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炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜
第35話
しおりを挟むレインのスキル〈傀儡〉の発動条件は至って単純。自身の手で殺す事。傀儡が殺した物は含まれない。ただ阿頼耶はレインが扱う武器という括りの為、阿頼耶が殺したモンスターは〈傀儡〉発動の条件を満たす。
しかしこのダンジョンはオーガたちがいる。オーガはスケルトンのように脆くもなく連携を取れるだけの知能がある。
そしてこのパーティーは全員がSランクだ。阿頼耶を戦闘に参加させると正体がバレる危険性がある。
だからレインと傀儡のみで対応するが……1つ問題があった。
「ニーナさん」
「はい?どうしましたか?」
まだレインが1歩も踏み出す前に名前を呼ばれたので驚いた様子だった。
他のSランクたちも――え?早くない?!――みたいな表情をしている。
怖気付いた訳じゃないぞ!と叫びたい気持ちを抑える。
「ここまでしてくれたニーナさんに隠し事はしたくありません」
レインはこの場にいる者たちに伝えることにした。レインが神覚者となって得た力は1個体がBランク覚醒者クラスの強さを持つ駒を大量に召喚するスキルとニーナに匹敵する剣術だと思われている。
おそらく他のSランクにもそのような感じで伝わっていると思う。間違いではないが正解でもない。ただそこがこのスキルの核心でもある。
殺した対象を未来永劫自身の配下として使役できるスキル……それが魔王から得たスキルだ。
しかし神覚者のスキルは神によって得られるものという考えがある。それをどう思われるかが少し不安だった。
「隠し事……ですか?そんなもの1つや2つくらい誰にでもありませんか?」
「そういう事ではなくてですね。……スキルの事です」
「レインさんのスキルですか?あの強力な召喚スキルですよね?」
「あれは召喚スキル……ではありますが、若干異なる事があります。説明するのはあれなんで実際に見てもらった方がいいですね」
「……そうですか?」
こうやって話している間にもこちらに接近する気配は感じていた。多分さっき槍を投げた奴だろうか。5~6体はいると思う。魔力をあまり発していないから気配でしか察知できない。
「レガ……オーガは何体ですか?」
ニーナは振り返りレガに問いかける。
「6体だ」
レガは壁にもたれ掛かり目を閉じたまま答える。
「彼の持つスキルの中にこちらを敵視しているモンスターの種類と数を把握するというものがあります。精度は完璧なので信頼できます」
ニーナはレガのスキルを説明した。レインが何で分かるんだ?という顔をしてたのがバレてしまったようだ。
「……それを教えて良かったんですか?」
「大丈夫でしょう。バレたからといって彼が弱くなる訳ではありません。それよりもスキルの事を教えてほしいです!」
ニーナは目を輝かせて詰め寄ってくる。背後のモンスターの気配も近付いてくる。アイツらで実演しようか。
「分かりました。……傀儡召喚」
その言葉の裏で傀儡の種類と数を指定する。上位剣士であれば5体くらいいればオーガ1体くらいは倒せるだろう。オーガは6体いる。30体いたら十分だが傀儡が殺すと意味がない。
レインが殺す必要があるため取り押さえることにした。数も50体召喚して取り押さえよう。
レインを中心に真っ黒な水溜りが広がる。その黒い魔力を初めて目の当たりにする他のSランクたちの身体に力が入ったのは気のせいじゃないだろう。
その後、漆黒の騎士たちが片膝をついた状態で出現する。騎士王は召喚しない。アイツだと一撃でオーガを殺してしまうかもしれない。
「……あそこにいるオーガを取り押さえてここに連れて来い。抵抗するなら骨の1~2本はへし折れ。ただし絶対に殺すな。……行け」
簡単に指示を出し――複雑な命令は理解できないと思う――向かわせる。
すぐにオーガであろう雄叫びが聞こえた。その後剣がぶつかる音が聞こえた。ほんの少しだけ魔力が削られた感覚がしたが気にするレベルじゃない。
