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炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜
第45話
しおりを挟む「えーおはようございます。待たせましたか?」
既に到着していたニーナを見たレインは少し申し訳なくなった。女性との待ち合わせで男性が後から来るのは如何なものだろうか。みたいな事を随分前にアッシュから言われたような気がした。
そういえばアッシュは何してるだろうか。ダンジョン攻略の遠征にでも出ていたら何十日も街を離れることもあるだろう。今度会ったらご飯でも行きたいもんだ。
「おはようございます!!いえ!私も今来た所です」
「……ニーナ様……嘘ついてるな」
「めちゃくちゃ前からいたよな」
「あいつは誰だ?」
「なんか冴えない見た目だな」
「あの男って……確か……神覚者様か?」
「え?!あれが噂の?!」
周囲の野次馬からそんな声が聞こえた。常に〈上位強化〉のスキルを発動させている為、こうした話し声も聞こうと思えば聞ける。
それにより待たせてしまったという罪悪感がさらにレインを追い詰めた。
「その服……」
「え?!ふ、服ですか?」
「えー……とても似合ってますよ。雰囲気変わりますね」
エリス以外の人間の女性とまともに話した事がないレインにとってはこれが限界だった。阿頼耶は服同じだし、アルティはうるさいだけだし。今は寝てるのか静かだが。
"寝てないけど?"
寝ていなかった。
「そ、そうですか?!ありがとうございます」
ニーナは耳で真っ赤にして俯いてしまった。こうなるとレインにはどう反応していいのか皆目見当がつかない。いわば詰みだ。
「……………………」
「……………………」
「い、行きましょうか!王城と武具の取り扱い店は近いので大丈夫だと思いますが、国王陛下から呼ばれている時間に遅れるのは良くないので……」
「そうですね」
レインとニーナは横並びで歩く。その後ろを何をしているんだという表情で阿頼耶がついていく。側から見たら何とも異様な光景に見えるだろう。
◇◇◇
「レインさん!これなんかどうですか?」
ニーナは様々な服や防具を持ってきては着せようとしてくる。動きやすく派手な色でなければ何でもいいのだが、「何でもいい」というのは悪手であるため我慢する。
「……あー…いいですね」
これを10回ほど繰り返している。既にレインの中では、これで良いやという感じで決まってはいるので何を出されても同じような返事になる。
ただずっと同じ服というのもそれはそれであれなので良いなと思った物は買っておきたい。
ただ……ニーナのセンスがあまり良くなかった。赤とか青とか黄色とかばかり持ってくる。
「……阿頼耶は何かいるか?」
とりあえず近くでボーッとしていた阿頼耶に声をかける。いつも同じ服……というか自分で作ってるんだったな。その服の分を武器とかに回せるなら服を着るっていう事をしてもいいんじゃないだろうかと考えて提案する。
「大丈夫です」
即答されてしまった。何とも言えない感情が出てくる。
「でもいつも同じ服だと変に思われるぞ?なんか着とけって」
「…………それは命令でしょうか?」
うわぁ……その聞き方すっごい嫌!――と思ったが口には出さない。
「そうだな。じゃあ命令だ。防具には色々な魔法が込められているんだ。自分には対応出来ない相手の攻撃も防いでくれるかもしれない。要らないならダンジョン内で脱げばいい。とりあえず阿頼耶は顔がいいんだから服装にも気を使ってくれ」
まあ阿頼耶の顔はアルティを参考にしたって言ってたから変えられると思う。
さらに誰よりも服装に気を使っていないと自負できるレインに言われたくはないだろうな。阿頼耶からそんな正論を言われると立ち直らないかもしれない。
「……かしこまりました。レインさんが言うのであれば着ましょう」
「じゃあこれとか……」
さっきニーナが持ってきた黄色の服を見せる。胸の部分に鋼鉄のプレートが入っていてそれ以外には……何かのモンスターの革で出来た軽鎧兼オシャレ装備みたいなやつだ。
人の体格に応じてサイズが変わるらしい。阿頼耶はいつも真っ黒な服を着ている――レインも人の事言えない――からこうした明るい色なんてどうだろうと提案する。
「却下です。私が選びます」
また即答されてしまった。……あれ?嫌われてる?誰に聞くでもない疑問が空中へと消えていった。
それから色々あって結局レインも阿頼耶も黒や紺色の服や防具を購入した。
なぜニーナが不服そうな顔をしているのか分からなかった。
とりあえず阿頼耶も着替えてレインも着替えた。色味が変わってないので変化もないように見える。違う色も試そうかと思ったが、国王に会うのにそんなチャレンジはしたくなかった。
「……そろそろ時間ですね。王城はこの道を真っ直ぐです。……というか見えてますね。門番に名前と招待状を見せたら通してくれます。
私は招待されていないので一緒に行けません。アラヤさんも難しいと思います」
「そうなんですか?……なら仕方ないか。阿頼耶」
「……何でしょう?」
「適当に食料とポーションを買って家に帰っててくれ。エリスが困ってたら助けてやってほしい」
「かしこまりました」
阿頼耶は会釈して出発しようとする。レインはその腕を掴んで制止する。
「……これから俺はかなり有名になると思う。そうなるとエリスに余計な虫が寄ってくる可能性もあるだろう。それらを決して近付けるな。分かってるな?」
レインは阿頼耶に顔を近付けて話す。別に聞かれて困る内容でもないけどみんなが聞いていいとも思わない。
「もちろんです。この命に変えてもエリスさんをお守りします」
「頼む」
阿頼耶は微笑みながら頷いた。そして早足でその場を去った。ニーナは何故か機嫌が悪くなっていて話さなくなっていた。
「……じゃあ行ってきます。ここまでありがとうございました」
「ええ……まあ?はい。……レインさんとアラヤさんはお付き合いされてるんですか?今の話だと同じ家に住んでいるように聞こえましたが?どうなんですか?」
ただお礼を言っただけなのに物凄い早口で別の事を聞かれた。
「え?あ、阿頼耶ですか?……まあ同じ家に住んでるって所は否定しませんが、お付き合いっていうのは違いますね。俺とアイツはそんな関係じゃないですよ?」
「じゃあ!じゃあどんな関係なんですか?人に言えないような関係って事ですか?レインさんは好きな人とかいないですか?気になる人とか……あ……すいません」
ニーナの顔が目の前まで迫る。と思ったらすぐに離れてしまった。もう何が何だかさっぱり分からない。
「好きな人……とかは分かりません。エリスの事もあるのでそんな事に現を抜かしている場合でもありませんしね。じゃあ王城へ行ってきます。ありがとうございました」
そう言ってレインはニーナから離れ王城へ向かう。
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