ぼくの人生には、ログインボーナスはもういらない。

あめの みかな

文字の大きさ
上 下
51 / 104

第51話「2022/10/12 ⑨」

しおりを挟む
 比良坂ヨモツの研究機関は、前の世界では軌道エレベーターが存在していた場所にあるという。

 そのすぐそばには、永久機関による発電所もあり、トツカ県だけでなく近隣の三県の電力まで、発電所ひとつでまかなっているそうだった。

『本当に、世界は変わってしまったんだな……世界が変われば人も変わるか……』

 シヨタは、ぼくの透過型ディスプレイの中で、リムジンの車窓を流れていく景色を眺めながら、寂しそうにそう言った。

「君がすべて元に戻したらいい」

 ぼくは彼にだけ聞こえる声で言った。

 彼を見ていて、ぼくはもうひとりここにいるはずの人物がいないことに気づいた。

「そういえば、雨野の執事ちゃんは?」

 ユワの執事ちゃんの姿が透過型ディスプレイのどこにも見当たらなかったのだ。

 この日のユワの目的は、ナユタという彼女の執事ちゃんに、ロリコや今朝までのシヨタと同じ、ヒラサカグループが開発したエクスマキナという機械の身体を与えることだった。

 ぼくやロリコやシヨタが、世界を書き換えた張本人かもしれない比良坂ヨモツに会うのは、あくまでそのついででしかなかったから、執事ちゃんはユワのレデクスの中にいるはずだったが、

「あー、あの子とは今ちょっと揉めててね」

 岩戸に閉じ籠られちゃった、とユワは言った。

 岩戸とは、天岩戸(あめのいわと)のことだろう。
 太陽神である天照大御神が隠れ、世界が暗闇に包まれたという、日本神話の伝説の場所だ。
 つくづく「アメノ」がつくものが好きな一族だった。

「何で揉めたんだ? うちに来たときは仲が良さそうに見えたけど」

「ロリコちゃんの身体を、ナユタといろいろ確かめたときにさ、何て言ったらいいのかな、おま……」

「女性器のことだな。局部とか、他に色々言い方があるから、気をつけてくれ」

「うん、そのおま……をね」

 あ、こいつ、わざとやってるわ。

「ボクはヨモッちに、ボクのやつの写真をいろんな角度から何枚も撮って送って、ナユタの身体にもおんなじのをつけてくれるよう頼んだんだけど」

「雨野さんは、お馬鹿さんなのかな?」

 ユワとヨモツがどの程度の間柄なのか、ぼくは知らなかったが、恋人でもない相手に、いや、たとえ恋人だったとしても、その写真を受け取ったのがぼくだったら、きっとドン引きしていただろう。
 あの場所は、そういう行為の真っ最中ならともかく、写真や映像で見る場合はモザイクがかかってるくらいがちょうどいいのだ。
 それは女の子のものだけでなく、男のものも同じだと思う。

『葦原イズモ、いや、我が主よ、レデクスの所有者とそのメイドや執事は、君や私を除いたら、あとは馬鹿しかいないのか?』

「それ、コヨミも馬鹿ってことになってるぞ」

『コヨミ様も結構なお馬鹿様だった……
 実験と称して、透過型ディスプレイを使って、私を辱しめるような様々なことを……』

 結構なお馬鹿様……
「様」を随分おもしろい場所につけるものだ。
 こいつはこいつで大変だったんだなぁ(棒読み)。

「でさ、まぁ、とりあえず、ボクのやつは採用されたわけなんだけど、ボクとしてはナユタにはおち……」

「男性器な?」

 てか、ヨモッさんもよく採用したな。
 ヨモッさんもレデクスの所有者だっていうし、お馬鹿さんなの、もうほぼ確定してるわ。

「それそれ、ボクはナユタにそれもつけてほしかったわけ。両性具有? とか、ふたなり? ってやつ?
 そしたら、あの子、おちん……男性器はいらないって言うわけ」

「執事ちゃんは女の子なんだから、それが普通なんじゃないのか?」

「そうなんだけどさ~、ボクとしては、理想の恋人がボク自身なわけだからさ、ナユタにおちんち……男性器がついてないと困るじゃん?」

 困るじゃん? て言われても、困っているのは、そんなしょうもない話を真剣に語る相手が目の前に存在し、聞かざるを得ない状況にされているぼくたちだった。
 あと、だんだん、全部言いそうになってるぞ。まじで気をつけてくれ。

「わかる~~!!」

 ぼくのかわいい彼女だけは何故か理解を示していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

【完結済】ダークサイドストーリー〜4つの物語〜

野花マリオ
ホラー
この4つの物語は4つの連なる視点があるホラーストーリーです。 内容は不条理モノですがオムニバス形式でありどの物語から読んでも大丈夫です。この物語が読むと読者が取り憑かれて繰り返し読んでいる恐怖を導かれるように……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

【完結】『霧原村』~少女達の遊戯が幽の地に潜む怪異を招く~

潮ノ海月
ホラー
五月の中旬、昼休中に清水莉子と幸村葵が『こっくりさん』で遊び始めた。俺、月森和也、野風雄二、転校生の神代渉の三人が雑談していると、女子達のキャーという悲鳴が。その翌日から莉子は休み続け、学校中に『こっくりさん』の呪いや祟りの噂が広まる。そのことで和也、斉藤凪紗、雄二、葵、渉の五人が莉子の家を訪れると、彼女の母親は憔悴し、私室いた莉子は憑依された姿になっていた。莉子の家から葵を送り届け、暗い路地を歩く渉は不気味な怪異に遭遇する。それから恐怖の怪奇現象が頻発し、ついに女子達が犠牲に。そして怪異に翻弄されながらも、和也と渉の二人は一つの仮説を立て、思ってもみない結末へ導かれていく。【2025/3/11 完結】

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...