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第38話(第21’話)「改変前の世界(テラ0028)④」
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コヨミの謝罪に、そんなことか、とぼくは思った。
本当にどうでもいいな、と思った。
「イズくんのことが本当に好きなの」
「ロリコが帰って来ないんだ」
ぼくはもう、コヨミの言葉に耳を貸すつもりはなかった。
「ロリコちゃんが?」
「ロリコが帰ってきてくれたら、ぼくはこの街を出ようと思う」
この街に来て、良かったことはたくさんあると思っていた。
親を知らず、頼れる親戚もおらず、児童養護施設で育ち、勉強も運動も芸術も何の取り柄もなかったぼくが、特待生として私立高校に通えることができた。
コヨミに再会することができた。毎日駅から高校まで一緒に登校し、1年のときも2年になってもクラスがいっしょで、下校するときも毎日駅まで一緒だった。
エクスが支給され、ログインボーナスによって毎週10万円以上の県内通貨が手に入り、何不自由ない生活を送ることができた。
赤い特別なエクスを支給されたおかげで、この一年半、ぼくのそばにはロリコがずっといてくれた。
だけど、ぼくにとって、本当に良かったと思えるのは、ロリコに出会えたことだけだった。
「この街を出ても、街っていうか県か、県内通貨は使えなくなるだけで、エクスは使えるんだろ?
県外に旅行に行った人たち、普通にエクス使ってるもんな。
住民票さえ移さなかったら、ぼくがどこに住んでいようが、エクスは没収されたりしないよな」
住み込みで働かせてもらえるような場所を見つけるしかなかった。
「街を出るって、高校やめちゃうの?
大学だって行けるし、大学院だって行こうと思ったら行けるんだよ?
就職先だって、会社がイズくんを選ぶんじゃなくて、イズくんが会社を選べるんだよ?」
「それ、全部お前が俺をこの街に縛り付けたいからだろ?」
ぼくは、このときはじめてコヨミを「お前」と呼び、ぼくのことを「俺」と言った。
「全部、お前の親とか、ヒラサカグループの力で、俺、何にもしてないよな。
今だって勉強についていくだけで必死なのに、どうやって大学とか大学院の勉強についていくんだよ」
ヒラサカ高校は非常にレベルの高い高校だった。
ついていくだけで必死というより、必死になってもついていけてなかった。
「そんなの、どうにでもなるよ。一生懸命勉強したら、イズくんも……」
「ならねーよぉ。お前とかお前の兄貴とは、俺は頭の出来が違うんだよ。
この街は、軌道エレベーターとか、超拡張現実とか、わけのわかんねーもん作ってる会社ばっかりじゃねーかよ。
全然仕事もできないくせに、会社が何やってんのかさえもわかんないくせに、コネだけで就職して金だけもらって、あいつは給料泥棒だって陰で馬鹿にされてくんだろ? 俺は。
そんな人生に一体何の意味があるんだよ」
「わたしがいるじゃない! 大学なんて行かなくていい。就職もしなくていいよ?
