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第68話「2022/10/13 ③」
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「見終わってからじゃだめかな……?
あ、うん、だめだよね。警察来ちゃうんだもんね……」
「バディ刑事なら、うちのレコーダーに全話録画してあるから。
今日の放送分まで全部ブルーレイに焼いてあげるから」
「まじか……400話以上あるはずだぞ……何テラバイトのレコーダーだよ……」
「全部あるから。焼いてあげるから。
4Kとか8Kの50インチ以上のテレビとか、ブルーレイレコーダーも用意するから」
「絶対?」
「絶対」
コヨミは大きくため息をつき、
「我が主、君の父親は、警察の取り調べに対し、君の母親を殺したのは自分だと供述しているが、彼女の死亡推定時刻には、彼には完全なアリバイがあったんだ」
シヨタが現状を説明してくれた。
「普段なら警察の捜査なんて比良坂家の力を使えばどうにでもなるけど、今はマスコミの対応に追われてて、誰も動ける状態じゃないの。
わたしの命令ではイクサは誰も動いてはくれないから、警察が来る前に、わたしがあなたたちを安全な場所に送るわ」
コヨミの後ろにいる男は、イクサの隊員ではないということだろうか。
「信用していいのか?」
ぼくはコヨミではなくシヨタに訊ねた。
「彼女は君を見捨てることもできた。私に会うことを拒否することもね。
わざわざ彼女がここに出向いていることが、信用に足る十分な材料だと思わないか?」
確かにそうだ。
それにシヨタがぼくを裏切るようなこともないだろう。
「わかった。すぐに支度する」
ぼくとロリコは、レデクスや母がロリコのために作ったというブルークスなど必要最低限のものを持って、コヨミとシヨタと共に学生寮の前に停まっていた車に乗った。
コヨミとシヨタは、ユワのように馬鹿でかいリムジンで来ていると思っていたが、街でよく見かける白いセダンだった。高級車ではあるが、悪目立ちしない車を選んだのだろう。
白いセダンは、不可解な事件が起きるたびに必ずといっていいほど目撃される車だが、高級車の中でもそれだけありふれていると言ってもいい部類の車だった。
見知らぬ男は運転手ではないらしく助手席に座り、運転手はシヨタで、ぼくとロリコとコヨミは後部座席に並んで座った。
車に乗った途端、目隠しをされたり、紙袋を被せられたり、手足を拘束されたりなど、万が一のことも念のため考え覚悟していたが、杞憂に終わった。
シヨタは慣れた手つきで車を発車させ、さらに詳しい状況を説明してくれた。
「君やロリコも知っての通り君の父親は、君の母親が死亡した時刻には、イクサの隊長として私たちの300メートル上空にいた。
彼は必死に消火活動と人命救助をしていたそうだよ。
副隊長の遣田(やるた)という人をはじめ、隊員たちや彼に命を救われた人たちが、彼のアリバイを証明している」
父は狂ってしまった母の共犯者ではあったが、ぼくやロリコやシヨタを守るため母の殺害をすべて自分の犯行だと供述してくれていることや、母が起こした爆発の被害を最小限に抑えようとしていたと知り、少しだけ見直した。
バカ息子と呼ばれたり、顔を足で踏みつけられたり、バカ息子と呼ばれたり、終始光学迷彩を使っておりぼくには顔すら見せてくれなかったり、バカ息子と呼ばれたり、もっと嫌な奴だと思っていた。
副隊長の遣田という人、と言う表現から、やはり見知らぬ男は遣田という人でもイクサの隊員でもないのだろう。
「警察は、研究所の監視カメラを調べて、あなたとロリコちゃんが小久保博士を殺害したことに気づいてしまったの」
「私は君たちをあの場から早く離れさせることばかり考えていて、監視カメラのことにまで気が回らなかった。
帰宅してからでも、ハッキングして録画映像を差し替えるくらいのことは十分できたはずなのに、身体を元に戻すことで頭がいっぱいだった。本当に申し訳ない」
あの状況でそこまで気が回るのは、日常的に完全犯罪をコーディネートしているような者くらいだろう。地獄の傀儡師とかインビジブルにしか無理なことだった。
「ロリコがふざけて手足を逆さまにつけたり、なかなか直してくれなかったりしなければ、少しは心に余裕が出来たはずなんだが……
直してくれたかと思えば素で付け間違たり、それを注意したらすねて、そっぽを向いて、小一時間ほったらかしにされてしまったりもした……」
