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炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜

第26話

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◇◇◇


「はあ……気を使いながら戦うのは疲れるな」

 レインのため息と愚痴は奥から聞こえる鎧の音で掻き消える。


「しかし彼らとは離れました。もう本来の御力を使ってもよろしいのでは?」


「そうだな。でも……誰かが勝手について来る可能性もあるか。……そうだな、阿頼耶」
 

「はい、何でございましょう?」


「あの一団を全て片付けてこい。本気を出しても構わない」

 
 レインの言葉に阿頼耶はニヤリと笑みを浮かべる。自身の強みである肉体変化を使える。敵を殺す為、主人の為に全力を出せる喜びに身体を震わせる。


 ドンッ――と地面を抉るように勢いをつけてこちらへ向かって来る骸骨の一団へ走っていく。そして剣と剣がぶつかる音が響くが、その音も数十秒で消えた。


「お待たせ致しました」


 奥から全てを片付けた阿頼耶が歩いて来る。その両手の爪は鋭利な刃物のように長く鋭くなっていた。手だけに限って見れば人のそれではないな。
 ただ今は隠す必要もない。モンスター以外に近付く気配はない。


 "それに……俺に感知されずに近付くのは彼らには無理だろうし"


「ご苦労さん。阿頼耶が倒したスケルトンを全て傀儡にする」


――『傀儡の兵士 上位剣士』を14体獲得しました――


 真っ黒な騎士が14体出現し、レインの前で膝を折って屈する。Dランクの冒険者を媒介にした剣士よりも装備が豪華に見える。溢れる魔力もレベルが違う。


 "これはいい戦力になりそうだな"


「この調子で殲滅していこうか」


「かしこまりました」


 ――とその前に。

 レインは手を動かして傀儡の上位剣士たちに指示を出す。言葉に出す必要はなく心で命じるだけで動かせる。


 "ここに並んで俺たち以外の生物の侵入を防げ。ただし絶対に殺さず傷もつけるな"


 レインの命令に頷いた剣士たちは横1列に並び剣を地面に突き刺して仁王立ちした。
 この風景を目の前にして思う。あのパーティーにこれを突破する事は出来ないだろう。


「よし……じゃあ行こうか。ここからは本気で行くぞ。ボスまで速攻で倒して魔法石を根こそぎいただく」


「かしこまりました。それに上物はご主人様の収納スキルに入れてしまえばバレませんしね」


 こいつはこんな感じの事をサラッと言う。確かにバレる事はないし、この実力差ならバレても何も言われないだろう。でもそれは――なんか違う。そこまで落ちぶれてはいないと思いたい。


「それは却下だ。そもそもこのダンジョンの攻略権を得ているのは俺たちじゃないからな。その辺は弁えるべきだ。それにそんなコソ泥みたいな事しないといけないくらい俺は落ちぶれてると思ってたのか?」


「滅相もございません!……申し訳ございませんでした」


 阿頼耶は深々と頭を下げた。――しかし今の言い方は良くなかったとレインも反省する。


「いや……こちらこそ申し訳ない。少し言い過ぎた」


「そんな事はありません。目先の欲に釣られた私が悪いのです。この配下にあるまじき失態を払拭する機会をどうかお与えください」


 そう言いながら阿頼耶は膝を地面に付けて跪く。毎度毎度こうされるとビックリするし疲れる。ただレインを主人と仰ぎ、尽くしてくれるのは非常に助かっている。実際に阿頼耶のAランクという肩書きがなければここに来る事も出来なかった。

 ここでそんなの要らないと言えば阿頼耶の覚悟を不意にする事になる。


「……そうだな。俺に対してはダンジョン攻略の手伝いをしてくれ。傀儡はどれだけいても問題ないからな」


「かしこまりました。身命を賭して遂行致します」


 その言葉だけを残して阿頼耶は消えた。物凄い速度で奥へ走って行った。そしてすぐに戦闘の音が聞こえる。


「俺も働かないとな。阿頼耶や傀儡に任せてばかりだと俺自身が強くなれないし」


 レインは〈強化〉のスキルを使って阿頼耶を追いかける。その道中にはバラバラに粉砕されたスケルトンが捨てられるように散らばっていた。


 その全てに〈傀儡〉を使用する。レインが通過した後に並ぶように上位剣士や上位弓兵、上位魔法兵が出現する。


 その数は――数えるのも面倒なくらいだ。ざっくり100体以上はいる。中小都市を守る兵士の一団ぐらいの数だ。そのどれもがBランク覚醒者レベルの魔力を放っている。同じレベルのダンジョンなら簡単に殲滅出来そうだ。


