122 / 142
水の国『メルクーア』〜水が創り出す魔物の大海〜
第121話
しおりを挟む――『傀儡の兵士 海魔』を1体獲得しました――
獲得した海魔はまだ命令を待っている状態のため剣士たちの後ろでただ膝をついている。
見た目はかなり変わった。全身鱗だった部分は真っ黒な塗料を塗りたくったようになっている。ただ不気味なのはその肌を隠すように……隠しきれていないが、長い黒い布を纏っている。
顔はフードを深く被ったようになっているが隙間から赤い光が2つ発光しているのが分かる。武器は変わらず刃こぼれしたような剣と刃が欠けた斧を両手に持っている。
見た目から数を揃えれば恐怖を感じる相手であれば威圧出来そうだ。
「……海魔?海の魔物って事かな。……強さは番犬以上、剣士未満か。Cランク……上位くらいか?もう少し揃えておこうかな。魔法石の回収要員も欲しかったし」
レインは戦列から飛び出し大剣を召喚した。海からゾロゾロと上陸してくるモンスターの間に着地して振り回した。
モンスターは斬りかかろうとする奴と防御しようとする奴でそれぞれだったが全て等しく両断した。
――『傀儡の兵士 海魔』を26体獲得しました――
数を確認して、後もう3回大剣を振り回す。
――『傀儡の兵士 海魔』を58体獲得しました――
「これで……85体だな。キリ良く100体にしようか」
その後、大剣から2本の刀剣に変更して15体を斬った。これで海魔を100体傀儡にできた。しかしこいつらはこの戦闘には参加させない。
同じ強さだったらお互いに削り合うだけだから意味がない。魔力を無駄に消耗するのは避けたい。
とりあえずは召喚も解除して剣士たちに任せる。
◇◇◇
「では報告を……ただ時間に余裕はありません。手短に気付いたことがあれば言ってください」
AランクとBランクの覚醒者たちが作った中央指揮所兼救護所に神覚者4人とニーナが集まっている。外ではまだ戦闘の音が響き続けていて負傷者も少しずつ増えてきている。
1体の強さはそこまでだが数が多い。Aランク覚醒者といえど数十体のBランクモンスターに囲まれれば負傷してしまう。
ただまだ阿頼耶の魔力が十分にあるためすぐに回復出来ているが、少し待たせてしまう負傷者が出てきた。
中央指揮所の周りには、ここを取り囲むように簡易住居が建てられている。といっても2段ベッドと少しのスペースを一括りにした小屋が複数並ぶだけだ。
それでもレインの収納スキルのおかげでかなり豪華な作りらしい。救護所が雨ざらしなんて事もよくあるらしい。
Aランクダンジョンの中でも高位ランク帯の攻略時はダンジョン内で寝泊まりする必要もあるが、運搬の関係上、地面に布を重ねるだけの物しか用意できない場合が多い。それと比べたら天と地の差がある。
住居には魔力を消耗した覚醒者たちが休むために使用する。魔力は完全に使い切るのとほぼ使い切るのでは回復時間に大きな差がある。
少しでも残っていればある程度回復すればまた戦える。
しかし完全に使い切ってしまうと完全に回復するまでスキルや魔法を行使できない。理由は長年研究されているが未だ不明らしい。
レインもこのダンジョンで初めて知る事ばかりだ。
Aランク覚醒者たちは交代しながらモンスターの上陸を防いでいた。
「あのモンスターが上陸を開始してから既に12時間が経過しました。未だに勢いは衰えず……増えもしませんが一定の勢いを保って侵攻を続けています。
このままではこちらが消耗する一方です。何か気付いた事はありましたか?」
ニーナの問いかけに答えられる神覚者はいない。既にAランクやSランクの攻撃だけでは対処しきれず神覚者も攻撃に参加している。
12時間も攻撃を続けられるほど魔力を保有している覚醒者はそこまで多くない。
レインも既に鬼兵や騎士を複数召喚し、剣士たちを支援に回らせていた。
このダンジョンの仕組みは解明出来ていないがレインのスキルが最も攻略に適していると判断して可能な限り温存するように指示されている。
剣士で倒せるモンスターは鬼兵や騎士であればもっと簡単に倒せる。
現在の覚醒者たちの配置は、島の一区画をレインの傀儡たちのみで請け負い、他の区画を覚醒者たちで防衛している。覚醒者たちの中にも傀儡を入れて交代時の援護をしている。
