ぼくの人生には、ログインボーナスはもういらない。

あめの みかな

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第57話「2022/10/12 ⑮」

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 ユワとナユタに連れられ、ぼくとロリコとシヨタが "H.O.L.(ホル)" の入り口を通ろうというとき、彼女は入り口の左右に立っていた警備員をちらりと見て、足を止めた。

「入らないのか?」

 と、訊ねるぼくに、

「あれ、ただの警備員じゃないよ。比良坂の私設武装組織、イクサの人」

 ユワはぼくの耳元で囁いた。
 ロリコもぼくの顔にその顔をくっつけて聞いていた。
 彼女は、ユワがぼくに色目を使うのではと考えたらしく、なんだそんな話か、という顔をした。

 警備員は、腰に警棒のようなものを提げていたが、透過型ディスプレイで拡大してよく見てみると柄の部分しか見えず、その先は革製の鞘のようなもので刃らしきものが隠されていた。ダガーナイフを所持しているのがわかった。
 それだけではなく、ガンベルトをしており拳銃も携帯していた。

「おいおい、この国はいつから銃社会になったんだ? 完全に銃刀法違反だろ」

「しっ、声が大きいよ、イズモくん」

 ユワは人差し指をぼくの唇に当てた。
 ロリコはムキーッとかキシャーッという顔をしていた。

『比良坂一族が所有する土地や建物は、すべて大使館みたいなものだからな。この国の法律は適応されない』

 ユワの代わりにシヨタが答えた。

「治外法権ってわけか」

『前の世界では、ここまであからさまじゃなかったはずだが……この先は法治国家などではなく、独裁政治の国だと思った方がいい』

 世界が書き換えられたことにより、比良坂一族の力が増した、ということだろう。
 そうすることでメリットを得る人間が世界を書き換えた。
 やはり、ヒラサカグループの誰かがやったとしか考えられなかった。

「ここで何を見ても、何が起きても、絶対騒ぎを起こさないでね」

 と、ユワは意味深なことを言った。

「どういう意味だ?」

「キミが騒ぎを起こすと、困る人が『ふたり』いるからだよ」

 コヨミやヨモツのことだろうかと思ったが、ヨモツとは面識がないし、今さらコヨミがぼくのことで困るとは思えなかった。
 ユワとロリコだろうかとも思ったが、ロリコはまだしも、ユワは雨野家の人間だ。今は協力関係にあるが、所詮は比良坂家と同じ穴のムジナだろう。

 ぼくは、ユワから前日に言われた言葉を思いだし、

「それはここに、ぼくを産んだ母親と父親がいるって意味か?」

 そう訊ねた。

「そうだよ」

 ユワの返事はとてもあっさりとしたものだった。

「キミの父親は、比良坂家の私設武装組織イクサの部隊長、一条ソウマ。
 元・警視庁公安部所属のエリートだった人だよ」

 その一条という男は、つい先ほどシヨタが教えてくれた、前の世界でぼくの遺体を回収したという男と同一人物なのだろう。

「キミが騒ぎを起こせば、キミは実の父親に射殺されかねない」

 上等じゃないか、とぼくは思った。
 要らないからぼくを捨てたんだろう。
 誰も産んでくれだなんて頼んだ覚えはない。
 勝手にぼくを産み落としておいて、勝手にぼくを棄てた親がここにいるなら、それ相応の罰をぼくはそいつらに与える権利があるはずだ。

「そいつが俺を射殺しようとしてきたら、逆に俺がそいつを殺してやるよ」

 ぼくは、自分の口から発せられたその言葉を自分の耳で聞き、何を言ってるんだ? と我に返った。
 ロリコは、ぼくの手をぎゅっと握り、今にも泣き出しそうな顔で、何も言わずにぼくの顔を見ていた。
 彼女の中にもおそらく断片的にではあるが、前の世界の記憶があるのだ。

『雨野ユワ、君が何を考え、何をしようとしているのかは知らないが、これ以上私の主を刺激するのはやめてもらいたいな』

 ロリコとシヨタがいなければ、ぼくはまた狂っていたかもしれなかった。

『彼は前の世界で、オルフィレウスの匣そのものになっている。今の世界で同じ過ちを犯させるわけにはいかない』

「知ってるよ」

 ユワは笑っていた。

「だから試してるんだよ、この世界のキミは大丈夫かどうか」

 大丈夫そうで安心したよ、と彼女は言うと、研究所の中へと入っていった。
 ナユタがペコペコと、ぼくたちに頭を何度も下げていた。
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