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第84話「2022/10/16 ⑤」
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『だって、ぼくにレデクスを渡しにきてくれたときからのこの一年半、ずっとコヨミちゃんは偽物だったよね?』
と、動画の中のユワは匣に訊ねていた。
『言っている意味がよくわからないな』
『ボクがレデクスをもらった一年半前の春休み、コヨミちゃんは真冬みたいな格好でボクの家に来た。
家の中に入っても、マフラーを外したり、ダッフルコートを脱いだり、手袋を外したりもしなかった。
中等部まで、どんなに寒くてもいつもスカートとニーハイを譲らない子だったのに、あの日のコヨミちゃんはスキニーパンツだった』
『春にしては寒い日だったんじゃないか?』
『むしろ暑いくらいの日だったよ。
それにボクの知ってるコヨミちゃんは、どんなに寒くても、春なら春らしい格好をする。
白いワンピースに、桜色のカーディガンとかね。
同じ女のボクから見ても、眩しいくらいにかわいいんだよ』
『その日は、風邪でもひいてたんじゃないか?』
『暑いくらいの日に、真冬みたいな格好をしなきゃ出かけられないくらいの寒気がするほど具合が悪かったら、ヨモッちや比良坂のおじさんやおばさんはコヨミちゃんを外出させたりしないでしょ。
それに春休みが終わって、高等部に進んだら、コヨミちゃんは男子の制服を着るようになってた』
ロリコはぼくに、そうなの? と訊いてきたが、ぼくが前の世界から今の世界にやってきたのは先週の土曜の真夜中から日曜の朝までの間だったから、それ以前のこの世界のコヨミをぼくは知らなかった。
月曜日、ぼくは学校に朝だけ顔を出したが、コヨミは学校を休んでいた。
コヨミにそっくりなロリコのSNSが炎上してしまい、それがコヨミだと勘違いされてしまって彼女にまで飛び火していたからだ。
だからぼくはこの世界のコヨミの制服姿を一度も見たことがなかった。
「確かに、私がこの世界で比良坂コヨミの執事役をお役御免になったときも、彼女はまだ秋で室内だったのに真冬のような格好をしていたな」
「この映像が録画された水曜の真夜中、シヨタや匣といっしょに、ご主人様とロリコを迎えに来たコヨミさんも真冬みたいな格好をしてたよね」
そう言われてみればそんな気がした。
だが、よく覚えていなかった。
ユワやナユタや母が死に、父が逮捕された日の真夜中だったから、コヨミの格好を気にする余裕があのときのぼくにはなかった。
移動中の車の中は暗かったし、ぼくは匣との対話に夢中だった。
『コヨミちゃんは夏になっても冬服で、体育のときももちろん一年中ジャージだった。
きっと半袖の制服やスカートやニーハイが履けなかったり、体育で体操服やブルマになれない理由があったんだよね。水泳、得意だったはずなのに、プールの授業なんて全部休んでたし。
誰もコヨミちゃんにその理由を聞けなかった。
ボクたちは先生たちから、絶対に理由を聞くなってきつく言われてたんだ。
聞いたら退学にされるんじゃないかってくらいの顔ですごまれちゃってたからね、誰も何にも聞けなかった。
誰もコヨミちゃんや先生たちには聞かなかったけど、コヨミちゃんは中等部のときからずっと有名人だったから、みんな噂はしてたよ。
コヨミちゃんがDVを受けてるんじゃないかって。
ボクも最初はそう疑ってた。
でもボクは、コヨミちゃんと知り合う前から、ヨモッちや比良坂のおじさんやおばさんのことをよく知ってたから、そんなことをするような人たちじゃないって気づいたんだ。
段々他に理由があるんじゃないかって思うようになって、ずっとコヨミちゃんを観察してた。
学校で毎日のようにコヨミちゃんを見てた』
『君はまるでコヨミのストーカーだな』
自らを匣だと思い込まされている匣の影武者は、吐き捨てるように言った。
と、動画の中のユワは匣に訊ねていた。
『言っている意味がよくわからないな』
『ボクがレデクスをもらった一年半前の春休み、コヨミちゃんは真冬みたいな格好でボクの家に来た。
家の中に入っても、マフラーを外したり、ダッフルコートを脱いだり、手袋を外したりもしなかった。
中等部まで、どんなに寒くてもいつもスカートとニーハイを譲らない子だったのに、あの日のコヨミちゃんはスキニーパンツだった』
『春にしては寒い日だったんじゃないか?』
『むしろ暑いくらいの日だったよ。
それにボクの知ってるコヨミちゃんは、どんなに寒くても、春なら春らしい格好をする。
白いワンピースに、桜色のカーディガンとかね。
同じ女のボクから見ても、眩しいくらいにかわいいんだよ』
『その日は、風邪でもひいてたんじゃないか?』
『暑いくらいの日に、真冬みたいな格好をしなきゃ出かけられないくらいの寒気がするほど具合が悪かったら、ヨモッちや比良坂のおじさんやおばさんはコヨミちゃんを外出させたりしないでしょ。
それに春休みが終わって、高等部に進んだら、コヨミちゃんは男子の制服を着るようになってた』
ロリコはぼくに、そうなの? と訊いてきたが、ぼくが前の世界から今の世界にやってきたのは先週の土曜の真夜中から日曜の朝までの間だったから、それ以前のこの世界のコヨミをぼくは知らなかった。
月曜日、ぼくは学校に朝だけ顔を出したが、コヨミは学校を休んでいた。
コヨミにそっくりなロリコのSNSが炎上してしまい、それがコヨミだと勘違いされてしまって彼女にまで飛び火していたからだ。
だからぼくはこの世界のコヨミの制服姿を一度も見たことがなかった。
「確かに、私がこの世界で比良坂コヨミの執事役をお役御免になったときも、彼女はまだ秋で室内だったのに真冬のような格好をしていたな」
「この映像が録画された水曜の真夜中、シヨタや匣といっしょに、ご主人様とロリコを迎えに来たコヨミさんも真冬みたいな格好をしてたよね」
そう言われてみればそんな気がした。
だが、よく覚えていなかった。
ユワやナユタや母が死に、父が逮捕された日の真夜中だったから、コヨミの格好を気にする余裕があのときのぼくにはなかった。
移動中の車の中は暗かったし、ぼくは匣との対話に夢中だった。
『コヨミちゃんは夏になっても冬服で、体育のときももちろん一年中ジャージだった。
きっと半袖の制服やスカートやニーハイが履けなかったり、体育で体操服やブルマになれない理由があったんだよね。水泳、得意だったはずなのに、プールの授業なんて全部休んでたし。
誰もコヨミちゃんにその理由を聞けなかった。
ボクたちは先生たちから、絶対に理由を聞くなってきつく言われてたんだ。
聞いたら退学にされるんじゃないかってくらいの顔ですごまれちゃってたからね、誰も何にも聞けなかった。
誰もコヨミちゃんや先生たちには聞かなかったけど、コヨミちゃんは中等部のときからずっと有名人だったから、みんな噂はしてたよ。
コヨミちゃんがDVを受けてるんじゃないかって。
ボクも最初はそう疑ってた。
でもボクは、コヨミちゃんと知り合う前から、ヨモッちや比良坂のおじさんやおばさんのことをよく知ってたから、そんなことをするような人たちじゃないって気づいたんだ。
段々他に理由があるんじゃないかって思うようになって、ずっとコヨミちゃんを観察してた。
学校で毎日のようにコヨミちゃんを見てた』
『君はまるでコヨミのストーカーだな』
自らを匣だと思い込まされている匣の影武者は、吐き捨てるように言った。
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