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第25話「2022/10/11 ②」
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蓬田と三中と名乗ったふたり組から逃げるようにぼくは坂を下り、校門を抜け校舎に入ると、廊下を走り階段を駆け上がって教室へ向かった。
教室にはコヨミがいるはずだった。彼女の顔を見れば安心できると思った。
たった1日で別れた(別れていないかもしれないが)相手の顔を見たら安心するだなんて、我ながら情けない話だった。
遅刻してもいいから、A5ランクの松阪牛を受け取った後でロリコにはあの身体からエクスの中に戻ってもらい、彼女といっしょに登校するべきだった。
教室に入った瞬間、クラスメイトらしき全員が一斉にぼくを見た。
クラスメイトたちの顔は、何故か作り物めいて見え、どの顔も不気味だった。
すぐに顔をぼくから戻すと、そばにいた者たちとロリコやコヨミやぼくの噂話を始めた。
坂道で声をかけてきた蓬田や三中というふたりと同じで、見覚えがある者はひとりもいなかった。その顔や名前をぼくは誰ひとり知らなかった。
頼みの綱のコヨミは教室のどこにもいなかった。
彼女の席には誰も座っておらず、登校したら必ず机の横にかけていたトートバッグがかかっていなかった。
ペットのハムスターのアルジャーノンの写真がプリントされたトートバッグだ。
まだ学校に来ていないか、あるいは今日は休むつもりなのかもしれない。
頭のいい彼女のことだ。彼女にまで飛び火したロリコの炎上後、はじめて迎える登校日の教室やクラスメイトたちがこんな様子になっていることを予測していたに違いなかった。
クラスメイトが全員見知らぬ者になっていることまでは想像していないだろうが、しばらく学校を休むつもりかもしれなかった。
窓際の自分の席に座ると、ぼくは文字通り両手で頭を抱えた。
ひどく混乱していた。錯乱していたと言っても過言ではなかったかもしれない。
頭の中で無数の知恵の輪が複雑に絡み合っているようだった。
ロリコに助けを求めたかったが、彼女に携帯電話を持たせることをすっかり忘れていた。あの身体はヒラサカグループが彼女専用に用意したものであったから、エクスを内蔵していてもおかしくはなかったが、肝心の連絡先をぼくは知らなかった。
今からでも学生寮に帰った方が良いのかもしれない。きっとその方がいい。
ロリコのところに帰れば、きっとぼくは安心できる。
彼女はきっとぼくを優しく抱きしめてくれるだろう。優しく頭を撫でてくれ、胸に顔をうずめさせてくれるだろう。
教室に着いてからまだ数分しか経っていなかったが、ぼくは早退することを決めた。
朝のショートホームルームさえ始まっていなかったし、見知らぬ者ばかりのクラスメイトたちが恐ろしく、誰にも早退することを伝えられなかったから、早退扱いにはならないかもしれない。
欠席になっても別に良かった。
席を立とうとしたぼくに、
「今日は、いつも一緒にいるあの子、一緒じゃないんだ?」
隣の席に座っていた女の子が訊ねてきた。
知らない女の子だったが、何故かその顔を見ると安心した。
くすみがかった茶髪のショートヘアで、中性的な綺麗な顔立ちをしているが、気だるそうな表情を浮かべた女の子だった。
気だるそうでありながら、儚げでミステリアスで、神秘的な雰囲気をまとっていた。
制服を着ていたが、首元にリボンはつけておらず、ブレザーの下のシャツボタンを3つほど外しており、見せブラなのか下着が見え隠れしていた。
他のクラスメイトたちと違い、覚えていないだけで、ぼくは彼女に会ったことがあるのかもしれなかった。
「観察者が観察対象から離れるなんて聞いたことないんだけど。
だから、世界が作り替えられたことに対応できなくて、そんなに慌ててるのかな?」
世界が作り替えられた? 一体いつ? どうして?
