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第93話「2022/10/09´ ④」
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「ぼくはロリコやシヨタと一緒に、比良坂ヨモツを、匣を壊した」
ぼくはふたりに、世界が書き換えられる時には、書き換えられる前の世界と書き換えられた後の世界が平行して存在することや、匣である比良坂ヨモツが世界が書き換えられる度に常に新しい世界に転移していたことを話した。
「匣が存在しなくなっても、レデクスの中にあった匣のコピーは存在するから、誰かが匣そのものと呼ばれる存在になったんだと思う」
シヨタは、警察署に侵入してまで、ぼくたちが知る限りの匣のコピーを回収してくれていた。
だが、おそらく他にも匣のコピーは存在したのだろう。
誰が匣そのものになってしまったのかはわからないが、かわいそうなことをしてしまった。もう少し時間があれば止められたかもしれなかった。
「匣そのものになった者は、五感を失って狂ってしまうか、狂ってから五感を失ってしまうから、自分では世界を書き換えることはできない。
だけど、世界を書き換える意思を持っていて、その方法を知っている者の手に渡れば」
「世界を書き換えることができるんだね?」
「うん、前の世界では、たぶんコヨミが世界を書き換えたんだと思う。
コヨミは、前の世界でユワが気付いてた通り、ずっと偽物だった。
ぼくたちがヨモツを、匣を壊した後、ヤマヒトさんがコヨミを殺したけど、そのコヨミも偽物で……
本物のコヨミは、このオルフィレウスの匣が存在しない世界を作るために、二度と世界が書き換えられないような世界を作るために、きっとどこか安全な場所でいろいろと動いてくれていたんだと思う」
ぼくたちはコヨミに導かれたとも言えるし、コヨミの手のひらの上でただただ踊らされていたに過ぎないとも言えた。
それについては深く考えてはいけないような気がした。
「コヨミンが、イズミッヒーに変わってたのはどうして?
見た目はコヨミンのままだよね? でも性格はだいぶ変わってる。
本物のコヨミンと偽物のフィリアって子と、ロリコちゃんを足して、3で割ったみたいな感じ」
「たぶん、コヨミはコヨミであることをやめたかったんだと思う。
比良坂ヨモツが新しい世界が生まれる度にその世界に転移してたみたいに、コヨミも必ず新しい世界に転生するように、ヨモツがしていたみたいだから。
きっと何十回、何百回と転生を繰り返しているうちに、疲れちゃったんじゃないかな。
これ以上新しい世界が生まれないようにして、もう二度と新しい世界に転生することのない、ひとりの普通の女の子として最後の人生を送るために、コヨミであることさえも捨ててしまったのが、今のイズミなんだと思う」
あくまでぼくの憶測でしかなかったけれど、そうだと信じたかった。
「イズモくんの考えてる通りだとしても、それってコヨミンは、大好きなイズモくんとずっと一緒にいられる世界を、自分が幸せになるためだけに作ったってことだよね」
「自分が幸せになるには、必ず障害となるロリコちゃんを、彼女はこの世界に存在させるわけにはいかなかった。
だからシヨタくんといっしょに存在しないようにした。
それって、正しいことをしたって言えるのかな?」
正しいことではないくらい、ぼくもわかっていた。
「でも、ロリコやシヨタがいないことを除けば、この世界は理想的な世界だとは思わないか?
匣はもう存在しないんだ。もう二度と世界が書き換えられることはないんだよ。
さっきまでいたはずの大事な人が、目の前から消えてしまう辛さを、もう誰も味わわなくてすむんだよ」
「イズモくんは、いつこの世界に来たの?」
「ついさっきだよ」
「さっきまでいたはずの大事な人が、目の前から消えてしまう辛さを、イズモくんはそのついさっき味わったばかりじゃないの?
