ぼくの人生には、ログインボーナスはもういらない。

あめの みかな

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第51話「2022/10/12 ⑨」

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 比良坂ヨモツの研究機関は、前の世界では軌道エレベーターが存在していた場所にあるという。

 そのすぐそばには、永久機関による発電所もあり、トツカ県だけでなく近隣の三県の電力まで、発電所ひとつでまかなっているそうだった。

『本当に、世界は変わってしまったんだな……世界が変われば人も変わるか……』

 シヨタは、ぼくの透過型ディスプレイの中で、リムジンの車窓を流れていく景色を眺めながら、寂しそうにそう言った。

「君がすべて元に戻したらいい」

 ぼくは彼にだけ聞こえる声で言った。

 彼を見ていて、ぼくはもうひとりここにいるはずの人物がいないことに気づいた。

「そういえば、雨野の執事ちゃんは?」

 ユワの執事ちゃんの姿が透過型ディスプレイのどこにも見当たらなかったのだ。

 この日のユワの目的は、ナユタという彼女の執事ちゃんに、ロリコや今朝までのシヨタと同じ、ヒラサカグループが開発したエクスマキナという機械の身体を与えることだった。

 ぼくやロリコやシヨタが、世界を書き換えた張本人かもしれない比良坂ヨモツに会うのは、あくまでそのついででしかなかったから、執事ちゃんはユワのレデクスの中にいるはずだったが、

「あー、あの子とは今ちょっと揉めててね」

 岩戸に閉じ籠られちゃった、とユワは言った。

 岩戸とは、天岩戸(あめのいわと)のことだろう。
 太陽神である天照大御神が隠れ、世界が暗闇に包まれたという、日本神話の伝説の場所だ。
 つくづく「アメノ」がつくものが好きな一族だった。

「何で揉めたんだ? うちに来たときは仲が良さそうに見えたけど」

「ロリコちゃんの身体を、ナユタといろいろ確かめたときにさ、何て言ったらいいのかな、おま……」

「女性器のことだな。局部とか、他に色々言い方があるから、気をつけてくれ」

「うん、そのおま……をね」

 あ、こいつ、わざとやってるわ。

「ボクはヨモッちに、ボクのやつの写真をいろんな角度から何枚も撮って送って、ナユタの身体にもおんなじのをつけてくれるよう頼んだんだけど」

「雨野さんは、お馬鹿さんなのかな?」

 ユワとヨモツがどの程度の間柄なのか、ぼくは知らなかったが、恋人でもない相手に、いや、たとえ恋人だったとしても、その写真を受け取ったのがぼくだったら、きっとドン引きしていただろう。
 あの場所は、そういう行為の真っ最中ならともかく、写真や映像で見る場合はモザイクがかかってるくらいがちょうどいいのだ。
 それは女の子のものだけでなく、男のものも同じだと思う。

『葦原イズモ、いや、我が主よ、レデクスの所有者とそのメイドや執事は、君や私を除いたら、あとは馬鹿しかいないのか?』

「それ、コヨミも馬鹿ってことになってるぞ」

『コヨミ様も結構なお馬鹿様だった……
 実験と称して、透過型ディスプレイを使って、私を辱しめるような様々なことを……』

 結構なお馬鹿様……
「様」を随分おもしろい場所につけるものだ。
 こいつはこいつで大変だったんだなぁ(棒読み)。

「でさ、まぁ、とりあえず、ボクのやつは採用されたわけなんだけど、ボクとしてはナユタにはおち……」

「男性器な?」

 てか、ヨモッさんもよく採用したな。
 ヨモッさんもレデクスの所有者だっていうし、お馬鹿さんなの、もうほぼ確定してるわ。

「それそれ、ボクはナユタにそれもつけてほしかったわけ。両性具有? とか、ふたなり? ってやつ?
 そしたら、あの子、おちん……男性器はいらないって言うわけ」

「執事ちゃんは女の子なんだから、それが普通なんじゃないのか?」

「そうなんだけどさ~、ボクとしては、理想の恋人がボク自身なわけだからさ、ナユタにおちんち……男性器がついてないと困るじゃん?」

 困るじゃん? て言われても、困っているのは、そんなしょうもない話を真剣に語る相手が目の前に存在し、聞かざるを得ない状況にされているぼくたちだった。
 あと、だんだん、全部言いそうになってるぞ。まじで気をつけてくれ。

「わかる~~!!」

 ぼくのかわいい彼女だけは何故か理解を示していた。
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