さらに浜辺から中央までの間に傀儡の兵士を数体ずつ配置し地中からモンスターが出現しても対応出来るようにしてある。
その為、レイン自身は指揮所で待機しているのが現状だ。
「そうだね。モンスターは倒したらその場に小さな魔法石だけを残して水になる……ってことくらいかな。一応Bランクに回収させてるけど価値は期待出来ないね。……強いて言うなら倒した時に出る水は普通の水になってるって事かな?あまりの海は真っ黒だけどね」
オルガが話す。既にレインは前線を離れているため、こうした情報すら入ってこない。
「……俺もそれ以外は分からない。モンスターはこちらを攻撃来るが連携も取れていない。殲滅は容易だが数が多すぎる。
既に数千体は倒したがただ真っ直ぐ上陸して来るだけだ。ボスの部屋も何処にあるのか分からない。海底にあるとしたら詰みだぞ?」
レダスもそこまでの情報は得られていないようだ。
「私のスキルで操れれば良かったのですが……この海の水はただの水ではないないようです。スキルで操れないので本来の力が使えないのは申し訳ない思いです。
ただモンスターを倒した後に出現する水は普通の水ですね。それは操る事が出来ますが……量が少ないので攻撃としては使えません。……本当にすいません」
アリアは水を操るスキルがあるがこの海に対しては使えないようだ。あの大荒れの海の波すら制御出来ていたのに。
つまりこの海は普通の水ではないということだ。まあ黒いし当然ではある。
「役立たずの私から言えるのは、モンスターを倒した後に出てくる水は操れるので黒い水に何かしらの仕組みがあるのかもしれません」
アリアは既に卑屈になっている。とりあえず今は置いておく。やはりあの黒い海に何かあるんだ。しかしそれが分からない。その時だった。
「…………あッ」
「レインさん?どうしました?」
レインが漏らした小さな声に全員が反応する。今、この状態を維持できているのはレインのスキルに恩恵が大きい。
この施設もそうだがレインなくしてここまで余裕を残して持ち堪える事は出来なかったかもしれない。そんなレインの発言には全員が注目する。
「……剣士たちが一気に削られました。前線で何かあったようです」
レインは上位剣士が4体一気に倒され復活に魔力を消費した事に反応した。消費した魔力は微々たるものだ。数分……いや1分ほどで回復すると思う。
しかし剣士たちを複数倒せるモンスターは今のところいないはずだ。
つまりは剣士たちを同時に複数倒せる力を持ったモンスターが新たに出現した事になる。
その答え合わせをするように覚醒者が指揮所に入ってきた。
「報告!新たなモンスターが複数出現!!Aランク覚醒者と同等の強さを持っており、現在Sランク覚醒者様とレイン様の召喚された駒で応戦中です!至急!前線へお戻り下さい!!」
「承知しました!では進捗報告はここまで。各自持ち場に戻って下さい。戦線を安定させるために私も行きます。レインさんも申し訳ありませんがお願いします」
「分かりました」
こうして救護班の覚醒者と少数の護衛班を残して全員で各地の前線へ向かった。
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説
落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!
酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。
スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ
個人差はあるが5〜8歳で開花する。
そのスキルによって今後の人生が決まる。
しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。
世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。
カイアスもスキルは開花しなかった。
しかし、それは気付いていないだけだった。
遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!!
それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる