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第55話「2022/10/12 ⑬」
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ぼくがもうひとつ気になっていたのは、世界を書き換えるとはどういうことなのか、ということだった。
それについてもシヨタに意見を求めてみることにした。
『君はアニメーションがどのように作られているか知っているか?
あるいは、パソコンやタブレットでイラストを描くとき、どうやって描くか知っているか?』
不思議な問いがシヨタから返ってきた。
「確かアニメは、背景の絵があって、その上にキャラクターの絵が描かれたセル画っていうのを重ねるんだよな」
『そうだ。今はすべてデジタル化されているが、背景があり、キャラクター毎に絵があり、それらが重ねられていることは変わらない。
キャラクター以外にも動く物体があれば、それもまた別の絵として描かれ重ねられている。
そうやって何枚もの絵を重ねて、一枚の絵に見えるように作っているが、その絵は一瞬しか使われない。
アニメーションには動きが必要だからだ。
滑らかに絵を動かすためには、1秒間辺り何枚何十枚と少しずつキャラクターや物体を動いている絵を用意して、動いているように見せている。
その作業があまりに膨大なため、口のない顔のキャラクターの絵や、口だけの絵が使われ重ねられている』
だからアニメのキャラクターは顎が動くことが少ないのか、とぼくは納得した。
だがそれが、世界を書き換えることと、一体どんな関係があるというのだろうと思った。
『パソコンでイラストを描くときも同じだ。こちらはセル画ではなくレイヤーと呼ばれるものを、一枚のイラストを完成させるために何枚何十枚と重ねている。
レイヤーの数だけ、イラストを構成する一枚一枚の絵は細分化されている。キャラクターの髪型だけのレイヤーもあれば、顔の表情だけのレイヤーもある。その表情も顔のパーツ毎にレイヤーが用意されたりする。
裸でのっぺらぼうでスキンヘッドのキャラクターに、表情のレイヤーや髪型のレイヤーを重ね、下着だけ、服だけのレイヤーを重ねて装飾する。
そんな風にひとりのキャラクターの絵が完成し、背景や効果と重ねることでイラストは完成する。背景も細分化されていることがある。
細分化されていればいるほど、キャラクターは違う髪型や表情、服のレイヤーに変更することで、全く違うイラストを作ることもできる』
シヨタは、
『私はこの世界もまた、そんな風にセル画やレイヤーを重ねたものだと思っている』
と言った。
『服を重ね着することをレイヤードと呼ぶが、世界もまたそれと同じレイヤードの構造になっているのではないか』
と。
「それは、世界を書き換えたければ、すでに完成していた『前の世界のイラスト』から、軌道エレベーターが描かれたレイヤーだけを抜いて、そこに別のもの、比良坂ヨモツの研究施設や、永久機関による発電所が描かれたレイヤーを代わりに挿し込むだけで、『今の世界』になるっていう解釈でいいのか?」
『そうだ。おそらく、そうやって世界は書き換えられ、書き換えられた『今の世界』のイラストに合わせた歴史が、自動的に極力矛盾のないような形で用意されるんだろう』
「オルフィレウスの匣ってやつの力を使えば、そんなことができるのか」
それは、世界の書き換え方についての、シヨタの独自の考えであり、憶測でしかないものであったが、
「なんでもありだな」
と、ぼくは呟いて、途方にくれた。
ユワの双子の弟が、前の世界には存在していたにも関わらず、今の世界にはいないということは、その弟のレイヤーもまた、軌道エレベーターと同様に世界を書き換えた何者かによって、イラストから抜かれてしまったということだ。
次に世界を書き換える者が、ロリコやぼくやシヨタのレイヤーを、世界のイラストから抜いてしまえば、次の世界にはぼくたちの存在自体がなくなってしまう。
レデクスやエクスマキナを使い、弟のナユタをこの世界に復活させようとしているであろうユワもまた、その存在を消されてしまう可能性は十分にあった。
世界を書き換える力なんていうもの自体のレイヤーを、この世界のイラストから抜いてしまわなければ、この戦いは永遠に終わらないのだ。
それについてもシヨタに意見を求めてみることにした。
『君はアニメーションがどのように作られているか知っているか?
