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第44話「2022/10/12 ②」
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「ロリコのきれいな顔が、ぼくの血で汚れるのは避けたいんだ。
それに室内で日本刀を振り回すのは、あまりおすすめできないからね」
室内は、天井が低かったり柱があったりするため、日本刀のような長い刀身を持つ武器の扱いは難しいと聞いたことがあった。
池田屋事件のときなど、あの新選組の人達ですら苦労したそうだった。
「刀として扱うなら、確かに室内は不向きだろう。だが、フェンシングだと思えば室内でも充分だ」
だったらわざわざ刀を持って来るなと言ってやりたかったが、シヨタがぼくに向かって突きを繰り出す方が早かった。
小柄な身体で素早く華麗に三段突きを放つその姿は、まるで沖田総司のようだった。
おそらくシヨタは、SF映画のアンドロイドやサイボーグのように、剣術をはじめとする様々な武術を、その人工頭脳にインストールしてきているのだろう。
そうでなければ、刀なんてそう簡単に扱える代物ではなかったし、三段突きのような達人級の技を出せるわけがなかった。
だが、その突きはすべて、ロリコの腕に弾かれた。
彼女はぼくの身に危険が迫っていることを察知し、目を覚ましたのだ。
「だから室内はやめた方がいいって言ったろ?」
ぼくは全く何もしておらず、ロリコに守ってもらっただけだったが、勝ち誇ったようにシヨタに言った。
ロリコがスリープモードから目覚めてくれるかどうかは正直賭けだったが、
『今のロリコには身体がありますし、いざというときはロリコがご主人様を守れます』
と、彼女からは言われていた。
その、いざというときとは、ぼくがコヨミに迫られたときという意味だろうか、とそのときぼくは思ったが、コヨミがぼくに迫ることなんて、今更あるはずがなかった。
ロリコの言っていた、いざというときとは、ぼくの身に危険が迫ったときという意味だった。
「ご主人様、お怪我はありませんか?」
「おかげさまで無傷だよ。せっかくのスリープモードを邪魔しちゃってごめんな」
「ご主人様が起きていらっしゃるのに、ロリコだけ眠ってるなんてもったいないことはできませんから」
ロリコはどこまでも頼りになるメイドで、最高の彼女だった。
彼女はシヨタの三度目の突きを弾いた際、その刀身をへし折っていた。
壁に突き刺さっていたその刀身を素早く引き抜くと、その手に握り、シヨタに向けて構えた。
「シヨタさんには、この身体での戦い方をお教えしなければいけませんね」
「私が君に教わることなど何もない!」
ロリコは、シヨタがそう叫んだときには、彼の間合いの中にすでに移動していた。
彼が刀を持つ右手に繋がる肩の球体状の関節に、ロリコはその手に握った刀身を突き刺すと、反対の手でその二の腕を引っ張り、肩から勢いよく引きちぎった。
「あなたの身体はすべて、ロリコのスペアパーツにさせてもらいます」
勢いよくその場でくるりと回転すると、引きちぎった腕をシヨタの左肩の関節に叩きつけた。
関節は完全に破壊され、左腕はちぎれこそしなかったがぶらんぶらんと力なく揺れていた。
「これでもう、両腕は使えませんね」
引きちぎった腕から折れた刀を奪い、ロリコはその両手に折れた刀の柄と刀身を手にすると、シヨタの全身の関節に次々と攻撃を叩き込んでいった。
関節をすべて破壊されたシヨタは、その場に膝から崩れ落ち、信じられないという顔をしていた。
「同じエクスマキナのはずだろ……なんでこんなに戦闘力が違うんだ……」
その言葉の通り、それはあまりに一方的な戦いだった。
「あなたがお仕えしているのは、前の世界で亡くなられたお嬢様であって、今のこの書き換えられた世界に生きるお嬢様ではないからじゃないですか?」
「そうかもしれないな……私には前の世界で仕えたお嬢様の復讐のことしか頭にない……
この世界で守るべき主がいない……そうか……だからぼくは君に負けたのか……」
「スペアパーツになるものは疑似心臓まですべて頂きます。
頭部だけは破壊しないでおいてあげます。ご主人様と同じ顔をしているシヨタさんを、破壊したくはありませんから。
そろそろ、比良坂のお嬢様に助けを呼んだ方がいいんじゃないですか?