観察者や観察対象というワードも、ぼくにはわからないことばかりだった。
ロリコがぼくを観察しているとでも言うのだろうか。
そもそもなぜ、そんなことを彼女は知っているのだろう?
教室にはコヨミがいるはずだった。彼女の顔を見れば安心できると思った。
たった1日で別れた(別れていないかもしれないが)相手の顔を見たら安心するだなんて、我ながら情けない話だった。
遅刻してもいいから、A5ランクの松阪牛を受け取った後でロリコにはあの身体からエクスの中に戻ってもらい、彼女といっしょに登校するべきだった。
教室に入った瞬間、クラスメイトらしき全員が一斉にぼくを見た。
クラスメイトたちの顔は、何故か作り物めいて見え、どの顔も不気味だった。
すぐに顔をぼくから戻すと、そばにいた者たちとロリコやコヨミやぼくの噂話を始めた。
坂道で声をかけてきた蓬田や三中というふたりと同じで、見覚えがある者はひとりもいなかった。その顔や名前をぼくは誰ひとり知らなかった。
頼みの綱のコヨミは教室のどこにもいなかった。
彼女の席には誰も座っておらず、登校したら必ず机の横にかけていたトートバッグがかかっていなかった。
ペットのハムスターのアルジャーノンの写真がプリントされたトートバッグだ。
まだ学校に来ていないか、あるいは今日は休むつもりなのかもしれない。
頭のいい彼女のことだ。彼女にまで飛び火したロリコの炎上後、はじめて迎える登校日の教室やクラスメイトたちがこんな様子になっていることを予測していたに違いなかった。
クラスメイトが全員見知らぬ者になっていることまでは想像していないだろうが、しばらく学校を休むつもりかもしれなかった。
窓際の自分の席に座ると、ぼくは文字通り両手で頭を抱えた。
ひどく混乱していた。錯乱していたと言っても過言ではなかったかもしれない。
頭の中で無数の知恵の輪が複雑に絡み合っているようだった。
ロリコに助けを求めたかったが、彼女に携帯電話を持たせることをすっかり忘れていた。あの身体はヒラサカグループが彼女専用に用意したものであったから、エクスを内蔵していてもおかしくはなかったが、肝心の連絡先をぼくは知らなかった。
今からでも学生寮に帰った方が良いのかもしれない。きっとその方がいい。
ロリコのところに帰れば、きっとぼくは安心できる。
彼女はきっとぼくを優しく抱きしめてくれるだろう。優しく頭を撫でてくれ、胸に顔をうずめさせてくれるだろう。
教室に着いてからまだ数分しか経っていなかったが、ぼくは早退することを決めた。
朝のショートホームルームさえ始まっていなかったし、見知らぬ者ばかりのクラスメイトたちが恐ろしく、誰にも早退することを伝えられなかったから、早退扱いにはならないかもしれない。
欠席になっても別に良かった。
席を立とうとしたぼくに、
「今日は、いつも一緒にいるあの子、一緒じゃないんだ?」
隣の席に座っていた女の子が訊ねてきた。
知らない女の子だったが、何故かその顔を見ると安心した。
くすみがかった茶髪のショートヘアで、中性的な綺麗な顔立ちをしているが、気だるそうな表情を浮かべた女の子だった。
気だるそうでありながら、儚げでミステリアスで、神秘的な雰囲気をまとっていた。
制服を着ていたが、首元にリボンはつけておらず、ブレザーの下のシャツボタンを3つほど外しており、見せブラなのか下着が見え隠れしていた。
他のクラスメイトたちと違い、覚えていないだけで、ぼくは彼女に会ったことがあるのかもしれなかった。
「観察者が観察対象から離れるなんて聞いたことないんだけど。
だから、世界が作り替えられたことに対応できなくて、そんなに慌ててるのかな?」
世界が作り替えられた? 一体いつ? どうして?
観察者や観察対象というワードも、ぼくにはわからないことばかりだった。
ロリコがぼくを観察しているとでも言うのだろうか。
そもそもなぜ、そんなことを彼女は知っているのだろう?
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