あるいは、パソコンやタブレットでイラストを描くとき、どうやって描くか知っているか?』
不思議な問いがシヨタから返ってきた。
「確かアニメは、背景の絵があって、その上にキャラクターの絵が描かれたセル画っていうのを重ねるんだよな」
『そうだ。今はすべてデジタル化されているが、背景があり、キャラクター毎に絵があり、それらが重ねられていることは変わらない。
キャラクター以外にも動く物体があれば、それもまた別の絵として描かれ重ねられている。
そうやって何枚もの絵を重ねて、一枚の絵に見えるように作っているが、その絵は一瞬しか使われない。
アニメーションには動きが必要だからだ。
滑らかに絵を動かすためには、1秒間辺り何枚何十枚と少しずつキャラクターや物体を動いている絵を用意して、動いているように見せている。
その作業があまりに膨大なため、口のない顔のキャラクターの絵や、口だけの絵が使われ重ねられている』
だからアニメのキャラクターは顎が動くことが少ないのか、とぼくは納得した。
だがそれが、世界を書き換えることと、一体どんな関係があるというのだろうと思った。
『パソコンでイラストを描くときも同じだ。こちらはセル画ではなくレイヤーと呼ばれるものを、一枚のイラストを完成させるために何枚何十枚と重ねている。
レイヤーの数だけ、イラストを構成する一枚一枚の絵は細分化されている。キャラクターの髪型だけのレイヤーもあれば、顔の表情だけのレイヤーもある。その表情も顔のパーツ毎にレイヤーが用意されたりする。
裸でのっぺらぼうでスキンヘッドのキャラクターに、表情のレイヤーや髪型のレイヤーを重ね、下着だけ、服だけのレイヤーを重ねて装飾する。
そんな風にひとりのキャラクターの絵が完成し、背景や効果と重ねることでイラストは完成する。背景も細分化されていることがある。
細分化されていればいるほど、キャラクターは違う髪型や表情、服のレイヤーに変更することで、全く違うイラストを作ることもできる』
シヨタは、
『私はこの世界もまた、そんな風にセル画やレイヤーを重ねたものだと思っている』
と言った。
『服を重ね着することをレイヤードと呼ぶが、世界もまたそれと同じレイヤードの構造になっているのではないか』
と。
「それは、世界を書き換えたければ、すでに完成していた『前の世界のイラスト』から、軌道エレベーターが描かれたレイヤーだけを抜いて、そこに別のもの、比良坂ヨモツの研究施設や、永久機関による発電所が描かれたレイヤーを代わりに挿し込むだけで、『今の世界』になるっていう解釈でいいのか?」
『そうだ。おそらく、そうやって世界は書き換えられ、書き換えられた『今の世界』のイラストに合わせた歴史が、自動的に極力矛盾のないような形で用意されるんだろう』
「オルフィレウスの匣ってやつの力を使えば、そんなことができるのか」
それは、世界の書き換え方についての、シヨタの独自の考えであり、憶測でしかないものであったが、
「なんでもありだな」
と、ぼくは呟いて、途方にくれた。
ユワの双子の弟が、前の世界には存在していたにも関わらず、今の世界にはいないということは、その弟のレイヤーもまた、軌道エレベーターと同様に世界を書き換えた何者かによって、イラストから抜かれてしまったということだ。
次に世界を書き換える者が、ロリコやぼくやシヨタのレイヤーを、世界のイラストから抜いてしまえば、次の世界にはぼくたちの存在自体がなくなってしまう。
レデクスやエクスマキナを使い、弟のナユタをこの世界に復活させようとしているであろうユワもまた、その存在を消されてしまう可能性は十分にあった。
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