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第86話 またウェグリア

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「落ち着いたか?」

「あッ……ごめんなさい」

「謝る必要はないよ。じゃあ君たちが住んでいた孤児院はどこにあるんだ?」

「……えっと、あそこ……だと思う」

帝都中で煙が上がっている。
しかしカグヤが指差した方向はまだ煙が上がっていない。
しかも王城からも市場からもかなり離れた辺鄙な位置にある。
孤児院だから帝都でも価値の少ない場所に建てられたんだろう。
皇国兵もまだそこまでは進んでいないのか?
それとも守備兵も置かれてないから素通り出来たか?

とりあえず行くとしよう。

俺はカグヤの手を取り空中を浮遊する。

「あ……あそこ」

「あれか?」

「……うん」

「そうか」

俺の目の前にあるのはボロボロで素人が修復したような板で打ちつけられた建物だった。
広さこそはあるものの帝都で起きている戦闘の振動で簡単に倒壊してしまいそうな程、脆く見える。

帝都内にある建物とは思えない。
やはり帝国は帝国だ。

カグヤと共にその孤児院の前に着地する。

するとカグヤは俺から手を離し孤児院の中に走っていった。
俺もそれについていく。

「あれ?なんで?」

そうカグヤは呟く。

「どうした?」

部屋の中には誰もいない。
しかし部屋の奥にはベッドや布団が並び、手前には玩具が散乱していた。

そして入り口から右奥のテーブル、大人だと十数人、子供ならもっとか?くらいの大きさのテーブルと椅子が20脚ほど並んでいる。

しかし、ここ数日は誰も住んでいない様な感じだ。

「本当にここなのか?誰かがいた様な形跡はあるがしばらく住んでいない様だぞ?」

「こ、ここ!ここであってる。みんな……どこ?」

俺は孤児院に入る。
そして机の上に一枚の紙が置かれているのを見つけた。

「カグヤ、これを」

ベッドの方にいたカグヤはこちらに走ってくる。

紙の内容は手紙だった。

内容は

私たちはある人の助けでウェグリアに避難しました。
冒険者組合に話を通してあります。
もし、あなた達の誰かが帰ってきてこの手紙を見たら何とか帝都を抜け出してウェグリアの冒険者組合まで来て下さい。

また会える日を楽しみにしています。
どうかご無事で

という内容だった。

ウェグリア……か。

正直いうと行きたくはない。
なぜなら俺の顔は既に知られている。
それに知り合いもいる。

カグヤは黙って読んでいるが、そちらに行きたいと言い出したら送ってやれないかもしれない。

それにウェグリアは帝国領だ。

皇国との国境からは遠いから、そこまでの侵攻の指示は出していないから損害も出ていないはず。
確かにそこなら安全だろうが……。
ここはカグヤの希望を可能な限り聞こう。

「あんたって敵には容赦ないけど、こうした子供には甘いよねぇ?ベリス達にもそうだったけどさ」

ベリス達は悪魔だし長生きだからそうでもないけど、この子達には何の罪もないからな。
この世界は嫌いだが、全ての人類を殺害したい訳じゃないよ。
スキルが全ての世界とそう考える人間が嫌いなだけだ。

なんか俺のことを殺人狂みたいに言いやがって。

「ごめんごめん。それで?どうするだ?この国の王様の場所は分かったんだからそこにいった方がいいんじゃないか?この子達はとりあえずあそこの教会に預けてさ。国王さえ殺してしまえばこの戦争は終わるんだろ?だったらウェグリアにいるこの子たちのシスターとも遠慮なく会えるじゃないか」

セーレ………。
やっぱりたまに良いこと言うよね!

「あん?今、バカにした?バカにしたよね?」

そんな事ないよ?アイシテルヨ?

「えっ?!ホント!えへへーもう仕方ないなぁー」

「お、お姉様チョロいです!チョロすぎますよ!」

「えー何がー?」

「流石、カイアスさんだ。もうお姉様の扱いをマスターしてる……」

俺は魔神の扱いが上手いんだ。
これ誰に誇ったらいいんだ?

まあいいや。

「なあカグヤ?君はどうしたい?」

「………みんなに会いたい。でもカイアスさんに迷惑?」

意外と勘がいいのかな?

「そうでもない。でもタイミングが悪いね。一旦、皇国の教会に戻ろう。この戦争が終わればこの場所まで行けるように必ず手配する。約束だ」

俺はカグヤの目線に合うように膝をつく。

「………うん!」

カグヤは少し微笑み。
納得したようだった。

そしてまた同じ手順で教会に戻る。

扉を開けると先程預けた3人が走ってくる。
既に服も着替え、風呂にも入った様だ。
綺麗になってる。

カグヤは急いで連れて行ったせいであのままだ。
少し悪いことをしたな。

「おかえりなさい!どうでした?」

子供たちが一斉に聞いてくる。

「コラコラ。カイアス様が困っていますよ?落ち着きなさい?………それでどうでしたか?」


「ああ、順番に話す。でもその前にこの子に風呂と着替えと食事を頼むよ」

「そうですね。私とした事が……。さあおいで?」

「大丈夫だ。あとであの事を話そう」

「…………うん」

カグヤはシスターに連れられ教会の奥へ歩いて行った。

ふぅ。俺も疲れた。戦争が始まってからは常に〈魔神〉と〈服従〉を使っていたからな。

ここで少し休ませてもらおう。
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