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第101話「2022/10/11´ ⑤」
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コヨミもまた匣であり、ヨモツのように世界を書き換える力を持っていたのだとしたら、今のこの世界が現在進行形で書き換えられ続けていることにも説明がつく。
「匣がふたつあれば、たとえどちらかの匣が破壊されたまま世界が書き換えられたとしても、新たな世界をもう一方の匣がさらに書き換えれば、匣はふたつに戻ります。
メインとなる匣は、不老不死の存在であった比良坂ヨモツでしょう。匣のコピーは姿を変えた彼の身体から、小久保博士によって作られていたようですから。
比良坂ヨモツは世界が書き換えられる度に新しい世界に転移し、比良坂コヨミは新しい世界に、サブやスペアの匣として人の身で転生する。
新たな世界への移動の仕方に違いがあるのも、匣がふたつあることを隠すためだと考えれば説明がつきませんか?」
だけど、それは、
「ぼくはコヨミをまた殺さなければいけないのか……」
そういうことを意味していた。
しかも、今のコヨミはイズミであり、世界を無意識に書き換える力はあっても、コヨミであったときの記憶はないのだ。
「ですが、ふたつの匣を完全に世界から消滅させるには今しかないのでは?」
「そうだよ。今ならヨモッちはいない。イズミッヒーがコヨミンの記憶を取り戻したら、ヨモッちが復活しちゃう」
「イズモくんが手を下す必要はないんじゃないかな。ボクとユワがムラクモを動かせばすむだけの話だよ。
イズミちゃんは、二つ目の匣は、雨野家が責任を持って破壊する」
「ヤマヒトさん、車を停めてくれる?」
ぼくはヤマヒトさんに車を路肩に停めさせると、
「悪いけど、母さんのところには、ユワとナユタのふたりで行ってくれるかな」
ふたりにそう言って、車を降りた。
「イズモくんは? どうするつもり?」
「イズミが待ってるマンションに帰るよ」
ムラクモを動かせばすむ、ナユタは簡単にそう言ったが、それが簡単な話ではないことは、ナユタもユワもわかっているはずだった。
確かにムラクモにイズミを殺させるだけなら、匣として破壊させるだけなら簡単だろう。
雨野家の力を使えば、警察に圧力をかけ、イズミの死を事故として処理することもできるだろう。
だが、ムラクモの隊員たちにその命令を下し、彼女を殺したのは自分たちだと、ふたりは一生その罪を背負っていくことになる。
そんなことはふたりにはさせられない。
その罪を背負うのは、ぼくであるべきだ。
「ヤマヒトさんもムラクモのメンバーなんだよね? 拳銃を持ってたら貸してくれる?」
「イズモくん? だから君がイズミちゃんを殺す必要は……」
「ぼくがやらなきゃいけないんだ」
「本気……なんだよね……
だったらナユタ、わたしたちにはもうイズモくんを止められないよ」
ヤマヒトさんはぼくに銃口の先に長い筒のついた拳銃を差し出した。
映画やドラマでよく見るその銃は、コルト・ガバメントというものだった。先についている長い筒はサイレンサーというやつだろう。
「ムラクモの隊員は、皆サイレンサー付きのコルト・ガバメントM1911を携帯しています。
弾数は8発あります。
銃口は45口径。仮に一発で対象を仕留められなくても、身体のどこかに弾丸が命中すれば対象を転倒させるほどの力があります。確実に仕留める場合、プロは必ず2発撃ちます。
拳銃は10メートルを超えると動く目標に当てるのはプロでも難しいです。なるべく至近距離から撃ってください。
それから、誤解されやすいのですが、サイレンサーは銃声を完全に消すものではありません。
この拳銃の弾丸の初速は音速以下ですが、弾丸が飛ぶと衝撃波によって大きな音が発生します。
サイレンサーは衝撃波による音を抑制することはできますが、弾丸が風を切る音を抑制することはできません」
ヤマヒトさんは、映画やドラマを観ているだけではわからないことを丁寧に教えてくれた。
ぼくはタクシーを拾って、イズミと住むマンションに向かった。
だが、ぼくの覚悟も、ヤマヒトさんの丁寧な説明も無意味だった。
ぼくがマンションに帰ったときには、すでにイズミは射殺されていたからだ。
「匣がふたつあれば、たとえどちらかの匣が破壊されたまま世界が書き換えられたとしても、新たな世界をもう一方の匣がさらに書き換えれば、匣はふたつに戻ります。
メインとなる匣は、不老不死の存在であった比良坂ヨモツでしょう。匣のコピーは姿を変えた彼の身体から、小久保博士によって作られていたようですから。
比良坂ヨモツは世界が書き換えられる度に新しい世界に転移し、比良坂コヨミは新しい世界に、サブやスペアの匣として人の身で転生する。
新たな世界への移動の仕方に違いがあるのも、匣がふたつあることを隠すためだと考えれば説明がつきませんか?」
だけど、それは、
「ぼくはコヨミをまた殺さなければいけないのか……」
そういうことを意味していた。
しかも、今のコヨミはイズミであり、世界を無意識に書き換える力はあっても、コヨミであったときの記憶はないのだ。
「ですが、ふたつの匣を完全に世界から消滅させるには今しかないのでは?」
「そうだよ。今ならヨモッちはいない。イズミッヒーがコヨミンの記憶を取り戻したら、ヨモッちが復活しちゃう」
「イズモくんが手を下す必要はないんじゃないかな。ボクとユワがムラクモを動かせばすむだけの話だよ。
イズミちゃんは、二つ目の匣は、雨野家が責任を持って破壊する」
「ヤマヒトさん、車を停めてくれる?」
ぼくはヤマヒトさんに車を路肩に停めさせると、
「悪いけど、母さんのところには、ユワとナユタのふたりで行ってくれるかな」
ふたりにそう言って、車を降りた。
「イズモくんは? どうするつもり?」
「イズミが待ってるマンションに帰るよ」
ムラクモを動かせばすむ、ナユタは簡単にそう言ったが、それが簡単な話ではないことは、ナユタもユワもわかっているはずだった。
確かにムラクモにイズミを殺させるだけなら、匣として破壊させるだけなら簡単だろう。
雨野家の力を使えば、警察に圧力をかけ、イズミの死を事故として処理することもできるだろう。
だが、ムラクモの隊員たちにその命令を下し、彼女を殺したのは自分たちだと、ふたりは一生その罪を背負っていくことになる。
そんなことはふたりにはさせられない。
その罪を背負うのは、ぼくであるべきだ。
「ヤマヒトさんもムラクモのメンバーなんだよね? 拳銃を持ってたら貸してくれる?」
「イズモくん? だから君がイズミちゃんを殺す必要は……」
「ぼくがやらなきゃいけないんだ」
「本気……なんだよね……
だったらナユタ、わたしたちにはもうイズモくんを止められないよ」
ヤマヒトさんはぼくに銃口の先に長い筒のついた拳銃を差し出した。
映画やドラマでよく見るその銃は、コルト・ガバメントというものだった。先についている長い筒はサイレンサーというやつだろう。
「ムラクモの隊員は、皆サイレンサー付きのコルト・ガバメントM1911を携帯しています。
弾数は8発あります。
銃口は45口径。仮に一発で対象を仕留められなくても、身体のどこかに弾丸が命中すれば対象を転倒させるほどの力があります。確実に仕留める場合、プロは必ず2発撃ちます。
拳銃は10メートルを超えると動く目標に当てるのはプロでも難しいです。なるべく至近距離から撃ってください。
それから、誤解されやすいのですが、サイレンサーは銃声を完全に消すものではありません。
この拳銃の弾丸の初速は音速以下ですが、弾丸が飛ぶと衝撃波によって大きな音が発生します。
サイレンサーは衝撃波による音を抑制することはできますが、弾丸が風を切る音を抑制することはできません」
ヤマヒトさんは、映画やドラマを観ているだけではわからないことを丁寧に教えてくれた。
ぼくはタクシーを拾って、イズミと住むマンションに向かった。
だが、ぼくの覚悟も、ヤマヒトさんの丁寧な説明も無意味だった。
ぼくがマンションに帰ったときには、すでにイズミは射殺されていたからだ。
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