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第23話「2022/10/10, 10/11」
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祝日はスポーツの日だった。ずっと体育の日だと思っていたが、いつの間にか名前が変わっていたらしい。
「そういえば、ご主人様は何か得意なスポーツはありますか?」
ベッドで手を繋いで寝転びながら、ロリコに訊かれたが、全く思い浮かばなくて、ぼくは苦笑するしかなかった。
ぼくはあまり運動神経が良い方ではなく、特に球技が苦手だった。だからスポーツは、自分がプレイするのも試合を観戦するのも全く興味がなかった。
「ロリコが何か始めることがあったら、ぼくも一緒に始めようかな」
「じゃあ、何がしたいか考えておきます。ダンスでもいいですか?」
考えておきますからの提案が早すぎて笑ってしまった。
「ダンスはたぶん無理だと思う」
と言うと、
「えー、じゃあ、何だったらいいんですかー?」
ロリコは頬を膨らませ、唇を尖らせた。
ぼくはその唇にキスをして、
「今はもっとロリコが気持ちよくなってくれるように上手になりたいかな」
ロリコをベッドに押し倒した。
祝日の月曜のログインボーナスの24時間が間もなく終わろうとする頃、ぼくはロリコを抱きしめていた。
「ご主人様、ロリコは教えてほしいことがあるんです」
彼女はぼくの耳元で囁いた。
「なに?」
ロリコの身体は吐息まで再現しており、ぼくの耳にかかる彼女の吐息が少しくすぐったかった。
ぼくはどうやら耳が弱いらしかった。
「比良坂コヨミさんのことは、もういいんですか?」
やっぱりそれは気になるよな、と思った。
コヨミからは、あれ以来1日半、彼女がログインボーナスを利用していれば丸3日、"RINNE"のメッセージすら来ていなかった。
最後のメッセージは別れ話をされたように感じたが、彼女は本当にそのつもりだったのかもしれない。
ロリコのSNSの炎上の飛び火で相当な被害を被っただろうから、非表示やブロックをされていてもおかしくなかった。
「"RINNE"で友だち削除されたりしなければ、それ以外はどうでもいいかな」
たった1日だけとはいえ、一応は恋人になった相手だ。
ちゃんと別れてから、ロリコと付き合い始めるべきだったが、最後のメッセージがあまりに一方的だったからか、ぼくからメッセージを送る気にはならなかった。
あんなに好きだったのが気の迷いだったと感じるほど、ぼくのコヨミに対する想いは不思議と冷めてしまっていた。
友だち削除されたら高校を退学しなければいけなくなってしまう。
それがエクスの超拡張現実機能の恐ろしさだった。
ぼくもロリコもこの部屋はもちろん学生寮にいられなくなってしまう。
だから、それだけは勘弁してほしかった。
県内通貨の貯蓄はあるから、マンションの部屋を借りてログインボーナスだけで生活していくことも可能だったが、コヨミのコネでせっかく特待生として入学できた高校だ。
高校くらいは卒業しておきたかった。
「ぼくにはロリコがいてくれる。だから、もう他には何にもいらないよ」
それが、ぼくの嘘偽りのない本音だった。
火曜日のログインボーナスは、近隣の県の名産品だった。
ぼくは特に興味はなかったからいつも県内通貨に換金していたのだけれど、
「食べたい? A5ランクの松阪牛」
「食べたいです!!」
ロリコの目がぼくとの幸せな(幸せだよね?)時間を過ごしているときより輝いていたから、ぼくは松阪牛に嫉妬しながらも、受け取りを選択した。
「午前中に届くみたいだから、受け取」
「はい! しっかり受け取ります!! 行ってらっしゃいませ、ご主人様」
とてもいい返事だった。
学生寮の最寄り駅であるオハバリ駅で、市営環状トリフネ線のリニアモーターカーを待っていると、ホームに滑り込んできた車両に、こんな色だったっけ? と、ぼくは違和感を覚えた。
ぼくの記憶ではトリフネ線のリニアは赤を基調にしていたはずだったが、やって来たのは黄色を基調にしたリニアだった。
違和感を感じながらも車両に乗り込むと、ぼくは車窓から見える景色にさらに違和感を覚えた。
