ぼくの人生には、ログインボーナスはもういらない。

雨野 美哉(あめの みかな)

文字の大きさ
上 下
55 / 104

第55話「2022/10/12 ⑬」

しおりを挟む
 ぼくがもうひとつ気になっていたのは、世界を書き換えるとはどういうことなのか、ということだった。

 それについてもシヨタに意見を求めてみることにした。

『君はアニメーションがどのように作られているか知っているか?
 あるいは、パソコンやタブレットでイラストを描くとき、どうやって描くか知っているか?』

 不思議な問いがシヨタから返ってきた。

「確かアニメは、背景の絵があって、その上にキャラクターの絵が描かれたセル画っていうのを重ねるんだよな」

『そうだ。今はすべてデジタル化されているが、背景があり、キャラクター毎に絵があり、それらが重ねられていることは変わらない。
 キャラクター以外にも動く物体があれば、それもまた別の絵として描かれ重ねられている。
 そうやって何枚もの絵を重ねて、一枚の絵に見えるように作っているが、その絵は一瞬しか使われない。
 アニメーションには動きが必要だからだ。
 滑らかに絵を動かすためには、1秒間辺り何枚何十枚と少しずつキャラクターや物体を動いている絵を用意して、動いているように見せている。
 その作業があまりに膨大なため、口のない顔のキャラクターの絵や、口だけの絵が使われ重ねられている』

 だからアニメのキャラクターは顎が動くことが少ないのか、とぼくは納得した。

 だがそれが、世界を書き換えることと、一体どんな関係があるというのだろうと思った。

『パソコンでイラストを描くときも同じだ。こちらはセル画ではなくレイヤーと呼ばれるものを、一枚のイラストを完成させるために何枚何十枚と重ねている。
 レイヤーの数だけ、イラストを構成する一枚一枚の絵は細分化されている。キャラクターの髪型だけのレイヤーもあれば、顔の表情だけのレイヤーもある。その表情も顔のパーツ毎にレイヤーが用意されたりする。
 裸でのっぺらぼうでスキンヘッドのキャラクターに、表情のレイヤーや髪型のレイヤーを重ね、下着だけ、服だけのレイヤーを重ねて装飾する。
 そんな風にひとりのキャラクターの絵が完成し、背景や効果と重ねることでイラストは完成する。背景も細分化されていることがある。
 細分化されていればいるほど、キャラクターは違う髪型や表情、服のレイヤーに変更することで、全く違うイラストを作ることもできる』

 シヨタは、

『私はこの世界もまた、そんな風にセル画やレイヤーを重ねたものだと思っている』

 と言った。

『服を重ね着することをレイヤードと呼ぶが、世界もまたそれと同じレイヤードの構造になっているのではないか』

 と。

「それは、世界を書き換えたければ、すでに完成していた『前の世界のイラスト』から、軌道エレベーターが描かれたレイヤーだけを抜いて、そこに別のもの、比良坂ヨモツの研究施設や、永久機関による発電所が描かれたレイヤーを代わりに挿し込むだけで、『今の世界』になるっていう解釈でいいのか?」

『そうだ。おそらく、そうやって世界は書き換えられ、書き換えられた『今の世界』のイラストに合わせた歴史が、自動的に極力矛盾のないような形で用意されるんだろう』

「オルフィレウスの匣ってやつの力を使えば、そんなことができるのか」

 それは、世界の書き換え方についての、シヨタの独自の考えであり、憶測でしかないものであったが、

「なんでもありだな」

 と、ぼくは呟いて、途方にくれた。

 ユワの双子の弟が、前の世界には存在していたにも関わらず、今の世界にはいないということは、その弟のレイヤーもまた、軌道エレベーターと同様に世界を書き換えた何者かによって、イラストから抜かれてしまったということだ。

 次に世界を書き換える者が、ロリコやぼくやシヨタのレイヤーを、世界のイラストから抜いてしまえば、次の世界にはぼくたちの存在自体がなくなってしまう。

 レデクスやエクスマキナを使い、弟のナユタをこの世界に復活させようとしているであろうユワもまた、その存在を消されてしまう可能性は十分にあった。

 世界を書き換える力なんていうもの自体のレイヤーを、この世界のイラストから抜いてしまわなければ、この戦いは永遠に終わらないのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

The Last Night

泉 沙羅
ホラー
モントリオールの夜に生きる孤独な少女と、美しい吸血鬼の物語。 15歳の少女・サマンサは、家庭にも学校にも居場所を持てず、ただひとり孤独を抱えて生きていた。 そんな彼女が出会ったのは、金髪碧眼の美少年・ネル。 彼はどこか時代錯誤な振る舞いをしながらも、サマンサに優しく接し、二人は次第に心を通わせていく。 交換日記を交わしながら、ネルはサマンサの苦しみを知り、サマンサはネルの秘密に気づいていく。 しかし、ネルには決して覆せない宿命があった。 吸血鬼は、恋をすると、その者の血でしか生きられなくなる――。 この恋は、救いか、それとも破滅か。 美しくも切ない、吸血鬼と少女のラブストーリー。 ※以前"Let Me In"として公開した作品を大幅リニューアルしたものです。 ※「吸血鬼は恋をするとその者の血液でしか生きられなくなる」という設定はX(旧Twitter)アカウント、「創作のネタ提供(雑学多め)さん@sousakubott」からお借りしました。 ※AI(chatgpt)アシストあり

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

転生率

宮田 歩
ホラー
あの世にも行ったら来世は何に生まれ変わるのか?ルールが最近変わったらしい。 その驚愕の詳細とは——。

僕にとってのハッピーエンド

文野志暢
ホラー
僕は気がつくと知らない小学校にいた。 手にはおもちゃのナイフ。 ナイフを振っていると楽しくなる。

処理中です...