どうして、そんな風に落ち着いていられるの? ロリコちゃんはもうどこにもいないんだよ?」
ロリコがいない。
それを考えるだけで、ぼくは胸が張り裂けそうだった。気が狂ってしまいそうだった。
だけど、
「ぼくにはもう、どうすることもできないから」
そう思うしかなかった。
「大事な人が、目の前から消えてしまう辛さを味わうのは、ぼくで終わりになったんだから、もういいんだよ」
本当にどうしようもないのだ。
これでよかったんだと諦めて、いつかロリコのことを忘れることができるかもしれない、イズミを心から愛せるようになるかもしれないと信じて生きていくしかなかった。
そうなったときに、まだこの世界に物足りなさを感じてしまうようなら、きっと前の世界でロリコやシヨタと過ごした時間が楽しすぎたからだと、懐かしい青春の日々を思い出すかのように想いを馳せる、そんな日が来ることを信じるしかなかった。
それに前の世界はなくなってしまったわけではない。
今の世界と平行して存在している。
どちらの世界にもぼくはいて、前の世界はコヨミが新たな世界を創造したことで、匣やそのコピー、匣そのものになった者をめぐる戦いは終わり、平和になっていることだろう。
結果的に比良坂ヨモツの思い通りになってしまったが、ふたつの世界でぼくは愛する人に愛され幸せに生きていくのだ。
だからこれでいい。
これでいいはずなのに、なぜぼくは今泣いているのだろう。
涙が止まらないのだろう。
ロリコに会いたかった。
会いたくてたまらなかった。
ぼくはふたりに、世界が書き換えられる時には、書き換えられる前の世界と書き換えられた後の世界が平行して存在することや、匣である比良坂ヨモツが世界が書き換えられる度に常に新しい世界に転移していたことを話した。
「匣が存在しなくなっても、レデクスの中にあった匣のコピーは存在するから、誰かが匣そのものと呼ばれる存在になったんだと思う」
シヨタは、警察署に侵入してまで、ぼくたちが知る限りの匣のコピーを回収してくれていた。
だが、おそらく他にも匣のコピーは存在したのだろう。
誰が匣そのものになってしまったのかはわからないが、かわいそうなことをしてしまった。もう少し時間があれば止められたかもしれなかった。
「匣そのものになった者は、五感を失って狂ってしまうか、狂ってから五感を失ってしまうから、自分では世界を書き換えることはできない。
だけど、世界を書き換える意思を持っていて、その方法を知っている者の手に渡れば」
「世界を書き換えることができるんだね?」
「うん、前の世界では、たぶんコヨミが世界を書き換えたんだと思う。
コヨミは、前の世界でユワが気付いてた通り、ずっと偽物だった。
ぼくたちがヨモツを、匣を壊した後、ヤマヒトさんがコヨミを殺したけど、そのコヨミも偽物で……
本物のコヨミは、このオルフィレウスの匣が存在しない世界を作るために、二度と世界が書き換えられないような世界を作るために、きっとどこか安全な場所でいろいろと動いてくれていたんだと思う」
ぼくたちはコヨミに導かれたとも言えるし、コヨミの手のひらの上でただただ踊らされていたに過ぎないとも言えた。
それについては深く考えてはいけないような気がした。
「コヨミンが、イズミッヒーに変わってたのはどうして?
見た目はコヨミンのままだよね? でも性格はだいぶ変わってる。
本物のコヨミンと偽物のフィリアって子と、ロリコちゃんを足して、3で割ったみたいな感じ」
「たぶん、コヨミはコヨミであることをやめたかったんだと思う。
比良坂ヨモツが新しい世界が生まれる度にその世界に転移してたみたいに、コヨミも必ず新しい世界に転生するように、ヨモツがしていたみたいだから。
きっと何十回、何百回と転生を繰り返しているうちに、疲れちゃったんじゃないかな。
これ以上新しい世界が生まれないようにして、もう二度と新しい世界に転生することのない、ひとりの普通の女の子として最後の人生を送るために、コヨミであることさえも捨ててしまったのが、今のイズミなんだと思う」
あくまでぼくの憶測でしかなかったけれど、そうだと信じたかった。
「イズモくんの考えてる通りだとしても、それってコヨミンは、大好きなイズモくんとずっと一緒にいられる世界を、自分が幸せになるためだけに作ったってことだよね」
「自分が幸せになるには、必ず障害となるロリコちゃんを、彼女はこの世界に存在させるわけにはいかなかった。
だからシヨタくんといっしょに存在しないようにした。
それって、正しいことをしたって言えるのかな?」
正しいことではないくらい、ぼくもわかっていた。
「でも、ロリコやシヨタがいないことを除けば、この世界は理想的な世界だとは思わないか?
匣はもう存在しないんだ。もう二度と世界が書き換えられることはないんだよ。
さっきまでいたはずの大事な人が、目の前から消えてしまう辛さを、もう誰も味わわなくてすむんだよ」
「イズモくんは、いつこの世界に来たの?」
「ついさっきだよ」
「さっきまでいたはずの大事な人が、目の前から消えてしまう辛さを、イズモくんはそのついさっき味わったばかりじゃないの?
どうして、そんな風に落ち着いていられるの? ロリコちゃんはもうどこにもいないんだよ?」
ロリコがいない。
それを考えるだけで、ぼくは胸が張り裂けそうだった。気が狂ってしまいそうだった。
だけど、
「ぼくにはもう、どうすることもできないから」
そう思うしかなかった。
「大事な人が、目の前から消えてしまう辛さを味わうのは、ぼくで終わりになったんだから、もういいんだよ」
本当にどうしようもないのだ。
これでよかったんだと諦めて、いつかロリコのことを忘れることができるかもしれない、イズミを心から愛せるようになるかもしれないと信じて生きていくしかなかった。
そうなったときに、まだこの世界に物足りなさを感じてしまうようなら、きっと前の世界でロリコやシヨタと過ごした時間が楽しすぎたからだと、懐かしい青春の日々を思い出すかのように想いを馳せる、そんな日が来ることを信じるしかなかった。
それに前の世界はなくなってしまったわけではない。
今の世界と平行して存在している。
どちらの世界にもぼくはいて、前の世界はコヨミが新たな世界を創造したことで、匣やそのコピー、匣そのものになった者をめぐる戦いは終わり、平和になっていることだろう。
結果的に比良坂ヨモツの思い通りになってしまったが、ふたつの世界でぼくは愛する人に愛され幸せに生きていくのだ。
だからこれでいい。
これでいいはずなのに、なぜぼくは今泣いているのだろう。
涙が止まらないのだろう。
ロリコに会いたかった。
会いたくてたまらなかった。
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