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第89話「20??/??/?? 最終章 序章」
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テーブルに置かれていたぼくのレデクスから、鳴るはずのないログインボーナスの通知音が鳴った。
テーブルに目をやると、そこにあるはずのコヨミやユワや匣のレデクスや、父のイクサ専用のエクス、それから母がロリコのために用意したブルークスが消えていた。
そこにはぼくのレデクスしかなく、テーブルも見覚えのないものに変わっていた。
「どういうことだ?」
顔を上げると、目の前にいたはずのロリコやシヨタはいなくなっていた。
「ロリコ?」
その部屋も、ホテルのスイートルームでもなければ、学生寮のぼくの部屋でもなく、
「シヨタ?」
そこは20畳はあるだろう広いリビングで、対面式のキッチンがあり、壁一面が大きな窓になっていた。
ロリコとシヨタの姿は部屋のどこにもなかった。
「どうしたの? イズくん」
その代わり、キッチンの方からコヨミの声が聞こえてきた。
「ロリコやシヨタって誰のこと? 変わった名前だけど、イズくんのお友達?」
見覚えのあるセーラーパーカーの上にエプロンをしたコヨミは、ぼくのそばにやってきた。
「ここはどこだ? どうしてコヨミがここにいるんだ?」
「コヨミ?」
コヨミは、ぽかんとした顔をして、
「コヨミって誰?」
と、ぼくに訊ねた。
「コヨミじゃないのか?」
「何言ってるの? お姉ちゃんのこと、忘れちゃったの?
わたしはイズミだよ、イ、ズ、ミ。ミしかあってないよ?」
コヨミは、自分をぼくの姉だと言い、ぼくの名前によく似たイズミという名前を名乗った。
ぼくはレデクスを手に取った。
その画面に表示されていた日時は、10月9日の日曜日の正午過ぎになっていた。
ロリコが比良坂47のライブに出かけたのは10月15日の土曜日のことで、今日はその翌日の16日の日曜日のはずだったが、丸一週間日付けを遡っていた。
世界がまた書き換えられていた。
世界はこんな風に突然何の前触れもなく書き換えられるものなのか。
匣そのものになってしまったふたつ前の世界のぼくは、世界が書き換えられる瞬間を体験していなかった。
体験したくても五感のすべてを失っていたからだ。
だから、ひとつ前の世界のぼくは、世界が書き換えられたことにすら気付かなかったが、今回は違った。
それは、あまりに残酷な仕打ちだった。
「本当に、コヨミじゃないのか……?」
「どうしちゃったの? 熱でもあるの?」
イズミと名乗るぼくの姉らしいその女の子は、どこからどう見てもコヨミだったが、コヨミではないと言う。
イズミは、自分の前髪を右手で、ぼくの前髪を左手でかきあげると、おでこをくっつけた。
「熱はないみたいだけどなぁ」
おでこをくっつけたままそう言うと、ぼくにキスをした。
舌を絡める、大人のキスだった。
1分くらいそうしていただろうか。
もっと長い時間のようにも、もっと短い時間にも感じられた。
イズミは、唇を離すと、
「思い出した?」
と、唇のまわりの唾液を舌なめずりするようにして、ぼくに訊ねた。
「なんで、姉弟でキスするの?」
「えー、今のでも足りなかった?」
イズミはどうやら、ぼくが記憶がないふりをして、エッチなおねだりをしているのだと思ったようだった。
ぼくをソファーに押し倒し、
「料理してた途中だけど、ま、いっか」
エプロンを外し、セーラーパーカーを脱いだ。
彼女はスカートをはいていなかったらしく、下着もパンツだけでブラをつけていなかったから、パーカーを脱ぐとほとんど裸だった。
イズミは、キスをしながら下半身に手を伸ばしてきた。
「血が繋がってないからだよ。同い年だけどね。わたしの方が一応お姉ちゃんだから」
ぼくは彼女が怖くなり、その手を払いのけ、逃げるように窓の方に向かった。
「あれ? もしかして、ほんとに忘れちゃったの?
施設にいた頃から、いつもこういうことしてたのに」
窓を割ってでも逃げ出したかったが、どうやらそれは無理そうだった。
窓からはミハシラ市内だけでなく近隣の市まで一望することができたからだ。
タワーマンションの、それもかなり上の方の階のようだった。
タワーマンション?
ここは、ぼくやロリコを匿うために、コヨミが用意していたとシヨタが言っていたマンションのことだろうか。
「ひとつだけ、確認していい?」
ぼくは恐る恐る、
「ぼくとお姉ちゃんの苗字って何だったっけ?」
と、イズミに訊ねた。
イズミは、本当に心配そうな顔をして、
「比良坂、だよ?」
と、ぼくに教えてくれた。
どうやらこの世界では、ぼくも比良坂家の人間になってしまっているようだった。
テーブルに目をやると、そこにあるはずのコヨミやユワや匣のレデクスや、父のイクサ専用のエクス、それから母がロリコのために用意したブルークスが消えていた。
そこにはぼくのレデクスしかなく、テーブルも見覚えのないものに変わっていた。
「どういうことだ?」
顔を上げると、目の前にいたはずのロリコやシヨタはいなくなっていた。
「ロリコ?」
その部屋も、ホテルのスイートルームでもなければ、学生寮のぼくの部屋でもなく、
「シヨタ?」
そこは20畳はあるだろう広いリビングで、対面式のキッチンがあり、壁一面が大きな窓になっていた。
ロリコとシヨタの姿は部屋のどこにもなかった。
「どうしたの? イズくん」
その代わり、キッチンの方からコヨミの声が聞こえてきた。
「ロリコやシヨタって誰のこと? 変わった名前だけど、イズくんのお友達?」
見覚えのあるセーラーパーカーの上にエプロンをしたコヨミは、ぼくのそばにやってきた。
「ここはどこだ? どうしてコヨミがここにいるんだ?」
「コヨミ?」
コヨミは、ぽかんとした顔をして、
「コヨミって誰?」
と、ぼくに訊ねた。
「コヨミじゃないのか?」
「何言ってるの? お姉ちゃんのこと、忘れちゃったの?
わたしはイズミだよ、イ、ズ、ミ。ミしかあってないよ?」
コヨミは、自分をぼくの姉だと言い、ぼくの名前によく似たイズミという名前を名乗った。
ぼくはレデクスを手に取った。
その画面に表示されていた日時は、10月9日の日曜日の正午過ぎになっていた。
ロリコが比良坂47のライブに出かけたのは10月15日の土曜日のことで、今日はその翌日の16日の日曜日のはずだったが、丸一週間日付けを遡っていた。
世界がまた書き換えられていた。
世界はこんな風に突然何の前触れもなく書き換えられるものなのか。
匣そのものになってしまったふたつ前の世界のぼくは、世界が書き換えられる瞬間を体験していなかった。
体験したくても五感のすべてを失っていたからだ。
だから、ひとつ前の世界のぼくは、世界が書き換えられたことにすら気付かなかったが、今回は違った。
それは、あまりに残酷な仕打ちだった。
「本当に、コヨミじゃないのか……?」
「どうしちゃったの? 熱でもあるの?」
イズミと名乗るぼくの姉らしいその女の子は、どこからどう見てもコヨミだったが、コヨミではないと言う。
イズミは、自分の前髪を右手で、ぼくの前髪を左手でかきあげると、おでこをくっつけた。
「熱はないみたいだけどなぁ」
おでこをくっつけたままそう言うと、ぼくにキスをした。
舌を絡める、大人のキスだった。
1分くらいそうしていただろうか。
もっと長い時間のようにも、もっと短い時間にも感じられた。
イズミは、唇を離すと、
「思い出した?」
と、唇のまわりの唾液を舌なめずりするようにして、ぼくに訊ねた。
「なんで、姉弟でキスするの?」
「えー、今のでも足りなかった?」
イズミはどうやら、ぼくが記憶がないふりをして、エッチなおねだりをしているのだと思ったようだった。
ぼくをソファーに押し倒し、
「料理してた途中だけど、ま、いっか」
エプロンを外し、セーラーパーカーを脱いだ。
彼女はスカートをはいていなかったらしく、下着もパンツだけでブラをつけていなかったから、パーカーを脱ぐとほとんど裸だった。
イズミは、キスをしながら下半身に手を伸ばしてきた。
「血が繋がってないからだよ。同い年だけどね。わたしの方が一応お姉ちゃんだから」
ぼくは彼女が怖くなり、その手を払いのけ、逃げるように窓の方に向かった。
「あれ? もしかして、ほんとに忘れちゃったの?
施設にいた頃から、いつもこういうことしてたのに」
窓を割ってでも逃げ出したかったが、どうやらそれは無理そうだった。
窓からはミハシラ市内だけでなく近隣の市まで一望することができたからだ。
タワーマンションの、それもかなり上の方の階のようだった。
タワーマンション?
ここは、ぼくやロリコを匿うために、コヨミが用意していたとシヨタが言っていたマンションのことだろうか。
「ひとつだけ、確認していい?」
ぼくは恐る恐る、
「ぼくとお姉ちゃんの苗字って何だったっけ?」
と、イズミに訊ねた。
イズミは、本当に心配そうな顔をして、
「比良坂、だよ?」
と、ぼくに教えてくれた。
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