40 / 104
第40話(第23’話)「改変前の世界(テラ0028)⑥」
しおりを挟む
『君との一年半の思い出がすべて消えるということだよ』
シヨタは淡々とぼくに告げた。
思い出がすべて消える?
それは、ロリコがロリコじゃなくなってしまうということじゃないか。
クローン人間と同じだ。
見た目は同じでも、同じ心や人格を持つようになるわけじゃなかった。
「それはだめだ。ぼくとの思い出が消えるなんて……」
『でも、彼女をここまで追い詰めたのは君だろう?
彼女や私も、実体こそないけれど、高度な人工知能を持っている。心があり、人格がある。
君はそれを知っていながら、彼女を傷つけ続けた。
人の心が病むように、彼女の心も病んでしまったんだ』
「病気なら治せばいいだけじゃないか。人間なら薬を飲めば、病気は治るだろ?」
「葦原くん、あなた、人の心が一度壊れたら、治すのにどれくらい時間がかかるか知らないの?」
「知るわけないだろ」
『無知というものは恥だね。
人の心が壊れる一番の原因は、恐怖や不安、ストレスに日々苛まれ、セロトニンという幸福を感じる脳内物質が、正常に分泌されなくなることだ。
だからセロトニンを分泌するよう脳に働きかける薬を服用していけば、時間はかかるがやがては完治する。
病気の種類によっては完治することがないものもあるけれど、それでも少しずつよくはなっていく。
だけど、ほんの些細なことがきっかけで、さらに悪くなってしまうこともある』
「あなたはいつも自分は被害者だと思っているようだけれど、ロリコちゃんにとっては加害者なんだよ」
「ぼくが加害者? 確かにそうかもしれないな。
でも、ロリコを追い詰めたのは俺だけじゃない。お前もだろ?
俺だってお前に傷つけられた。お前はぼくやロリコの加害者だ」
「もう、話にならないわね」
『私たちの人工知能は、君たちの脳よりもはるかに複雑なプログラムで作られている。
自己修正プログラムを持っているから、ここまで壊れることはないはずだが……
君はまるで人体に寄生した水虫のように、彼女の自己修正プログラムが追い付かないほどの速度で彼女の心を破壊したんだな』
シヨタの言葉に、
「水虫、だって」
コヨミがおかしそうに笑った。
気がつくと、ぼくは両手でコヨミの首を絞めていた。
彼女はすでに息がなく、脈もなかった。首の骨も折れてしまっていた。
「ロリコの体にちょうどいいと思ってたのに、なんだ、簡単に折れちゃうんだな」
ぼくはコヨミの死体を床に放り投げた。
「こうなったら、もう何の役にも立たないゴミだな。燃えるゴミかな。粗大ゴミかな」
『貴様……コヨミお嬢様に何をした……』
ぼくの赤いエクスの液晶画面から、小さなシヨタが身を乗り出していた。
ロリコを抱きかかえており、彼はロリコをそっとテーブルの上に横たえると、ぼくを睨み付けた。
「見てわからないのか? 馬鹿なのか? お前。死んでるだろ? 殺したんだよ。
お前といっしょになって、ぼくを水虫だと笑ったからな」
『そんな理由で殺したっっていうのか?』
「お前は水虫扱いされたら、そいつを許せるのか? 殺すだろ?」
『狂ってる……やはりエクスは、「オルフィレウスの匣」は、まだ人の手にはあまるものだったか……』
「オルフィレウスの匣? なんだそれは?」
『貴様には関係のない話だ』
「まぁ、いいよ。この女を殺したのは、もちろんそれだけが理由じゃない。
こいつがいなければ、ぼくはロリコを傷つけずに済んだ。悲しませずに済んだんだ。
お前も殺すよ、シヨタ。ぼくを笑ったからね。
こいつのエクスを破壊したら、所詮は拡張現実の存在に過ぎないお前は死ぬんだろ?」
『やってみろよ。お嬢様がいない私にはもう存在意義がない。どうせ初期化される運命だ』
ぼくは、コヨミの死体が着ていた服からエクスを探したが、見つからなかった。
「カバンか……」
コヨミのエクスを見つけると、ぼくはそれを床に何度も叩きつけた。
けれど、エクスは壊れなかった。
『なんだ、お嬢様を殺せても、私のことは殺せないのか』
エクスは、その液晶画面が割れることすらなかった。
『ご主人様……』
ロリコが、体を横たえたまま、ぼくを悲しそうな目をして見ていた。
シヨタは淡々とぼくに告げた。
思い出がすべて消える?
