よな?」

「……………………すいません」

 

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