 そのままスケルトンたちの残骸を横目に走り続ける。既にかなり進んだと思うが阿頼耶の姿は見えない。


 阿頼耶にとってはこのレベルのモンスターは敵ではないんだろう。さっきは人の目もあったから能力のほとんどを制限していたから苦戦していたように見えたのか。

 ただ戦闘の音も近くなっている。という事はこのペースで倒せない敵が出てきたって事だ。レインは追いつく為にペースを上げた。
 

 そしてすぐにボスの部屋まで辿り着いた。


「……あれは?」


 阿頼耶がそのボスと戦っている。あれは……何だ?骸骨戦士スケルトンウォーリアーよりも強いのは明らかだ。身につけている装備の格が違う。剣と盾を装備していて分厚い鎧も着ている。兜の合間から見える顔がスケルトンである事が分かるが、それ以外を見ると歴戦の戦士のようだ。

 レインも参戦するためにボスの間へと入る。見渡す限りボス以外は全て倒されているようだ。


「ご主人様!!」


 阿頼耶はボスから離れてレインの近くまで来た。


「申し訳ありません。あのボスに少し手間取っております」


 阿頼耶が全力で戦って手間取る相手か。これまでの中では最強の存在だな。

「アイツは何だ?」

 レインは上位モンスターに関する知識はほとんどないに等しい。荷物持ちだったレインに上位ランクのモンスターの情報は不要だったから。

「あれは骸骨の騎士王スケルトン・ロードです。近接戦に特化した装備を持ちながら〈高速再生〉のスキルがあります。胸の核を破壊しなければ倒せませんが、守りが硬く突破が難しいモンスターです」


「よく知ってるな」


「はい。以前組合に行った際、壁に注意モンスターとして掲載されておりました」


 そんなのあったんだ。というかあんな一瞬で見た物を覚えてるのか?ハイスペック過ぎる阿頼耶に頭が上がらない。
 せめてこのボスを圧倒して倒さないと阿頼耶に愛想を尽かされる可能性もある。それはそれでかなり落ち込みそうだ。


「俺が本気でやるよ。手出しするなよ」


 レインは傀儡の召喚を全て解除した。アラムたちを止める為に配置した兵士も下げる。


 Aランクダンジョンのボスと本気の一騎討ちだ。


 "敵は剣と盾と再生スキル持ちか。手数とパワーでゴリ押しすれば勝てるかな。遠距離攻撃でもあれば良かった"


 魔法などによる遠距離攻撃手段がないレインは必然的に接近戦を強いられる。


 だがそれでも圧倒してみせよう。


 レインは右手に剣を召喚する。左手には何も持たない。剣が召喚された事でモンスターも武器を構えた。

 一瞬の静寂の後戦端が開かれた。

 レインは〈強化Lv.7〉を使用し一気に接近した。先程戦った阿頼耶を上回る速度でボスの懐に接近する。当然ボスの反応は遅れた。

 レインの接近に対応しようと剣を振り下ろそうとするがその前にレインの剣が肘に突き刺さる。そしてレインは左手を硬く握り本気で殴った。
 ドゴンッ――という金属がひしゃげる様な鈍い音が響いた。それほどの音が出るほど殴ったがレインに痛みはない。

 骸骨の騎士王スケルトン・ロードはその衝撃に耐えられず後ろへ後退する。しかしそれを見逃し機会を与えるほどレインは優しくも甘くもない。

 後退しようとした骸骨の騎士王スケルトン・ロードが持つ盾の端を掴む。骸骨の騎士王スケルトン・ロードは当然振り払おうとするが握力でそれを無効にする。盾はミシミシと音を立てる。
 レインはそのまま右手に持った剣を手放し、真っ黒な戦鎚を召喚する。常人なら両手で持たないと持ち上がる事すら無い大きさだ。
 そんな大きさの戦鎚を上から振り下ろし骸骨の騎士王スケルトン・ロードの顔面を殴打する。

 骸骨の騎士王スケルトン・ロードが頭に被っていた立派な兜は形を大きく変えた。中にある頭蓋ごと大きく凹んだ。

「死んだ……か?」

 骸骨の騎士王スケルトン・ロードは背中から倒れる動きをする。頭を潰したんだ。
 しかし倒れきる前に停止した。そして頭が潰れたままこちらに剣を振るってきた。

「まあ核を破壊しないと再生するって言ってたしな」

 レインに油断は一切ない。タイミングを合わせて剣を飛び越えた。着地と同時に骸骨の騎士王スケルトン・ロードの脚を戦鎚で殴りつけ完全に転倒させる。そして今度は戦鎚を両手で握る。

 ――ピコンッ!――ピコンッ!

 何かのレベルが上がったな。しかし確認するのも面倒だ。後でいい。

 戦鎚を頭上に勢いよく振り上げ地面に背中をつけて倒れるモンスターを見下ろす。そして間髪入れずに全力で振り下ろした。

 骸骨の騎士王スケルトン・ロードは咄嗟に盾を間に挟み込む。
 ズドンッ!!!!――洞窟の天井からパラパラと石が落ちてくる。かなり広いボスの部屋全体に広がるように亀裂が走る。

 
 

 
 
 

 
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