毎日飽きるほどに見ていた、市の中心にそびえ立っているはずのものが、建造途中の軌道エレベーターが、どこにもなかったからだった。
「そういえば、ご主人様は何か得意なスポーツはありますか?」
ベッドで手を繋いで寝転びながら、ロリコに訊かれたが、全く思い浮かばなくて、ぼくは苦笑するしかなかった。
ぼくはあまり運動神経が良い方ではなく、特に球技が苦手だった。だからスポーツは、自分がプレイするのも試合を観戦するのも全く興味がなかった。
「ロリコが何か始めることがあったら、ぼくも一緒に始めようかな」
「じゃあ、何がしたいか考えておきます。ダンスでもいいですか?」
考えておきますからの提案が早すぎて笑ってしまった。
「ダンスはたぶん無理だと思う」
と言うと、
「えー、じゃあ、何だったらいいんですかー?」
ロリコは頬を膨らませ、唇を尖らせた。
ぼくはその唇にキスをして、
「今はもっとロリコが気持ちよくなってくれるように上手になりたいかな」
ロリコをベッドに押し倒した。
祝日の月曜のログインボーナスの24時間が間もなく終わろうとする頃、ぼくはロリコを抱きしめていた。
「ご主人様、ロリコは教えてほしいことがあるんです」
彼女はぼくの耳元で囁いた。
「なに?」
ロリコの身体は吐息まで再現しており、ぼくの耳にかかる彼女の吐息が少しくすぐったかった。
ぼくはどうやら耳が弱いらしかった。
「比良坂コヨミさんのことは、もういいんですか?」
やっぱりそれは気になるよな、と思った。
コヨミからは、あれ以来1日半、彼女がログインボーナスを利用していれば丸3日、"RINNE"のメッセージすら来ていなかった。
最後のメッセージは別れ話をされたように感じたが、彼女は本当にそのつもりだったのかもしれない。
ロリコのSNSの炎上の飛び火で相当な被害を被っただろうから、非表示やブロックをされていてもおかしくなかった。
「"RINNE"で友だち削除されたりしなければ、それ以外はどうでもいいかな」
たった1日だけとはいえ、一応は恋人になった相手だ。
ちゃんと別れてから、ロリコと付き合い始めるべきだったが、最後のメッセージがあまりに一方的だったからか、ぼくからメッセージを送る気にはならなかった。
あんなに好きだったのが気の迷いだったと感じるほど、ぼくのコヨミに対する想いは不思議と冷めてしまっていた。
友だち削除されたら高校を退学しなければいけなくなってしまう。
それがエクスの超拡張現実機能の恐ろしさだった。
ぼくもロリコもこの部屋はもちろん学生寮にいられなくなってしまう。
だから、それだけは勘弁してほしかった。
県内通貨の貯蓄はあるから、マンションの部屋を借りてログインボーナスだけで生活していくことも可能だったが、コヨミのコネでせっかく特待生として入学できた高校だ。
高校くらいは卒業しておきたかった。
「ぼくにはロリコがいてくれる。だから、もう他には何にもいらないよ」
それが、ぼくの嘘偽りのない本音だった。
火曜日のログインボーナスは、近隣の県の名産品だった。
ぼくは特に興味はなかったからいつも県内通貨に換金していたのだけれど、
「食べたい? A5ランクの松阪牛」
「食べたいです!!」
ロリコの目がぼくとの幸せな(幸せだよね?)時間を過ごしているときより輝いていたから、ぼくは松阪牛に嫉妬しながらも、受け取りを選択した。
「午前中に届くみたいだから、受け取」
「はい! しっかり受け取ります!! 行ってらっしゃいませ、ご主人様」
とてもいい返事だった。
学生寮の最寄り駅であるオハバリ駅で、市営環状トリフネ線のリニアモーターカーを待っていると、ホームに滑り込んできた車両に、こんな色だったっけ? と、ぼくは違和感を覚えた。
ぼくの記憶ではトリフネ線のリニアは赤を基調にしていたはずだったが、やって来たのは黄色を基調にしたリニアだった。
違和感を感じながらも車両に乗り込むと、ぼくは車窓から見える景色にさらに違和感を覚えた。
毎日飽きるほどに見ていた、市の中心にそびえ立っているはずのものが、建造途中の軌道エレベーターが、どこにもなかったからだった。
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