45 / 142
炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜
第44話
しおりを挟む「……えーと……質問の意味が分からないのですが?」
「レインさんのこれまでの言動を聞いていると……この国『イグニス』に対してあまり良い印象を持っていない……ような気がして」
この国が嫌いか?……どうだろうか。そう言われると自分でもよく分からない感じだ。レインは即答が出来なかった。
「……………どうでしょう。何を持ってして国を好きか嫌いかで判断すればいいか分かりません。ただこれまで色々な事を経験してきましたが、この国で良かったと思った事はありません。……まあ別の国を知らないのでなんとも言えないですが」
「と言う事は移住も考えているんですか?」
「それも何とも言えません。今はエリスの為に神話級ポーションを何としてでも手に入れる。それだけしか考えていません」
「エリスさん……妹さんですね。病気の話を聞いてリグドやロージアと少し考えていましたが同じような症例を他国で聞いた事はあります。病名すら付いていない、原因も不明の難病……だと思います。
原因の特定と治療法が確立されればその治療のために国家からも支援が出ると思いますが、現状は神話級ポーションで無理やり治すという手段しかないのでしょう」
「そうですね。俺には病気の原因なんてもうどうでもいい。完治できて2度と病気にならないのであれば何だっていい。これまでずっと……全ての事を我慢させて来ました。俺にはもう他人からの評価を気にするほどの余裕はありません」
「……そうですか。ただ……ただですね。まだこの国を見放されていないならここに居てほしいと思っています。我々でお手伝いできる事であれば……」
「分かってますから。……ここまでで大丈夫です」
「あ……分かりました」
少し寂しそうな表情を見せたニーナと別れ帰路に着く。その帰り道に買い物だけ済ませて帰宅する。
◇◇◇
「エリス……帰ったよ」
「お兄ちゃんおかえりなさい。大丈夫だった?怪我してない?」
いつものように声をかけていつものように心配される。ポーションのおかげで聴力が戻った。レインが帰る音にも反応でき手探りではあるが出迎えも出来るようになった。
あと少し……あと少しなんだ。目の前に並べられた食事を美味しそうに頬張るエリスを見て決意を燃やす。『決闘』の相手は全員がSランクや神覚者だ。
「……お兄ちゃん?」
「なんでもないぞ。ああ……ただもう少しで引っ越すからな。あと明日も朝から出掛けるからお留守番頼むな?」
「分かった。……でも怪我はしないでね?」
「大丈夫だ。ほら口の横についてるぞ。まだ沢山あるから落ち着いて食べな」
ハンカチでエリスの口を拭う。
"こんな幸せが続けばいいなぁ"
久しぶりに落ち着いた夜を過ごす事が出来た。
◇◇◇
次の日、エリスはまだ寝ているから起こさないように阿頼耶を連れて家を出た。本当は今日にでも引っ越し先を見つける予定だったが、国王のせいで無くなった。
ここは王都ではなく第2の都市と呼ばれる場所だが、有事の際の王族の避難所としているから城がちゃんとある。
結構遠いから若干イライラする。そしてその前にニーナと防具を揃えに行くことになっている。
どうせならエリスも連れてくるべきだったか。いや……やめておこう。
他愛無い話を阿頼耶としながら目的地である組合本部へ向かう。
◇◇◇
組合本部前には待ち合わせはお昼前だというのに数時間も前からソワソワする人の影があった。
予備のナイフのみ腰に隠すように装備し、白いワンピースを着た女性……ニーナの姿があった。
「……す、少し早く着きすぎましたか。周囲の視線が痛い」
ニーナは国内どころか8大国中でも顔が知られているほどの有名人だ。その顔立ちといつもと違うオシャレをした姿が相まって誰よりも注目を集めていた。
各々がデートだとか噂し相手が誰なのかという憶測が飛び交っている。
身体能力に優れるニーナはその全てが聞こえていた。中には別ギルドのSランク覚醒者の名前を相手として述べる者もおり、急いで訂正したい気分だった。
しかし無闇に関わると余計な詮索をされてしまう。ニーナは様々な意味で近寄り難い存在だ。言い寄る男などほぼ存在しない。
もう何度弄ったか分からない前髪をクルクルと触り、待ち合わせの時間まで残り30分ほどとなった。
「……そ、そろそろですね」
ニーナは再度自分の姿を見直す。服にシワができていないか、寝癖は付いていないか、いつ使うのか分からなかった貰い物の小さなバッグから手鏡を取り出し何度も何度も確認する。
"なぜ私はこんなに緊張しているでしょう。……レインさん……ハッ!私は今何を?!わ、私はただこの街を案内して良い国だと思ってもらって……それから……えーと…ずっとここに住んでもらう為にあの提案をしたんです!"
と誰に聞かせるでもない言い訳を並べ続ける。
"……でもあの時は本当にすごいと思ったな"
あの敵が現れた時、全員が生き残るのは無理だと思った。Sランクが4人も護衛につけば簡単だと慢心した。タネを明かせば戦闘タイプの魔法使いが1人でもいれば簡単に攻略できる相手だった。
実際、外に待機させていたAランク覚醒者には魔法使いがいた。彼を連れてきていればあの者に苦戦する事もなかったのに。
それをレインさんは圧倒的な力で倒してしまった。そして召喚の駒にしていた。あんな圧倒的な力を持ちながら大切な人を治すために行動し続けている。
"……あんなに一途な人がいるんですね"
自分でも理解できない感情を押し殺し人混みの中からこちらに近付く強い魔力をただ眺めている。
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる
月風レイ
ファンタジー
あらゆることを人より器用にこなす事ができても、何の長所にもなくただ日々を過ごす自分。
周りの友人は世界を羽ばたくスターになるのにも関わらず、自分はただのサラリーマン。
そんな平凡で退屈な日々に、革命が起こる。
それは突如現れた一枚の手紙だった。
その手紙の内容には、『異世界に行きますか?』と書かれていた。
どうせ、誰かの悪ふざけだろうと思い、適当に異世界にでもいけたら良いもんだよと、考えたところ。
突如、異世界の大草原に召喚される。
元の世界にも戻れ、無限の魔力と絶対不死身な体を手に入れた冒険が今始まる。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる