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第95話「2022/10/09´ ⑥」
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だけど、レデクスをこの世界に生み出してしまったら……
『イズモくんが言いたいことはわかってるよ』
『前の世界のコヨミちゃんが世界を書き換えたから、イズモくんの言う今のこの理想的な世界があることは事実だからね。
もう二度と世界を書き換えるようなことがあってはいけない』
『だけど、イズモくんが前の世界に帰るだけなら、問題ないんじゃないかな』
『この世界のイズミッヒーには何の罪もないから、あの子には悪いけどね』
と、ユワとナユタは言った。
そんなことが可能なのだろうか。
『身体ごと前の世界に転移することは無理だと思う。でも、イズモくんの記憶や知識、経験だけなら……
もしかしたらだけどね』
『ボクたちはたぶん、新しく作られた世界に新しく生まれた命であって、前やその前、さらに前の世界のボクたちとは完全に同じ身体ではないはずなんだ』
確かに、匣によって書き換えられた世界が無数に平行して存在し、それらの世界すべてにぼくがいるとしたら、ぼくは転移や転生をしているわけではなく、すべての世界で新しく生を受けているということになる。
昨年、ぼくの好きなアメコミの実写化シリーズが、マルチバースの世界観に突入し、歴代のスパイマンダーを演じたハリウッド俳優が勢揃いする夢のような映画があった。
彼らは同じ名前を持ち、似たような理由から同じヒーローになっていたが、顔や背丈や性格は異なっていた。
その続編のドクターレジントスでは、別の宇宙に存在する複数のドクターレジントスを同じ俳優が演じ分けていたけれど。やはり性格は似ているようで違っていた。
たぶん、ぼくたちが生きている平行世界も似たようなものなのだろう。
同じ名前を持ち、同じ顔や声を持っていても、それぞれの世界のぼくは、DNAが微妙に違っていたりするのかも知れなかった。
両親は同じはずだから、1パーセントにも満たない、限りなくゼロに近いような数値の違いでしかないだろうけれど。チンパンジーと人類ですら数パーセントしか違わないらしいから。
ふたつ前の世界でヒラサカ高校の授業についていくだけで精一杯だったぼくが、ひとつ前の世界では理系のトップクラスだったらしいから、DNAのほんのわずかな違いで人は天才にも秀才や凡人にもなり得るのだ。
『でも、わたしたちは前の世界の記憶を引き継ぐことができた。
前の世界がわたしたちにとっては過去でも、今の世界と平行して現在進行形で存在してるんなら、逆に前の世界のイズモくんが、今の世界のイズモくんの記憶を引き継ぐこともできるはずだよね』
ぼくたちは、その可能性にかけてみることにした。
それが可能かどうかは、母次第だったが。
母がぼくたちに協力してくれ、レデクスをこの世界で再現し、さらに前の世界のぼくにこの世界のぼくの記憶を引き継がせることができるなら、というとても低い可能性だったけれど。
「今日はふたりでゆっくり過ごそうね。明日もお休みだし、学校は明後日からだから」
そう言ったイズミは、ぼくにとても優しくしてくれた。
ぼくが相変わらず前の世界の記憶しかなかったり、暗い顔をしていたりしたからだろう。
「大丈夫だよ。イズくんにはわたしがいるから。わたしがずっとイズくんを守ってあげる」
ぼくを抱きしめてくれた。頭を撫でてくれた。
「イズくんがわたしのこと嫌いになっても、わたしはイズくんのことを嫌いにはならないからね」
いっぱい、いっぱいキスをしてくれた。
『そんなにロリコちゃんのことが好きなら、諦めちゃだめだよ』
『この世界のイズミッヒーには何の罪もないから、あの子には悪いけどね』
ロリコにどうしても会いたいぼくと、このままでいいのではないかと思ってしまうぼくが、まるで天使と悪魔のようにぼくの頭の中で囁いていた。
一体どちらが天使でどちらが悪魔なのかさえ、ぼくにはわからなかった。
