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水の国『メルクーア』〜水が創り出す魔物の大海〜
第128話
しおりを挟むズドンッ――と長剣は根元までドラゴンの頭部に突き刺さる。ドラゴンは苦しみからか暴れ出す。海面から尻尾が再度出現して周囲関係なく振り回す。
そして剣が突き刺さった頭部も尻尾と同じように振り回す。まずはレインと逆方向に大きく振った後に、レインの方へと体当たりするように振る。
「いい加減に死んで傀儡になれよ!!クソドラゴンがぁー!!」
口の中で爆発も起こして、頭を2回殴って、剣も突き刺さっているのにまだ暴れている。次の一撃で決める為にもう一度戦鎚を構える。
そしてドラゴンの頭がレインへ向けて振られたタイミングで足元に別の大剣を召喚し、跳躍する。そのままタイミングを合わせて頭部へ戦鎚をフルスイングして打ち返した。
ドゴッ!――という音と周囲に空気の波が起こったのが見えた。ただレインが殴っただけじゃない。ドラゴンが自ら動いた分の速度も追加されてさっきの倍以上の威力となった。
その反動でレインも吹っ飛ばされてしまったが、視界に映し出された物を見て満足した。
――『傀儡の精鋭 水龍』を1体獲得しました――
「あと……1体……」
レインは空中で体勢を整えて着地する。着地の時の勢いが強すぎて地面に窪みができた。そしてヴァルゼルたちがいた方を見る。
「ヴァルゼル待て!」
目の前の光景にレインは咄嗟に叫んだ。しかし僅かに遅かった。
もう1体いたドラゴンは全員を氷漬けにされて動けない状態だった。レダスとオルガがやったんだろう。ドラゴンは小刻みに震えているが、それ以上は全く動けていない。
この状態なら時間さえかければここにいるメンバーなら誰でも討伐できる。殺したモンスターを有効活用出来るのはレインだけだからレインがトドメを刺すべきだった。
しかしようやく外で戦えると意気揚々に大剣を掲げていたヴァルゼルが飛び上がり頭に最後の一撃を入れようとしていた。
レインが叫ぶと同時にその大剣が頭に直撃した。そしてドラゴンはガラスのように粉々になって崩れ去った。
ヴァルゼル含めた傀儡が殺したモンスターは傀儡に出来ない。ヴァルゼルが倒してしまったせいでレインが得た精鋭級の傀儡は1体だけになってしまった。
「まあ……仕方ないよな。ドラゴン2体が相手で1人も死んでないんだから良しとしようか」
ドラゴンを無事倒せたことに安堵したレインは膝から崩れた。張り詰めていた糸が切れたように脚がガクガクと震える。
「…………あれ?」
立ちあがろうとしてもうまく力が入らない。杖代わりにしている戦鎚を手放せば地面に倒れるだろう。
「レインさん!」
「レインくん」
すぐにニーナとオルガがレインを支える。オルガの手が冷たすぎて叫びたくなる。首筋を触らないでほしい。
「……だ、大丈夫。少し力が抜けただけだ。それにしても……」
レインは海の方を見る。その視線を追うように周囲の覚醒者たちも海を見る。あのドラゴン2体を創り出す為に相当な量の水を使ったようだ。
もはや島と呼べるような広さではない。大陸と呼んでもいいような広さになった。
モンスターたちは巨人兵が周回し蹴散らしてから上陸してこない。というか出現しなくなった。
ただボスの部屋も出てきていない。様子を見ているのか?敵が何を考えているのか分からない。
「はい、もはやモンスターの上陸を完全に防ぐのは不可能です。各地点に陣地を構築し、あえて上陸させてから要所要所で殲滅するという事になりそうです」
ニーナは体力回復系のポーションをレインに渡しながら話す。レインはそれを飲みながら話す。体力回復系ポーションは傷を癒す、病気を治すという物ではなく、疲労回復に効果がある物だ。
だから数がそこまでないが、怪我よりも疲労が溜まるレインには効果的だった。
「私たちの領域もあのドラゴンを凍らせる為に全部使っちゃったからもう1度作り直さないといけない。
……でもこんなに海岸線が広がっちゃってると効果はないね。ニーナさんの言うとおり後ろで守った方がいいかも」
オルガもニーナの意見に賛成のようだ。作戦を考えるのは苦手というか出来ないからレインはそれに従うだけだ。しかし気掛かりはある。
なぜモンスターの上陸が止まったのか。もしボスが知能を持ち、向こうから見ているとしたら今こそ攻め時のはず。それくらいレインだって分かる。
今覚醒者たちに休息を与える意味はない。こうしている間にも負傷した覚醒者たちは回復するし、防衛陣地の構築も始まっている。
何よりこの攻略隊の最高戦力でもあるレインの体力、魔力共に回復していく。
"やっぱりこういうのを考えるのはやめよう。その通りになっちゃうからな"
「来ます!!」
誰かが叫んだ。その声で少しだけ緩んだ気持ちが一気に引き締まる。そして全員が愕然とする。
海の水の減る量が尋常ではない。あのドラゴン2体とは明らかに違う。まるで海の水が奥の方へ流れ落ちているんじゃないかと思うくらいに減っていく。見る限りドラゴンの10倍は減った。
そして1体だけ遠く離れた海岸から出てきた。そこそこ距離があるからどんな姿をしているのかは正確に分からない。ドラゴンに比べたらかなり小さい。
「…………人間?人型のモンスターか?」
レインよりも前にいる覚醒者の1人が呟いた。先程レインにポーションを持ってきてくれたAランクとBランクの覚醒者たちだ。
レインでもよく見えないのにあれが人型だと認識できると言うことは遠くを見るようなスキルがあるんだろう。自分には出来ない事だから少しだけ羨ましく思う。
そのモンスターはゆっくりと歩いて上陸してくる。他に追従するモンスターもいない。
「何を見ているんです!迎撃しなさい!あの量の水を消費して作られたモンスターが普通な訳ありません!攻撃をッ」
ニーナが指示を出そうとした時だった。姿を正確に確認できないほど離れていたはずの人型モンスターは何故かニーナの目の前に移動していた。
そして両手に持っていた2本の刀剣の1本を振り下ろそうとしていた。
「…………え?」
「クソッ!」
レインはニーナの襟首を掴んで自分の後ろに全力で放り投げた。そして杖代わりに左手で持っていた戦鎚でその人型モンスターの剣を受ける。
ズドンッ――その人型モンスターの一撃でレインの周囲には大きな窪みが出来る。その衝撃で周りにいた覚醒者たちもランク関係なく吹き飛ばされる。
"こいつ……強すぎる。今までの何よりも圧倒的に強い"
そいつは人型モンスターではある。顔は分からない。黒いフードを深く被っていて見えない。着ている装備も黒いコートのような物だ。両手に刀剣を持つ二刀流だ。
その姿はまるで……。
"俺?"
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