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第78話「2022/10/13 ⑬」

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「匣のコピーを内蔵する端末はすべて破壊しなければいけない。
 だが、私やロリコの力でもどうやら破壊することは出来そうにないな」

 指だけでなく手首まで壊れた両手をぷらんぷらんとさせながら、シヨタは言った。

「それ、大丈夫なのか?」

「問題ない。これくらいの損傷なら、小一時間もあればナノマシンが修復してくれる。
 ロリコにやられた時は修復に半日かかったから、あれを思えば大した損傷じゃない」

「いじわるだよね、シヨタって。まだ根に持ってたの?」

「まだ1日しか経ってないんだが?」

「あれ? そうだっけ? でも、壊せないってなると、どうしよっか」

「すべての端末を人の手の届かない場所に隠すしかないだろうな」

「宇宙?」

 ロリコは天井を指差したが、シヨタは首を横に振った。

「宇宙に棄てる場合は、スペースシャトルや宇宙探査機の打ち上げを待たなければいけない。
 さすがに私たちだけでは宇宙には行けないからな。
 端末をすべて、その機内に潜ませる必要があるし、有人無人に関わらず、宇宙空間で爆発させる必要もある。
 持って帰ってこられたら何の意味もないからな。
 難易度を考えれば、深海の方がいいだろう」

「海の底かぁ。この県は365度海に囲まれてる人工の島だから、ちょうどいいね」

 360度な。365は一年の日数な。

「この異世湾周辺に1万2000メートル以上の海底があるのならだが」

 ぼくたちが住む人工島のトツカ県は、愛知県や三重県にある異世湾のすぐそばにあった。

「それくらいないとだめなの?」

「それくらい深くなければ、潜水艇を使えば人の手が届いてしまう。
 1万2000~1万5000メートル程度の海底なら、潜水艇を用意しなくても、私やロリコの身体なら水圧に耐えられる。
 理想はすべての端末が水圧で壊れてくれることだが」

 シヨタやロリコでも破壊できない端末が、ふたりの身体が耐えられる水圧で破壊できるとは思えなかった。
 しかし、深海以上に人の手に渡らない場所はないだろう。あるとすれば、南極の永久凍土の中だろうか。
 しかし、科学の向上によって潜水艇の性能が上がれば、いずれは人の手が届いてしまう。

 それにもうひとつ問題があった。

「比良坂コヨミが持っていた端末は警察が回収しているだろうが、雨野ユワが持っていた端末もあの爆発に耐えたかもしれない。耐えていれば警察が回収している可能性がある。
 警察に世界を書き換える意思を持ち、その方法を知る者がいるかもしれないと、比良坂コヨミは言っていた。
 本当にそうなら、そうでなくてもか、警察署に忍び込み2台の端末を回収しなければいけないな」

「父さんの、イクサの一条ソウマ隊長の端末も警察署にあると思う。
 同じ端末をイクサの隊員全員が持っているかもしれない」

「確かヨモツさ……匣も、レデクスを持ってたよね」

 ロリコは、ヨモツ様と言いかけて、匣と言い直した。
 ぼくたちは、比良坂ヨモツのことを、「匣」と呼ぶことに決めていたからだ。
 あれはもはや人ではなかったが、殺したのではなく壊しただけだと思い込むことで少しでも罪悪感から逃れるためにそうしていた。
 あまり意味はなかったけれど、匣は複数の名前を持っていたから、統一させておきたかった。

「フィリアっていう、わたしよりも今のコヨミさんに良く似たメイドがいたよね。
 うわぁ、この人シスコンなんだぁ、萌えるぅ、推せるぅって思ってた」

「君のその趣味嗜好は異常だぞ」

 匣にとってはコヨミだけが、ないはずの心の支えだったんだろう。
 もしかしたら、彼はずっと心がないふりをしていただけかもしれない。

 よくよく考えれば、心がないなら自分を棄てた両親への復讐を考えたりしないのではないか。
 始まりの世界から前の世界までにいくつのパラレルワールドが存在するのかわからないが、コヨミが死んだ後に彼が孤独を感じることもなかったはずだった。
 神に等しい力を持っていた彼は、心の形が人と少し違っていただけなのかもしれない。同じ人間同士であっても心の形や色は十人十色なように。
 他人の心を理解することはできなかったが、彼自身にはちゃんと心があったのだろう。

「でもあっちはちゃんとメイドの姿をしていたぞ。エロみっともなくなかった」

 シヨタくん、それ禁句だって教えたよね?

「エロみっともない……? また壊されたいのかな?」

 ロリコに睨まれたシヨタは、

「とりあえず、バスローブから出てる乳を隠してから言ってくれ」

 と彼女に華麗に言い返していた。

「雨野ユワが4台目のレデクスをどこから手に入れたかわからない以上、5台目や6台目が存在する可能性がある。
 匣のコピーを内蔵する端末が全部でいくつ存在するのかわからない以上、すべての端末を回収することは不可能かもしれないな」

 それが、もうひとつの、そして一番厄介な問題だった。
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