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第91話「2022/10/09´ ②」
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ヒルコとして産まれた匣が、エビスという神となり、蛭子サブロウと名乗ったように、アハシマとして産まれたコヨミは、スクナビコナという神になり、淡島ヒナコと名乗っていた。
ふたりは何度も世界を書き換えては、新たな世界に転移と転生を繰り返してきた。
匣が比良坂家を産み出した後は、ふたりはその後の世界で必ず、比良坂ヨモツと比良坂コヨミという兄妹になるようになっていた。
その縁(えにし)を、前の世界のコヨミは断ちきりたかったのではないだろうか。
アハシマやスクナビコナという神であることをやめたかったのではないだろうか。
彼女は、前の世界で、世界の最後の書き換えを行い、最後の世界を作り出したが、その世界に神や匣の妹としてではなく、ひとりの普通の女の子として産まれたかったのではないだろうか。
ひとりの普通の女の子として生き、その生涯をまっとうすることで、すべてを終わらせたかったのではないのだろうか。
「まだ記憶が戻らないなら病院行く?」
「大丈夫。頭を打ったわけじゃないし、一時的なものだと思うから」
今朝見た変な夢と現実がごちゃ混ぜになっているだけ、とぼくはイズミに説明した。
どんな夢だったのか訊かれたが、ぼくは適当にごまかした。
「エッチな夢でしょ? さっき出てきた女の子の名前、夢に出てきた女の子なんでしょ? それも浮気だからね?」
イズミがそんな風に勘違いするくらい、本当に適当にごまかした。
コヨミであったことを思い出させるかもしれないようなワードを、ぼくは口にしたくなかった。
今の世界のミハシラ市の中心には、「雨野比良坂総合病院」という大きな病院があるようだった。
比良坂家だけでなく、雨野家もまたこの世界にちゃんと存在しており、その病院はその名の通り、巨大な資本を持つ2つの家が合同で出資して作った病院らしい。
アメノヒラサカと2つの家名が並んだ名前は、まるで黄泉の国ではなく、神の国に続く坂のようだな、と思った。
あれ? でも病院の名前だよね? 患者がみんな天国に連れてかれそうな、なんか不吉な名前じゃね? と思ったりもしたが、2つの家が仲良くしているのなら、そんなことは些細なことだった。
雨野家には、ユワやナユタがいるということだった。
ぼくの知らないユワの兄までおり、ユワには最近ショウゴくんという彼氏が出来たらしい。
きっとヤマヒトさんもいるのだろう。
雨野比良坂総合病院には、小久保ハルミという、彼女に診てもらえば脳のことは何でもわかるという、優秀な脳外科医で脳科学者の女性がいるということだった。
一条ソウマもきっとどこかにいるのだろう。
ふたりがいなければ、ぼくが産まれることはないからだ。
彼は比良坂家か、その病院の警備員をしているのだろうか。
警視庁公安部のエリート刑事だったらしいから、今もそこにいるのかもしれなかった。
「今日は比良坂47のライブに行く予定だったけど、やめよっか。ユワちゃんたち、手に入らなかったって言ってたし、ふたりにチケットあげようかな。
イズくんが、いつもみたいにヘッドバンキングしたりとか、大はしゃぎしたら身体に悪そうだもんね」
この世界のぼくは、イズミやユワと同じで比良坂47の上村コノカちゃんの大ファンらしかった。
でもなんでぼくは、アイドルのライブでヘッドバンキングしてるのかな。
イズミはオムライスを食べ終わると、スマホでユワに電話をかけた。
5分もしないうちに、ユワはナユタを連れてぼくたちの部屋にやってきた。
この世界にも、あの馬鹿みたいに胴の長いリムジンがきっとあるのだろう。
イズミは玄関先でふたりにライブのチケットを渡していたが、ぼくはどういう顔をしてふたりに会えばいいのかわからなかったから、リビングのソファーでぼんやりとしていた。
「イズくん、ユワちゃんとナユタくんが話があるって。たぶん、ライブのことか、上村コノカちゃんのことだと思うんだけど」
イズミに呼ばれ、ぼくが彼女とふたりの元へ行くと、
「イズミッヒーはちょっと外してもらっていい?」
「ボクたち、イズモくんに大事な話があるんだ」
と、ユワとナユタはイズミに言った。イズミッヒーって呼ばれてるんだ……と、唖然としたが顔には出さなかった。
イズミは、
「いくらユワちゃんが相手でも浮気とか、あとナユタくんを入れて3Pとか、許さないからね?」
と言って、キッチンに向かって行った。
ぼくは思わず笑ってしまったが、ふたりは笑っていなかった。