それは、ロリコがロリコじゃなくなってしまうということじゃないか。
クローン人間と同じだ。
見た目は同じでも、同じ心や人格を持つようになるわけじゃなかった。
「それはだめだ。ぼくとの思い出が消えるなんて……」
『でも、彼女をここまで追い詰めたのは君だろう?
彼女や私も、実体こそないけれど、高度な人工知能を持っている。心があり、人格がある。
君はそれを知っていながら、彼女を傷つけ続けた。
人の心が病むように、彼女の心も病んでしまったんだ』
「病気なら治せばいいだけじゃないか。人間なら薬を飲めば、病気は治るだろ?」
「葦原くん、あなた、人の心が一度壊れたら、治すのにどれくらい時間がかかるか知らないの?」
「知るわけないだろ」
『無知というものは恥だね。
人の心が壊れる一番の原因は、恐怖や不安、ストレスに日々苛まれ、セロトニンという幸福を感じる脳内物質が、正常に分泌されなくなることだ。
だからセロトニンを分泌するよう脳に働きかける薬を服用していけば、時間はかかるがやがては完治する。
病気の種類によっては完治することがないものもあるけれど、それでも少しずつよくはなっていく。
だけど、ほんの些細なことがきっかけで、さらに悪くなってしまうこともある』
「あなたはいつも自分は被害者だと思っているようだけれど、ロリコちゃんにとっては加害者なんだよ」
「ぼくが加害者? 確かにそうかもしれないな。
でも、ロリコを追い詰めたのは俺だけじゃない。お前もだろ?
俺だってお前に傷つけられた。お前はぼくやロリコの加害者だ」
「もう、話にならないわね」
『私たちの人工知能は、君たちの脳よりもはるかに複雑なプログラムで作られている。
自己修正プログラムを持っているから、ここまで壊れることはないはずだが……
君はまるで人体に寄生した水虫のように、彼女の自己修正プログラムが追い付かないほどの速度で彼女の心を破壊したんだな』
シヨタの言葉に、
「水虫、だって」
コヨミがおかしそうに笑った。
気がつくと、ぼくは両手でコヨミの首を絞めていた。
彼女はすでに息がなく、脈もなかった。首の骨も折れてしまっていた。
「ロリコの体にちょうどいいと思ってたのに、なんだ、簡単に折れちゃうんだな」
ぼくはコヨミの死体を床に放り投げた。
「こうなったら、もう何の役にも立たないゴミだな。燃えるゴミかな。粗大ゴミかな」
『貴様……コヨミお嬢様に何をした……』
ぼくの赤いエクスの液晶画面から、小さなシヨタが身を乗り出していた。
ロリコを抱きかかえており、彼はロリコをそっとテーブルの上に横たえると、ぼくを睨み付けた。
「見てわからないのか? 馬鹿なのか? お前。死んでるだろ? 殺したんだよ。
お前といっしょになって、ぼくを水虫だと笑ったからな」
『そんな理由で殺したっっていうのか?』
「お前は水虫扱いされたら、そいつを許せるのか? 殺すだろ?」
『狂ってる……やはりエクスは、「オルフィレウスの匣」は、まだ人の手にはあまるものだったか……』
「オルフィレウスの匣? なんだそれは?」
『貴様には関係のない話だ』
「まぁ、いいよ。この女を殺したのは、もちろんそれだけが理由じゃない。
こいつがいなければ、ぼくはロリコを傷つけずに済んだ。悲しませずに済んだんだ。
お前も殺すよ、シヨタ。ぼくを笑ったからね。
こいつのエクスを破壊したら、所詮は拡張現実の存在に過ぎないお前は死ぬんだろ?」
『やってみろよ。お嬢様がいない私にはもう存在意義がない。どうせ初期化される運命だ』
ぼくは、コヨミの死体が着ていた服からエクスを探したが、見つからなかった。
「カバンか……」
コヨミのエクスを見つけると、ぼくはそれを床に何度も叩きつけた。
けれど、エクスは壊れなかった。
『なんだ、お嬢様を殺せても、私のことは殺せないのか』
エクスは、その液晶画面が割れることすらなかった。
『ご主人様……』
ロリコが、体を横たえたまま、ぼくを悲しそうな目をして見ていた。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる