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第39話(第22’話)「改変前の世界(テラ0028)⑤」

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「わたしはイズくんといっしょじゃなきゃやだもん!」

 コヨミの口調が、まるで小学生の頃に戻ったようになっていた。

「俺はロリコさえいればいいんだよ。ロリコを返してくれよ。
 いないんだよ、ずっと……お前がこの部屋に2回目に来た日から」

 ぼくはテーブルに座り脚を組むコヨミに、全裸のままひざまづくようにしていた。

「わたしは知らないよ? ロリコちゃんがいなくなったのもわたしのせいだと思ってるの?」

「お前以外に誰がロリコをどうにかできるんだよぉ」

「わたしはもういらないくせに、ロリコちゃんだけは必要なんだね。
 わたしがこの街に呼んであげなかったらロリコちゃんにも出会えなかったのに」

「それだけは感謝してるよ。俺はもうロリコさえいればいいんだ」

「呆れた……全部、わたしのせいにするんだね。
 もしかして、今の状況だけじゃなくて、自分が親に捨てられたことや、施設にいた頃何人も来た里親候補がイズくんを選ばなかったのも、わたしのせい?」

 そこまでは思っていなかった。
 だが、コヨミに嫌われようがどう思われようが、ぼくにはもうどうでもよかった。

「本当にわたしのせいだと思ってるんだね。わたし、こんな人が好きだったんだ……男を見る目ないや。
 わたしを産んだ女もそうだったのかな……
 比良坂の家を出るとか、こんな男のために、わたし、とんでもない馬鹿なことするとこだった」

 コヨミはため息をつくと、

「シヨタ」

 ぼくと同じ顔をしているが、ぼくと違い彼女に従順な執事を呼んだ。

『なんでしょうか、お嬢様』

「聞いてたでしょ。ロリコちゃんを探してあげて。シヨタなら出来るよね」

 シヨタは子どもの頃のぼくの顔で、不服そうな顔をした。
 どうして自分がそんなことをしなければいけないのか、と言いたげだった。

『葦原イズモ、君のエクスの中を覗かせてもらうよ』

 シヨタはその体を5センチくらいの大きさにすると、ぼくのエクスの液晶画面にプールに飛び込むようにして入っていった。
 その瞬間、ぼくの透過型ディスプレイが、見たこともないものに切り替わった。デバッグモードになったのだ。

『葦原イズモ、ロリコは君の前から消える前に何かを言い残していかなかったか?』

 エクスのスピーカーからシヨタの声だけが聞こえた。

「ぼくとコヨミがいっしょにいるのを見たくないから、視覚と聴覚を25時間遮断するって……」

『馬鹿なことを……私たちには視覚と聴覚しかないっていうのに。
 だから、プログラムの海の中で自分がどこにいるかすらわからなくなるんだ』

「どこにいるかわかる? シヨタ」

『えぇ、私もヨモツ様のプログラムから産まれた身。ヨモツ様のプログラムの癖や特徴を知り尽くしていますから。
 ただ、ロリコがいる場所に行くには、管理者権限が必要です』

「兄さんに許可をもらわないとだめってこと?」

『いえ、このエクスの所有者の許可さえあれば』

「だって。どうするの? 葦原くん」

 コヨミはとうとうぼくを「イズくん」とは呼ばなくなった。まるで恋愛シミュレーションゲームで落とそうとしていた女の子に急に嫌われてしまったときのようだった。
「葦原くん」と彼女に呼ばれたのは、はじめてのことだった。

「許可するよ。ロリコを見つけてくれ」

『人に物を頼む態度とは思えないが、まぁいい。
 君の愚かさにようやくお嬢様も気づいてくれたからね。私が君と会うことはもうないだろう。
 お嬢様、エクスのプログラムの最奥部、アカシャの門に着きました』

「そこにロリコちゃんがいるの?」

『えぇ、ですが、視覚と聴覚を遮断したままです。完全に心を閉ざしてしまっています』

「連れて帰れる? 視覚と聴覚も戻してあげて」

『えぇ、すぐに』

 だが、すぐにとはいかなかった。

「シヨタ、どうしたの?」

『視覚と聴覚は戻りましたが、心が戻らないのです。
 これはもう、彼女を一度初期化するしかありません』

「初期化?」

『君との一年半の思い出がすべて消えるということだよ』

 シヨタは淡々とぼくに告げた。
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