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あめの みかな

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第100話「2022/10/11´ ④」

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「匣は最初からふたつ存在したってこと?」

「確かに、そうじゃないとアハシマが棄てられた理由がわからないね」

 前の世界までの日本神話にも、アハシマが棄てられた明確な理由は古事記にも日本書紀にも記されていなかった。
 おそらくアハシマもまた、ヒルコと同様に不具の子であったのだろう、と後世の学者たちによって解釈されているに過ぎなかった。

「前の世界には、『ウィルキンズ司教の匣』と呼ばれるもうひとつの匣が、すでに存在していました。
 ヒラサカグループが永久機関を実現させ、オーブと名付けた後、世界はふたつに分かれていましたよね」

「確か、永久機関の試験運用のためには、大量破壊兵器をすべて破棄しなきゃいけなかったんだっけ?」

「大国や隣国は、国連が決めたその条件に難色を示したから、永久機関の導入が遅れた……」

「そうです。日本を含むオーブ保有国連邦の誕生から数年後、大国らは教会が3世紀に渡り秘匿し続けてきた『ウィルキンズ司教の匣』の存在を知りました。
 そして、大国らは教会に匣の開示を求めました。開示しなければ、武力行使も辞さないと。
 永久機関の設計図を手入れた大国らは、大量破壊兵器兵器を保持したまま、永久機関『クリスタル』を手に入れました。
 ですが、ウィルキンズ司教の匣はその後何故か消息不明となっています」

「その『ウィルキンズ司教の匣』が、コヨミンなの?」

「おそらく、前の世界のコヨミさんは、17世紀末期か18世紀初頭には生まれていたのでしょう。
 様々な奇跡を起こす赤ん坊として。
 そして、その赤ん坊が自分の妹だと気づいた比良坂ヨモツは彼女に接触し、コールドスリープ処理をした。
 その冷凍保存された身体は、比良坂ヨモツの命により、教会が3世紀に渡り秘匿し続けてきた。
 大国らが永久機関を手に入れたあと、匣の行方がわからなくなったのも、比良坂ヨモツが回収し、イズモさんと同じ児童養護施設に預けたからではないでしょうか。
 比良坂ヨモツは、もしかしたらサンジェルマン伯爵でもあったのかもしれませんね」

「サンジェルマン伯爵って?」

「18世紀のヨーロッパを中心に活動した、天才的な言語能力と途方もない知識の持ち主であり、不老不死説、タイムトラベラー説、人類史上唯一錬金術に成功した錬金術師説など、様々な憶測を呼んでいる、ヨーロッパで最も謎の多い人物のひとりです」

 その不老不死タイムトラベラー錬金術師さんは、スペインの王妃と貴族の伯爵との私生児だと言われているという。私生児は確か、法律上の婚姻関係にない男女間に生まれた子のことだ。

 彼の人生には不明な点が極めて多く、その正体が明らかとなるのは、彼がフランス社交界で活躍する1758年以降、67歳になってからであるという。しかしこの年齢が正しいのかどうかさえも不明であり、社交界で活躍していた時期の彼は40代以前にしか見えなかったという。

「まるでジョジョジョの荒本比呂彦先生だね」

「荒本先生みたいな人、声優さんにもいたよね。子守まみなさんだっけ」

 ナユタとユワが言った。

 そのサンジェルマン伯爵という人は、イエス・キリストや、72柱の悪魔を使役した古代イスラエル王国のソロモン王、彼の知恵を試そうとアラビア半島の南端にあったシバという国からエルサレムにやってきて、彼の知恵と財宝に驚いて宝物を贈り帰国したシヴァ王女とも面識があり、十字軍に参加していたこともあると本人が語っており、3000年以上もの長い時を生きた、あるいは今も生きている可能性がある人物なのだという。

「これが漫画やラノベだったなら、大風呂敷を広げすぎだね。漫画なら読者アンケートの順位が落ちてきたら『俺たちの戦いはこれからだ』って打ち切ることもできるけど」

 あいにく、ぼくたちにとってはその広げられすぎた大風呂敷が目の前にある現実だった。それにヨモツやコヨミがヒルコやアハシマだった時点で大風呂敷はすでに広げられていた。
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