「うん、それは確かにロリコが悪いな」
シヨタが謝ることではなかったが、きっと彼の執事としてのプライドが許さないのだろう。
「警察はエクスマキナの存在を知らないから、ロリコちゃんの小さくて華奢でかわいい、わたしみたいな顔と身体では、小久保博士をあんな風に殺害することは出来ないと思ってるようね。
彼女が匣そのものになりかけていたことも知らないでしょうし」
コヨミさん、今さらっと自画自賛したよね。
「ロリコは、ちょっとやりすぎちゃったってことですか?」
「小久保博士は匣そのものになってしまっていたんでしょう? それに彼女の身体の中には無数の生体ナノマシンがいた。
ロリコちゃんがあれくらいやってくれなければ、今頃小久保博士は世界を書き換える鍵になっていたわ。
葦原くんには悪いけど、むしろお礼を言いたいくらいよ」
コヨミはシヨタからぼくの母親が小久保ハルミだということを聞いたのだろう。
一条ソウマがぼくの父親であることも。
ぼくは、変に気を遣わなくていい、と車内にいた皆に伝えた。
いつも通りで構わないと。
「凶器を使用した痕跡がないから、警察は葦原くんにも小久保博士の殺害は不可能だとわかってはいると思うのだけど……
警察内部にも、あの遺体が匣になりかけた人の遺体であることを知っていたり、世界を書き換えたい人がいる可能性があるの。
世界を書き換える方法を知っている人がいるかもしれない。
その場合、任意の事情聴取か、別件逮捕であなたの身柄を拘束したいはず。
あなたはこの世界でも匣そのものにさせられてしまうかもしれないの」
「なぁ、ぼくたちは、一体何と戦ってるんだ? 母さんや父さんは比良坂家や雨野家を目の敵にしていたみたいだけど」
ぼくの問いに、
「少なくとも、わたしはあなたの敵じゃない。あなたのことは嫌いだけど。
それに、兄さんも敵じゃないわ」
コヨミは奇妙な回答をした。
「兄さんって比良坂ヨモツって人だろ? あの爆発で死んだんじゃないのか?」
「生きてるわ。兄さんはあのとき、最上階とは真逆の場所にわたしといたから。
ね、兄さん?」
コヨミは助手席の男に声をかけた。
男はぼくたちの方に顔を向け、
「久しぶりだね、ロリコ。
それから、君とははじめましてかな、葦原イズモくん。
ぼくが比良坂ヨモツだよ」
帽子を脱ぎ、サングラスを外した。
あ、うん、だめだよね。警察来ちゃうんだもんね……」
「バディ刑事なら、うちのレコーダーに全話録画してあるから。
今日の放送分まで全部ブルーレイに焼いてあげるから」
「まじか……400話以上あるはずだぞ……何テラバイトのレコーダーだよ……」
「全部あるから。焼いてあげるから。
4Kとか8Kの50インチ以上のテレビとか、ブルーレイレコーダーも用意するから」
「絶対?」
「絶対」
コヨミは大きくため息をつき、
「我が主、君の父親は、警察の取り調べに対し、君の母親を殺したのは自分だと供述しているが、彼女の死亡推定時刻には、彼には完全なアリバイがあったんだ」
シヨタが現状を説明してくれた。
「普段なら警察の捜査なんて比良坂家の力を使えばどうにでもなるけど、今はマスコミの対応に追われてて、誰も動ける状態じゃないの。
わたしの命令ではイクサは誰も動いてはくれないから、警察が来る前に、わたしがあなたたちを安全な場所に送るわ」
コヨミの後ろにいる男は、イクサの隊員ではないということだろうか。
「信用していいのか?」
ぼくはコヨミではなくシヨタに訊ねた。
「彼女は君を見捨てることもできた。私に会うことを拒否することもね。
わざわざ彼女がここに出向いていることが、信用に足る十分な材料だと思わないか?」
確かにそうだ。
それにシヨタがぼくを裏切るようなこともないだろう。
「わかった。すぐに支度する」
ぼくとロリコは、レデクスや母がロリコのために作ったというブルークスなど必要最低限のものを持って、コヨミとシヨタと共に学生寮の前に停まっていた車に乗った。
コヨミとシヨタは、ユワのように馬鹿でかいリムジンで来ていると思っていたが、街でよく見かける白いセダンだった。高級車ではあるが、悪目立ちしない車を選んだのだろう。
白いセダンは、不可解な事件が起きるたびに必ずといっていいほど目撃される車だが、高級車の中でもそれだけありふれていると言ってもいい部類の車だった。
見知らぬ男は運転手ではないらしく助手席に座り、運転手はシヨタで、ぼくとロリコとコヨミは後部座席に並んで座った。
車に乗った途端、目隠しをされたり、紙袋を被せられたり、手足を拘束されたりなど、万が一のことも念のため考え覚悟していたが、杞憂に終わった。
シヨタは慣れた手つきで車を発車させ、さらに詳しい状況を説明してくれた。
「君やロリコも知っての通り君の父親は、君の母親が死亡した時刻には、イクサの隊長として私たちの300メートル上空にいた。
彼は必死に消火活動と人命救助をしていたそうだよ。
副隊長の遣田(やるた)という人をはじめ、隊員たちや彼に命を救われた人たちが、彼のアリバイを証明している」
父は狂ってしまった母の共犯者ではあったが、ぼくやロリコやシヨタを守るため母の殺害をすべて自分の犯行だと供述してくれていることや、母が起こした爆発の被害を最小限に抑えようとしていたと知り、少しだけ見直した。
バカ息子と呼ばれたり、顔を足で踏みつけられたり、バカ息子と呼ばれたり、終始光学迷彩を使っておりぼくには顔すら見せてくれなかったり、バカ息子と呼ばれたり、もっと嫌な奴だと思っていた。
副隊長の遣田という人、と言う表現から、やはり見知らぬ男は遣田という人でもイクサの隊員でもないのだろう。
「警察は、研究所の監視カメラを調べて、あなたとロリコちゃんが小久保博士を殺害したことに気づいてしまったの」
「私は君たちをあの場から早く離れさせることばかり考えていて、監視カメラのことにまで気が回らなかった。
帰宅してからでも、ハッキングして録画映像を差し替えるくらいのことは十分できたはずなのに、身体を元に戻すことで頭がいっぱいだった。本当に申し訳ない」
あの状況でそこまで気が回るのは、日常的に完全犯罪をコーディネートしているような者くらいだろう。地獄の傀儡師とかインビジブルにしか無理なことだった。
「ロリコがふざけて手足を逆さまにつけたり、なかなか直してくれなかったりしなければ、少しは心に余裕が出来たはずなんだが……
直してくれたかと思えば素で付け間違たり、それを注意したらすねて、そっぽを向いて、小一時間ほったらかしにされてしまったりもした……」
「うん、それは確かにロリコが悪いな」
シヨタが謝ることではなかったが、きっと彼の執事としてのプライドが許さないのだろう。
「警察はエクスマキナの存在を知らないから、ロリコちゃんの小さくて華奢でかわいい、わたしみたいな顔と身体では、小久保博士をあんな風に殺害することは出来ないと思ってるようね。
彼女が匣そのものになりかけていたことも知らないでしょうし」
コヨミさん、今さらっと自画自賛したよね。
「ロリコは、ちょっとやりすぎちゃったってことですか?」
「小久保博士は匣そのものになってしまっていたんでしょう? それに彼女の身体の中には無数の生体ナノマシンがいた。
ロリコちゃんがあれくらいやってくれなければ、今頃小久保博士は世界を書き換える鍵になっていたわ。
葦原くんには悪いけど、むしろお礼を言いたいくらいよ」
コヨミはシヨタからぼくの母親が小久保ハルミだということを聞いたのだろう。
一条ソウマがぼくの父親であることも。
ぼくは、変に気を遣わなくていい、と車内にいた皆に伝えた。
いつも通りで構わないと。
「凶器を使用した痕跡がないから、警察は葦原くんにも小久保博士の殺害は不可能だとわかってはいると思うのだけど……
警察内部にも、あの遺体が匣になりかけた人の遺体であることを知っていたり、世界を書き換えたい人がいる可能性があるの。
世界を書き換える方法を知っている人がいるかもしれない。
その場合、任意の事情聴取か、別件逮捕であなたの身柄を拘束したいはず。
あなたはこの世界でも匣そのものにさせられてしまうかもしれないの」
「なぁ、ぼくたちは、一体何と戦ってるんだ? 母さんや父さんは比良坂家や雨野家を目の敵にしていたみたいだけど」
ぼくの問いに、
「少なくとも、わたしはあなたの敵じゃない。あなたのことは嫌いだけど。
それに、兄さんも敵じゃないわ」
コヨミは奇妙な回答をした。
「兄さんって比良坂ヨモツって人だろ? あの爆発で死んだんじゃないのか?」
「生きてるわ。兄さんはあのとき、最上階とは真逆の場所にわたしといたから。
ね、兄さん?」
コヨミは助手席の男に声をかけた。
男はぼくたちの方に顔を向け、
「久しぶりだね、ロリコ。
それから、君とははじめましてかな、葦原イズモくん。
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