お金だったらいくらでもどうにかなるから。だからわたしのそばにいてよ」
「もう、いたくないんだよ……」
「そんなにわたしが嫌い?」
「滅茶苦茶好きだったのに。お前がおかしなこと言うから! お前が変わっちゃったから!!」
「わかった。もういい」
コヨミは、ぼくの体から離れると脱衣場から出ていった。
部屋の床に脱ぎ捨てていた下着や服を拾って着ると、テーブルにドンッと座った。
「わたしもいっしょについてく。比良坂の家を出る」
もっと早くそうすればよかった、とコヨミは言った。
お金持ちの家の養女になって、いつかぼくと一緒になり、二人で幸せに暮らしたかっただけだった、と。
「まさか、政略結婚させるために子どもが欲しかっただけだなんて思わなかったんだもん」
「そんなの、今さら無理だろ。
お前は金持ちになって幸せなんだから、結婚相手なんて誰だって……」
「わたしはイズくんといっしょじゃなきゃやだもん!」
コヨミの口調が、まるで小学生の頃に戻ったようになっていた。
本当にどうでもいいな、と思った。
「イズくんのことが本当に好きなの」
「ロリコが帰って来ないんだ」
ぼくはもう、コヨミの言葉に耳を貸すつもりはなかった。
「ロリコちゃんが?」
「ロリコが帰ってきてくれたら、ぼくはこの街を出ようと思う」
この街に来て、良かったことはたくさんあると思っていた。
親を知らず、頼れる親戚もおらず、児童養護施設で育ち、勉強も運動も芸術も何の取り柄もなかったぼくが、特待生として私立高校に通えることができた。
コヨミに再会することができた。毎日駅から高校まで一緒に登校し、1年のときも2年になってもクラスがいっしょで、下校するときも毎日駅まで一緒だった。
エクスが支給され、ログインボーナスによって毎週10万円以上の県内通貨が手に入り、何不自由ない生活を送ることができた。
赤い特別なエクスを支給されたおかげで、この一年半、ぼくのそばにはロリコがずっといてくれた。
だけど、ぼくにとって、本当に良かったと思えるのは、ロリコに出会えたことだけだった。
「この街を出ても、街っていうか県か、県内通貨は使えなくなるだけで、エクスは使えるんだろ?
県外に旅行に行った人たち、普通にエクス使ってるもんな。
住民票さえ移さなかったら、ぼくがどこに住んでいようが、エクスは没収されたりしないよな」
住み込みで働かせてもらえるような場所を見つけるしかなかった。
「街を出るって、高校やめちゃうの?
大学だって行けるし、大学院だって行こうと思ったら行けるんだよ?
就職先だって、会社がイズくんを選ぶんじゃなくて、イズくんが会社を選べるんだよ?」
「それ、全部お前が俺をこの街に縛り付けたいからだろ?」
ぼくは、このときはじめてコヨミを「お前」と呼び、ぼくのことを「俺」と言った。
「全部、お前の親とか、ヒラサカグループの力で、俺、何にもしてないよな。
今だって勉強についていくだけで必死なのに、どうやって大学とか大学院の勉強についていくんだよ」
ヒラサカ高校は非常にレベルの高い高校だった。
ついていくだけで必死というより、必死になってもついていけてなかった。
「そんなの、どうにでもなるよ。一生懸命勉強したら、イズくんも……」
「ならねーよぉ。お前とかお前の兄貴とは、俺は頭の出来が違うんだよ。
この街は、軌道エレベーターとか、超拡張現実とか、わけのわかんねーもん作ってる会社ばっかりじゃねーかよ。
全然仕事もできないくせに、会社が何やってんのかさえもわかんないくせに、コネだけで就職して金だけもらって、あいつは給料泥棒だって陰で馬鹿にされてくんだろ? 俺は。
そんな人生に一体何の意味があるんだよ」
「わたしがいるじゃない! 大学なんて行かなくていい。就職もしなくていいよ?
お金だったらいくらでもどうにかなるから。だからわたしのそばにいてよ」
「もう、いたくないんだよ……」
「そんなにわたしが嫌い?」
「滅茶苦茶好きだったのに。お前がおかしなこと言うから! お前が変わっちゃったから!!」
「わかった。もういい」
コヨミは、ぼくの体から離れると脱衣場から出ていった。
部屋の床に脱ぎ捨てていた下着や服を拾って着ると、テーブルにドンッと座った。
「わたしもいっしょについてく。比良坂の家を出る」
もっと早くそうすればよかった、とコヨミは言った。
お金持ちの家の養女になって、いつかぼくと一緒になり、二人で幸せに暮らしたかっただけだった、と。
「まさか、政略結婚させるために子どもが欲しかっただけだなんて思わなかったんだもん」
「そんなの、今さら無理だろ。
お前は金持ちになって幸せなんだから、結婚相手なんて誰だって……」
「わたしはイズくんといっしょじゃなきゃやだもん!」
コヨミの口調が、まるで小学生の頃に戻ったようになっていた。
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