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第79話「2022/10/15 穏やかな週末」

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 木曜日の夜には、シヨタは単独でミハシラ警察署やトツカ県警本部に侵入し、警察が押収していた匣のコピーを内蔵する端末をすべて回収してくれた。

 彼ひとりで、しかも1日ではそんなことは不可能だと思ったが、彼はぼくにブルークスの使用権限を一時的に自分に委譲させることで、単独でそれを可能にした。
 ブルークスは1時間ではなく丸1日を24倍に拡張し、加速することができたため、丸1日かける必要すらなく10時間しかかからなかった。
 加速した時の中では10時間は丸10日となり、広い警察署のどこに押収されているか全くわからなかった端末を、彼は見事発見しすべて回収してみせた。

 かわいくてエロくてめちゃ強い、合法ロリメイドの彼女も良いが、ハッカーやスパイとしても優秀な執事を持つというのも鼻が高い気持ちにさせられた。

 そのため、週末の金土日をぼくたち3人は久しぶりに穏やかに過ごすことが出来た。

 学生寮の部屋には戻れず、ぼくたちの手元にある端末以外にいくつ匣のコピーが存在するかもわからず、世界がいつまた書き換えられるかわからない日々というのは、あまり穏やかとは言えなかったが、コヨミが殺されたニュースが流れた木曜の朝までに比べたら本当に穏やかだった。

 ぼくは、終了してしまったログインボーナスでは一度もロリコをライブに連れていってあげることが出来なかった比良坂47のライブのチケットを何とか一枚だけ手に入れ、日頃の感謝を込めてロリコにプレゼントした。

「我が主よ、なぜ1枚なんだ!? 私の分は? 私の分はないのか!? 何故だ!?」

「えっ、シヨタも行きたかったの?」

「い、いや、いやいや、そんなことがあるわけないじゃないか……
 あぁ、そうさ! ぼくだって行きたいさ!!」

「まぁまぁ、シヨタくん、ロリコがちゃんとシヨタくんの分まで楽しんできてあげるから」

「くっ、なぜこんな、冬本先生のお書きになられる素晴らしい歌詞の意味もろくに理解できていないようなにわかが……」

 なまじ自分の顔がそっくりな分、悔しがり方が気持ち悪かったが、なんだか申し訳ないことをしてしまった。
 シヨタにもかなりお世話になっているから、何かプレゼントを送らなければと思った。

 ログインボーナスによる県内通貨の配布は終わっていたが、あと3年は県内通貨の使用が可能ということだった。
 ぼくはライブに出かけるロリコに、ぼくのレデクスを持たせ、決済アプリに入っていた貯蓄で好きなだけグッズを買っていいと言った。
 ライブ会場の近くにはショッピングモールなどもあったから、洋服や下着やバッグや靴など、他に欲しいものがあれば何でも買っていいと彼女には言ってあったのだが、

「上村コノカ様のご尊顔の全面プリントTシャツはあったけど、下着とか靴はなかったよ?
 でもサコッシュとかトートバッグとか、スマホケースはあった!」

 どうやら彼女はグッズにそういうものがあれば、という話だと勘違いしたようだった。
 ご尊顔の下着があったらおかしいだろ。ファンの男子が絶対奇行に走る。

 ロリコはどこで着替えたのか、そのご尊顔の全面プリントTシャツを着て、ご尊顔のサコッシュとトートバッグを肩にかけ、スマホも持っていないのにご尊顔のケースだけを、比良坂47のロゴが入ったネックストラップにつけて首にさげて帰ってきた。
 やべえファッションだというのに、その姿は愛らしく愛おしかった。

 それぞれ、自分用、観賞用、保存用、布教用に4つずつ買っており、

「やめろっ! そんな恥ずかしいTシャツが着れるか!!」

「毎日恥ずかしい執事服着てんじゃん。いけるってばよ!」

 シヨタが早速布教用のご尊顔全面プリントTシャツなどを無理矢理着せられそうになっていた。

「私は加藤キョウコちゃんの顔とか、ハスキーボイスとか歌声とか、キレッキレのダンスとか、語彙力の足りなさとかが好きなんだ!」

 必死に抵抗を試みていたが、抵抗虚しく違う推しのご尊顔にまみれさせられていた。

「普通に君も比良坂47のファンじゃん……ガチ勢じゃん……」

「それはそうなんだが、推しが違うのだよ、推しが!」

 だが、ロリコが握手券欲しさに、シヨタの推しの加藤キョウコちゃんがセンターを務める新曲の「太陽と月が舞うDAY DREAM」の、初回限定DVDつきのCDだけでなく、同じくTシャツ付き、通常版のジャケ違いやカップリング違いなど、何枚も同じシングルを買っていたことに対しては、ロリコに向けて「グッジョブだぞ」と親指を立てていた。

 ふんなふたりを微笑ましく眺めながら、お金がかかる趣味を持っている人は大変だなぁ、と他人事のようにぼくは思っていた。

 あれ? これ、県内通貨が使えなくなったり、決済アプリの貯蓄が切れたりしたら、我が家の現金からの支払いになるのか?

 ぼくがそのことに気づくのは、それからしばらくしてからのことになる。
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