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第48話「2022/10/12 ⑥」

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 ぼくはしっかりと出かける支度ができていたのだが、ロリコは8時半が過ぎても裸エプロンのままだった。

「もうすぐ迎えが来るけど、ロリコは行かないの? 今日はお留守番?」

 彼女はユワやナユタのことを女狐だの泥棒猫だの言っていたし、世界を書き換えたのは比良坂ヨモツではないかとぼくたちが疑っていたから、気乗りしないのかもしれなかった。

「何言ってるんです? ロリコも行くに決まってるじゃないですか。
 あのイタいボクっ娘女狐が、いつご主人様に色目を使うかわからないんですよ?」

 そんなことは天地がひっくり返るか、世界が書き換えられない限り起こりそうになかったが、だったら何故、裸エプロンのままなのだろう。

「あの……ロリコさん? もしかして、その裸エプロンと、あのマイクロビキニみたいな、クッソエロいメイド服しか持ってなかったりとかする?」

「またまたー、そんなことあるわけないじゃないですかー」

 ロリコはクローゼットから、

「ちゃんとこれがありますから!」

 と、今となってはなんだか懐かしくもあるセーラースク水とニーハイとランドセルを出してきた。

「違うよ! そういうんじゃないから!!」

 早速着替え始めようとしたので、ぼくは慌てて彼女を止めた。
 まったくいつそんなものを購入したのだろう。
 この子にはちゃんと普段着や外出用の服を用意してあげないといけない。
 デート用の服を用意してもらっていたくせに、ぼくはそんなことを思った。

 ロリコは何故か呆れたように、まるでぼくがわがままを言っているとでも言いたげにため息をつくと、

「も~、仕方ないなぁ~」

 世界が書き換えられる前の土曜に、コヨミが着ていたセーラーパーカーやスカートの色違いを丸々一式出してきた。
 コヨミは夏っぽい白いセーラーパーカーだったが、ロリコのそれは冬らしさを感じさせる紺色だった。
 コヨミへの対抗心から購入したのだろうか。それとも普通に彼女が着ているのを見て気に入ったのだろうか。

 ようやくまともなものが出てきたと安心していると、ロリコはぼくの目の前で生着替えをはじめた。
 羞恥心というものを一度しっかり教えないといけなさそうだ。

 着替え終わると、

「ジャジャーン!」

 と、叫び、

「いや、全部見えてたからね?」

 ぼくのツッコミを無視して、「ハッハッハーッ」と笑った。

「これがあの人に足りなかったニーハイとランドセルを追加した、フルアーマー・ロリコだー!!」

 どうやら対抗心から買っていたようだった。

「ランドセルはいらないって言ったよね!?」

 もしかして、ぼくがいちいちツッコミを入れるから、彼女を増長させているのだろうか。


「ちなみに、今日のログインボーナスは、女の子はどんなのがもらえたの?」

 ふと気になり訊ねると、ロリコは、ぼくの透過型ディスプレイに画像を表示させた。

「何これ! めちゃくちゃかわいいじゃん!」

 Aラインパーカーというらしい、前面がAの字のように開いた赤いパーカーに、 たくさんフリルのついた白いキャミソールワンピースという、まるで赤ずきんちゃんのようなかわいすぎる一式だった。
 肩に斜めにかけた白い小さなバッグは、小さすぎてスマホと財布くらいしか入らなそうだったが、利便性よりもかわいいかどうかが大事なのだろう。
 歩きにくそうだが、かわいらしいブーツもついていて、ロリコにとても似合いそうだった。

「これは……ロリコのために誰かがデザインしたお洋服でしょうか……」

 すげーや、この子。世界が自分を中心に回ってると思ってるわ。
 比良坂家や雨野家に対抗できるレベルだった。

「雨野ももらってるだろうし、もしいらないようならもらえるように頼んでみようか?」

 ぼくがそう言うと、「あの女狐か……」と呪詛の言葉のように吐き捨てて、

「ぜひ、お願いしてください!! ロリコの一生のお願いです!!」

 ぼくのかわいい彼女は、ぼくの足元にスライディング土下座をしてきた。

「体で……体で払いますから!」

 ほんとまじでこの子、何言ってんの?
 服だよ? しかも、ぼくが女の子ならただでもらえてた服だよ?

「盛り上がっているところ、大変恐縮なんだが……」

 本当に恐縮そうに、ぼくたちにすっかりその存在を忘れられていたシヨタが割って入ってきた。

「あ、ごめん……シヨタくんがいること、忘れてたよ……」

「出し忘れてた粗大ゴミかと思ってました……」

「あ、うん、たぶん、そうだろうな、と思ってたから、別に構わないんだが……粗大ゴミはやめろ。私は君たちの提案に乗ろうと思う」

 シヨタは覚悟を決めたようにそう言った。

「ロリコたちの提案って何でしたっけ?」

 こいつ、まじか。まじで言ってんのか。


「葦原イズモ、私を君の執事にしてくれ」


 シヨタは、壊れた身体でぼくに頭を垂れた。
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