ぼくの人生には、ログインボーナスはもういらない。

雨野 美哉(あめの みかな)

文字の大きさ
上 下
47 / 104

第47話「2022/10/12 ⑤」

しおりを挟む
「世界をもう一度書き換えることができれば、コヨミを、前の世界でぼくと再会する前のコヨミに戻すことができるだろうし、ぼくと再会させないこともできると思う。
 君が好きだったコヨミのままでいさせることができると思う」

「でも、それじゃあ、君たちは……」

「もちろん、ぼくたちのことは、今の理想的な関係が維持できるようにうまくやってもらうけどね」

 レデクスとエクスマキナさえあれば、ぼくたちはもう大丈夫な気がした。
 ロリコに身体さえあれば、レデクスすら必要ない気すらした。

「それから、明日の朝、じゃなくて、もう今日か。ぼくたちは数時間後には、比良坂ヨモツに会うことになってる。
 彼に会えば、その身体を直してもらうこともできるかもしれないけど、どうする?」

「君たちがヨモツ様と? 一体どうやってアポを取ったんだ?」

 シヨタがそんな風に驚くくらいなのだから、やはりコヨミが言っていた通り、比良坂一族の者たちはぼくたちとは住む世界が違うのだろう。
 彼らは天上人のような存在か、あるいは比良坂家にあらずんば人にあらず、といったところなのだろう。

 ぼくは、世界が書き換えられたことでクラスメイトが全員見知らぬ者たちに変わってしまったこと、その中に雨野元首相の孫娘がおり、前の世界には存在しなかった4台目のレデクスの所有者になっていたことをシヨタに話した。
 4台目のレデクスについては、彼も知らなかった。

「雨野が今日、ナユタっていう執事ちゃんのためにエクスマキナをもらう約束になってる。ぼくはそれに付き添いでついていくことになってるんだ」

「なるほどな。雨野元首相の孫娘が相手じゃ、さすがのヨモツ様も相手をせざるを得ないか」

 どうやら本当に比良坂家と雨野家はズブズブの関係のようだった。

 ぼくのレデクスに入り世界を書き換えるチャンスを待つか。
 あるいは、身体を修理してもらい、ぼくたちや比良坂家とは無縁の生活を送るか。

「ちなみに、頭だけ我が家のインテリアになるのはナシね」

 ぼくは、彼に選んでもらうことにした。

 シヨタは、いきなり襲いかかってすまなかった、朝まで考えさせてくれ、と言い、ぼくたちは朝までもう少しだけ眠ることにした。


 水曜のログインボーナスは、流行の洋服やアクセサリーだった。

 ユワから午前8時頃、「9時くらいに車で迎えに行く」と連絡があり、支度をして待っていると、ログインボーナスの方が先に届いた。

 コートとパーカー、その下に着る長袖Tシャツ、パンツ、ブーツにベルトという、総額4万円近い冬用のメンズのコーディネート一式で、「女の子10人中、10人が認めたマネキン買い」という謳い文句が書かれていた。

 オリーブ色のパーカーと白い長袖Tシャツ以外はすべて黒で、シンプルで大人っぽいコーディネートだった。
 サイズは服だけでなく足の大きさまでぼくにぴったりの物が送られてきており、嬉しさよりもログインサービスを管理する会社の不気味さが勝つ代物だった。

 ロリコが用意してくれていた、いざというときのデート服では少し肌寒かったので、コートだけ使わせてもらうことにした。コートはチェスターコートというものらしかった。

「ちなみに今日もいつもより豪華?」

 ぼくがロリコに訊ねると、

「昨日のA5ランクの松阪牛と同じで、前の世界より4倍くらい値段が跳ね上がってますね」

 と、彼女は言った。
 ログインボーナスを毎日もらえる権利を持つエクスの所有者=トツカ県民が、前の世界の1/4くらいに減ってしまったということなのだろう。

「これってヒラサカグループが全部お金を出してるんだよな?」

「たぶん、そうだと思います」

 この街にいる限り、働かなくても金曜のログインボーナスの県内通貨で毎週10万円が手に入り、月収にすると40万円にもなる。
 その他の曜日も豪華なものが毎日手に入り、衣食住に困ることはない。

「君たちはヒラサカグループに生かされているんだよ」

 シヨタが皮肉をぼくに言い、その通りだなとぼくは思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

怨念がおんねん〜祓い屋アベの記録〜

君影 ルナ
ホラー
・事例 壱 『自分』は真冬に似合わない服装で、見知らぬ集落に向かって歩いているらしい。 何故『自分』はあの集落に向かっている? 何故『自分』のことが分からない? 何故…… ・事例 弍 ?? ────────── ・ホラー編と解決編とに分かれております。 ・純粋にホラーを楽しみたい方は漢数字の話だけを、解決編も楽しみたい方は数字を気にせず読んでいただけたらと思います。 ・フィクションです。

ママが呼んでいる

杏樹まじゅ
ホラー
鐘が鳴る。夜が来る。──ママが彼らを呼んでいる。 京都の大学に通う九条マコト(くじょうまこと)と恋人の新田ヒナ(あらたひな)は或る日、所属するオカルトサークルの仲間と、島根にあるという小さな寒村、真理弥村(まりやむら)に向かう。隠れキリシタンの末裔が暮らすというその村には百年前まで、教会に人身御供を捧げていたという伝承があるのだった。その時、教会の鐘が大きな音を立てて鳴り響く。そして二人は目撃する。彼らを待ち受ける、村の「夜」の姿を──。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

レイト先輩のフォークロア・フィールドワーク〜陵人魚の淵

narahara
ホラー
フォークロア•フィールドワーク〜民俗学の調査。 平凡な高校3年生、武内明は、民俗学の研究員八尾黎人と出会い、そのフィールドワークに参加することになる。 鱗を持つ稀人を祀る祭りを巡るうちに、山奥の鄙びた村へ行き着く。 外の社会と最低限の関わりしか持たぬ村。 消えた人間。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...