レデクスに戻れなくなりますよ」
「助けを呼んだとして、あのお嬢様がここに来ると思うか?」
シヨタは、今の世界のコヨミに何も期待していなかった。
仕えるべき主という認識がなかった。
それに室内で日本刀を振り回すのは、あまりおすすめできないからね」
室内は、天井が低かったり柱があったりするため、日本刀のような長い刀身を持つ武器の扱いは難しいと聞いたことがあった。
池田屋事件のときなど、あの新選組の人達ですら苦労したそうだった。
「刀として扱うなら、確かに室内は不向きだろう。だが、フェンシングだと思えば室内でも充分だ」
だったらわざわざ刀を持って来るなと言ってやりたかったが、シヨタがぼくに向かって突きを繰り出す方が早かった。
小柄な身体で素早く華麗に三段突きを放つその姿は、まるで沖田総司のようだった。
おそらくシヨタは、SF映画のアンドロイドやサイボーグのように、剣術をはじめとする様々な武術を、その人工頭脳にインストールしてきているのだろう。
そうでなければ、刀なんてそう簡単に扱える代物ではなかったし、三段突きのような達人級の技を出せるわけがなかった。
だが、その突きはすべて、ロリコの腕に弾かれた。
彼女はぼくの身に危険が迫っていることを察知し、目を覚ましたのだ。
「だから室内はやめた方がいいって言ったろ?」
ぼくは全く何もしておらず、ロリコに守ってもらっただけだったが、勝ち誇ったようにシヨタに言った。
ロリコがスリープモードから目覚めてくれるかどうかは正直賭けだったが、
『今のロリコには身体がありますし、いざというときはロリコがご主人様を守れます』
と、彼女からは言われていた。
その、いざというときとは、ぼくがコヨミに迫られたときという意味だろうか、とそのときぼくは思ったが、コヨミがぼくに迫ることなんて、今更あるはずがなかった。
ロリコの言っていた、いざというときとは、ぼくの身に危険が迫ったときという意味だった。
「ご主人様、お怪我はありませんか?」
「おかげさまで無傷だよ。せっかくのスリープモードを邪魔しちゃってごめんな」
「ご主人様が起きていらっしゃるのに、ロリコだけ眠ってるなんてもったいないことはできませんから」
ロリコはどこまでも頼りになるメイドで、最高の彼女だった。
彼女はシヨタの三度目の突きを弾いた際、その刀身をへし折っていた。
壁に突き刺さっていたその刀身を素早く引き抜くと、その手に握り、シヨタに向けて構えた。
「シヨタさんには、この身体での戦い方をお教えしなければいけませんね」
「私が君に教わることなど何もない!」
ロリコは、シヨタがそう叫んだときには、彼の間合いの中にすでに移動していた。
彼が刀を持つ右手に繋がる肩の球体状の関節に、ロリコはその手に握った刀身を突き刺すと、反対の手でその二の腕を引っ張り、肩から勢いよく引きちぎった。
「あなたの身体はすべて、ロリコのスペアパーツにさせてもらいます」
勢いよくその場でくるりと回転すると、引きちぎった腕をシヨタの左肩の関節に叩きつけた。
関節は完全に破壊され、左腕はちぎれこそしなかったがぶらんぶらんと力なく揺れていた。
「これでもう、両腕は使えませんね」
引きちぎった腕から折れた刀を奪い、ロリコはその両手に折れた刀の柄と刀身を手にすると、シヨタの全身の関節に次々と攻撃を叩き込んでいった。
関節をすべて破壊されたシヨタは、その場に膝から崩れ落ち、信じられないという顔をしていた。
「同じエクスマキナのはずだろ……なんでこんなに戦闘力が違うんだ……」
その言葉の通り、それはあまりに一方的な戦いだった。
「あなたがお仕えしているのは、前の世界で亡くなられたお嬢様であって、今のこの書き換えられた世界に生きるお嬢様ではないからじゃないですか?」
「そうかもしれないな……私には前の世界で仕えたお嬢様の復讐のことしか頭にない……
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「スペアパーツになるものは疑似心臓まですべて頂きます。
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そろそろ、比良坂のお嬢様に助けを呼んだ方がいいんじゃないですか?
レデクスに戻れなくなりますよ」
「助けを呼んだとして、あのお嬢様がここに来ると思うか?」
シヨタは、今の世界のコヨミに何も期待していなかった。
仕えるべき主という認識がなかった。
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