どちらも正しいように思えたし、どちらも間違っているように思えた。
『イズモくんが言いたいことはわかってるよ』
『前の世界のコヨミちゃんが世界を書き換えたから、イズモくんの言う今のこの理想的な世界があることは事実だからね。
もう二度と世界を書き換えるようなことがあってはいけない』
『だけど、イズモくんが前の世界に帰るだけなら、問題ないんじゃないかな』
『この世界のイズミッヒーには何の罪もないから、あの子には悪いけどね』
と、ユワとナユタは言った。
そんなことが可能なのだろうか。
『身体ごと前の世界に転移することは無理だと思う。でも、イズモくんの記憶や知識、経験だけなら……
もしかしたらだけどね』
『ボクたちはたぶん、新しく作られた世界に新しく生まれた命であって、前やその前、さらに前の世界のボクたちとは完全に同じ身体ではないはずなんだ』
確かに、匣によって書き換えられた世界が無数に平行して存在し、それらの世界すべてにぼくがいるとしたら、ぼくは転移や転生をしているわけではなく、すべての世界で新しく生を受けているということになる。
昨年、ぼくの好きなアメコミの実写化シリーズが、マルチバースの世界観に突入し、歴代のスパイマンダーを演じたハリウッド俳優が勢揃いする夢のような映画があった。
彼らは同じ名前を持ち、似たような理由から同じヒーローになっていたが、顔や背丈や性格は異なっていた。
その続編のドクターレジントスでは、別の宇宙に存在する複数のドクターレジントスを同じ俳優が演じ分けていたけれど。やはり性格は似ているようで違っていた。
たぶん、ぼくたちが生きている平行世界も似たようなものなのだろう。
同じ名前を持ち、同じ顔や声を持っていても、それぞれの世界のぼくは、DNAが微妙に違っていたりするのかも知れなかった。
両親は同じはずだから、1パーセントにも満たない、限りなくゼロに近いような数値の違いでしかないだろうけれど。チンパンジーと人類ですら数パーセントしか違わないらしいから。
ふたつ前の世界でヒラサカ高校の授業についていくだけで精一杯だったぼくが、ひとつ前の世界では理系のトップクラスだったらしいから、DNAのほんのわずかな違いで人は天才にも秀才や凡人にもなり得るのだ。
『でも、わたしたちは前の世界の記憶を引き継ぐことができた。
前の世界がわたしたちにとっては過去でも、今の世界と平行して現在進行形で存在してるんなら、逆に前の世界のイズモくんが、今の世界のイズモくんの記憶を引き継ぐこともできるはずだよね』
ぼくたちは、その可能性にかけてみることにした。
それが可能かどうかは、母次第だったが。
母がぼくたちに協力してくれ、レデクスをこの世界で再現し、さらに前の世界のぼくにこの世界のぼくの記憶を引き継がせることができるなら、というとても低い可能性だったけれど。
「今日はふたりでゆっくり過ごそうね。明日もお休みだし、学校は明後日からだから」
そう言ったイズミは、ぼくにとても優しくしてくれた。
ぼくが相変わらず前の世界の記憶しかなかったり、暗い顔をしていたりしたからだろう。
「大丈夫だよ。イズくんにはわたしがいるから。わたしがずっとイズくんを守ってあげる」
ぼくを抱きしめてくれた。頭を撫でてくれた。
「イズくんがわたしのこと嫌いになっても、わたしはイズくんのことを嫌いにはならないからね」
いっぱい、いっぱいキスをしてくれた。
『そんなにロリコちゃんのことが好きなら、諦めちゃだめだよ』
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ロリコにどうしても会いたいぼくと、このままでいいのではないかと思ってしまうぼくが、まるで天使と悪魔のようにぼくの頭の中で囁いていた。
一体どちらが天使でどちらが悪魔なのかさえ、ぼくにはわからなかった。
どちらも正しいように思えたし、どちらも間違っているように思えた。
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