むしろ意識していないと気付かないレベルだ。
数分後に戦闘の音が消えた。ズルズルと何かを引き摺る音が聞こえてきて奥の暗闇から姿を現した。
傀儡はオーガの角や脚を持って引き摺ってきた。赤黒い肌と筋骨隆々の身体を持つオーガを持ち上げる事は出来なかったようだ。
オーガたちも抵抗する事なく大人しい。それぞれの個体をよく見てみると両腕や両脚が反対の方向を向いていたり、角が折られていたり、顎が砕けている奴もいる。
全ての個体が何処かしらを負傷している。最後まで抵抗しようとしたから、死なない程度にボコボコにされたんだろうな。
ほぼ永遠に疲れる事もなく再生し続ける傀儡に体力も消耗して再生も出来ないオーガでは勝ち目がなかったか。
「俺のスキルの本質はこれです」
レインは剣を空間から取り出した。それだけでもリグドやロージアは感心したように息を吐いた。
レインは目の前に並べられピクピクと痙攣しているだけのオーガの頭を順番に突き刺して行く。せめてその苦しみが終わるよう一撃で終わらせる。6体全てを殺害した後、いつものように傀儡にする。
――『傀儡の兵士 鬼兵』を6体獲得しました――
いつもの表示が視界に出てくる。やはり見えるのはレインだけのようだ。
しかし他の者たち――阿頼耶を除く――は絶句していた。目を閉じていたレガも目を見開き壁にもたれ掛かるのも止めている。
「レインさん……あなたのスキルは強力な複数の駒を召喚するのではなく……」
ニーナが言葉を選ぶように話す。
「そうです。俺のスキルは自分の手で殺した対象を絶対服従の傀儡にするというものです。
俺がダンジョンに入ってモンスターを殺せば殺すほど俺の力はさらに増して行く……そんなスキルです」
神を信じる人にとってこの力はどう見えるだろうか――レインの心配は無駄に終わる。
「流石です!!本当に凄いです!それに加えて剣術とモンスターにトドメの一撃を入れられる胆力、どれを取っても素晴らしい才能です!」
「胆力?」
褒められた事のない所を褒められた。ニーナはその疑問に答える。
「覚醒者全員が躊躇なくモンスターを殺せるわけではありません。血の色は我々と同じ赤色の個体が多いです。
手の数も脚の本数も同じでモンスター同士で会話する個体もいる。我々と区別出来ずモンスターに同情してしまった覚醒者は戦えません」
「……そうですか」
そんな事はないレインにとっては心配いらないものだった。レインの全てはエリスの為にあるからだ。
人類を守るとか国のために貢献するとかはエリスが何不自由ない生活と安全を手に入れた後の事だ。
「これからどうしますか?私たちも手伝いますよ?」
「大丈夫です」
「全傀儡召喚」
今回は全ての傀儡を召喚する。ただの剣士も100匹を超える番犬も上位剣士、騎士王全てだ。召喚する時に足元で広がる黒い水溜まりはかなりの範囲になる。
流石にニーナさんたちの足元まで広がるのは申し訳ない――特に影響はないが――ので前に展開した。
「奥にいるオーガを全て半殺しにしろ。絶対に殺すなとは言わない。少し息があればそれでいい。ボスの部屋の前まで来たらその場で待機してろ」
レインの命令を理解した傀儡たちは立ち上がり武器を構えて奥へと走り出した。番犬が先鋒を務めそのすぐ後ろを剣士たちが続いた。
「魔法石はどうしますか?ちゃんと回収すればかなりの金額になると思いますが……」
「そうですねぇ……。私たちで可能な限り回収しましょうか。配分も……考えるのが面倒なので均等に分ましょう。それで良いですか?」
「もちろんです」
レインがその提案を拒否できるはずがなかった。まずこのダンジョン自体用意してもらった物だから元手がゼロで済んでいる。その状態でAランク5箇所分の報酬が貰えるなんて夢のようだ。
レインは心の中でガッツポーズする。少しでも多くの金を受け取る為に傀儡を呼び戻す。
"剣士と上位剣士、誰でもいいから20体戻ってこい"
直接声に出すより心の中で念じた方がよく届く。数分後には剣士10体と上位剣士10体がレインの前に並んだ。
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