イズミが食器を洗う音が聞こえ始めると、
「その顔は、ふたりとも前の世界のことを覚えてるってことでいいんだな?」
と、ぼくはユワとナユタに訊ねた。
ふたりは何度も世界を書き換えては、新たな世界に転移と転生を繰り返してきた。
匣が比良坂家を産み出した後は、ふたりはその後の世界で必ず、比良坂ヨモツと比良坂コヨミという兄妹になるようになっていた。
その縁(えにし)を、前の世界のコヨミは断ちきりたかったのではないだろうか。
アハシマやスクナビコナという神であることをやめたかったのではないだろうか。
彼女は、前の世界で、世界の最後の書き換えを行い、最後の世界を作り出したが、その世界に神や匣の妹としてではなく、ひとりの普通の女の子として産まれたかったのではないだろうか。
ひとりの普通の女の子として生き、その生涯をまっとうすることで、すべてを終わらせたかったのではないのだろうか。
「まだ記憶が戻らないなら病院行く?」
「大丈夫。頭を打ったわけじゃないし、一時的なものだと思うから」
今朝見た変な夢と現実がごちゃ混ぜになっているだけ、とぼくはイズミに説明した。
どんな夢だったのか訊かれたが、ぼくは適当にごまかした。
「エッチな夢でしょ? さっき出てきた女の子の名前、夢に出てきた女の子なんでしょ? それも浮気だからね?」
イズミがそんな風に勘違いするくらい、本当に適当にごまかした。
コヨミであったことを思い出させるかもしれないようなワードを、ぼくは口にしたくなかった。
今の世界のミハシラ市の中心には、「雨野比良坂総合病院」という大きな病院があるようだった。
比良坂家だけでなく、雨野家もまたこの世界にちゃんと存在しており、その病院はその名の通り、巨大な資本を持つ2つの家が合同で出資して作った病院らしい。
アメノヒラサカと2つの家名が並んだ名前は、まるで黄泉の国ではなく、神の国に続く坂のようだな、と思った。
あれ? でも病院の名前だよね? 患者がみんな天国に連れてかれそうな、なんか不吉な名前じゃね? と思ったりもしたが、2つの家が仲良くしているのなら、そんなことは些細なことだった。
雨野家には、ユワやナユタがいるということだった。
ぼくの知らないユワの兄までおり、ユワには最近ショウゴくんという彼氏が出来たらしい。
きっとヤマヒトさんもいるのだろう。
雨野比良坂総合病院には、小久保ハルミという、彼女に診てもらえば脳のことは何でもわかるという、優秀な脳外科医で脳科学者の女性がいるということだった。
一条ソウマもきっとどこかにいるのだろう。
ふたりがいなければ、ぼくが産まれることはないからだ。
彼は比良坂家か、その病院の警備員をしているのだろうか。
警視庁公安部のエリート刑事だったらしいから、今もそこにいるのかもしれなかった。
「今日は比良坂47のライブに行く予定だったけど、やめよっか。ユワちゃんたち、手に入らなかったって言ってたし、ふたりにチケットあげようかな。
イズくんが、いつもみたいにヘッドバンキングしたりとか、大はしゃぎしたら身体に悪そうだもんね」
この世界のぼくは、イズミやユワと同じで比良坂47の上村コノカちゃんの大ファンらしかった。
でもなんでぼくは、アイドルのライブでヘッドバンキングしてるのかな。
イズミはオムライスを食べ終わると、スマホでユワに電話をかけた。
5分もしないうちに、ユワはナユタを連れてぼくたちの部屋にやってきた。
この世界にも、あの馬鹿みたいに胴の長いリムジンがきっとあるのだろう。
イズミは玄関先でふたりにライブのチケットを渡していたが、ぼくはどういう顔をしてふたりに会えばいいのかわからなかったから、リビングのソファーでぼんやりとしていた。
「イズくん、ユワちゃんとナユタくんが話があるって。たぶん、ライブのことか、上村コノカちゃんのことだと思うんだけど」
イズミに呼ばれ、ぼくが彼女とふたりの元へ行くと、
「イズミッヒーはちょっと外してもらっていい?」
「ボクたち、イズモくんに大事な話があるんだ」
と、ユワとナユタはイズミに言った。イズミッヒーって呼ばれてるんだ……と、唖然としたが顔には出さなかった。
イズミは、
「いくらユワちゃんが相手でも浮気とか、あとナユタくんを入れて3Pとか、許さないからね?」
と言って、キッチンに向かって行った。
ぼくは思わず笑ってしまったが、ふたりは笑っていなかった。
イズミが食器を洗う音が聞こえ始めると、
「その顔は、ふたりとも前の世界のことを覚えてるってことでいいんだな?」
と、ぼくはユワとナユタに訊ねた。
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