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第19話「2022/10/09 ①」
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その夜、ぼくは悪夢を見た。
ロリコがいなくなってしまう夢だった。
コヨミの首を絞めて殺す夢だった。
それだけでも十分恐ろしい夢だったが、その後ぼくは五感のすべてを失ってしまうという夢だった。
五感のすべてを失っても、ぼくは死ぬこともできず、自分がどこにいるのかさえもわからないまま、思考だけははっきりとしていて、天寿を全うするまで、ただただ孤独な常闇の世界と時の中で、生き続ける夢だった。
目が覚めると、ぼくは寝間着代わりの部屋着やシーツにびっしょりと汗をかいていた。
あまりにおそろしい夢を見たせいか、胃液が逆流し、吐き気が込み上げてきたぼくはトイレに駆け込んだ。
昨晩食べたオムライスがほとんど消化されておらず、米粒やチキンが固形物のまま吐瀉物になっていた。
ぼくのそばで、ロリコはずっとあたふたしていた。
トイレから出たぼくは、エクスを手に取り時間を確認した。
その日のログインサービスの24時間も、翌日の祝日の月曜の24時間も、ぼくはコヨミとこの部屋で過ごすことになっていたが、
――ロリコちゃんがネットで炎上してるみたいだから、しばらくはお休みの日にふたりで会ったりするのはやめよっか。
同じクラスなのは、さすがにどうしようもないから、駅で待ち合わせたり、一緒に学校に行くのもしばらくやめよ。
コヨミからそんなチャットメッセージが"RINNE"に届いていた。
彼女も"roomy"というSNSをしていたのだろう。
付き合い始めたばかりだというのに、なんだか別れを切り出されているような気がしたが、ロリコの炎上にぼくが加担していた(させられた)ことや、コヨミにまで飛び火していることについて責めるようなことが書かれていないのは、救いだと思った。
呆れられてしまっただけなのかもしれなかったけれど。
前日のおうちデートの反省を生かし、コヨミをオハバリ駅に迎えに行く前に、アプリで食事を注文し配達してくれるサービスを使い、三食分の食事を用意してから彼女を迎えに行くことを考えていたのだが、必要なくなってしまった。
配達される食事は、ぼくがコヨミと過ごす加速した時の外の存在になる。
ぼくたちがそれを24時間後に食べたとしても、それ自体は1時間しか時間が流れていないことになるため、常温に冷めることはあっても、腐ったりすることを心配して冷蔵庫に入れたりする必要はない。
まだまだ使い勝手が悪いように思えた1日を47時間にすることができるログインサービスも、事前にある程度準備しておけばこんな風にうまく利用することができるのだと、ぼくは世紀の大発見をした科学者にでもなったりしていたのだけれど。
ぼくが心配しなければいけないのは、コヨミとの食事のことなどではなく、ロリコのことであったから、昨晩の炎上はちょうどいい機会かもしれなかった。
ロリコはコヨミからのメッセージを覗きこんで、
「ご主人様、ごめんなさい……ロリコのせいで……」
ロリコは本当に申し訳なさそうにしていたけれど、
「いいよ」
怒ってないよと、ぼくは微笑んだ。
反省している相手が謝罪の言葉を口にしたら、それ以上相手を咎める必要なんてないとぼくは思う。
世の中には5分で終わる話を長々と1時間も2時間も説教したり、「次はないぞ」と脅迫めいた言葉を口にする大人がいる。
ぼくが育った施設にもいたから、きっとそういう人はどこにでもいるのだろう。職場だけでなく家族にも同じことをしているのだろうか。それとも家族に相手にされないから、職場で権力を振りかざすのだろうか。
どちらにせよ、ぼくはそんな人間にはなりたくなかった。
「今日も明日も、ロリコはご主人様といっしょに過ごせるってことですか?」
そうだよ、とぼくは答えた。
「ロリコのために1日を47時間にするログインボーナスを使ってくれますか?」
もちろんだよ、と答えると、ロリコの顔が花が開くようにパアッと明るくなった。
「実はご主人様にお見せしたいものがあるんです」
「見せたいもの?」
ロリコは、ぼくにクローゼットを開くように言った。
実体を持たない彼女には、エクスを使って部屋の明かりをつけたり、カーテンを開いたり、音楽や映画をかけたりすることはできても、クローゼットを開くことはできないからだ。
言われた通りクローゼットを開けると、そこには150センチほどの球体関節人形が膝を抱えて座っていた。
ロリコがいなくなってしまう夢だった。
コヨミの首を絞めて殺す夢だった。
それだけでも十分恐ろしい夢だったが、その後ぼくは五感のすべてを失ってしまうという夢だった。
五感のすべてを失っても、ぼくは死ぬこともできず、自分がどこにいるのかさえもわからないまま、思考だけははっきりとしていて、天寿を全うするまで、ただただ孤独な常闇の世界と時の中で、生き続ける夢だった。
目が覚めると、ぼくは寝間着代わりの部屋着やシーツにびっしょりと汗をかいていた。
あまりにおそろしい夢を見たせいか、胃液が逆流し、吐き気が込み上げてきたぼくはトイレに駆け込んだ。
昨晩食べたオムライスがほとんど消化されておらず、米粒やチキンが固形物のまま吐瀉物になっていた。
ぼくのそばで、ロリコはずっとあたふたしていた。
トイレから出たぼくは、エクスを手に取り時間を確認した。
その日のログインサービスの24時間も、翌日の祝日の月曜の24時間も、ぼくはコヨミとこの部屋で過ごすことになっていたが、
――ロリコちゃんがネットで炎上してるみたいだから、しばらくはお休みの日にふたりで会ったりするのはやめよっか。
同じクラスなのは、さすがにどうしようもないから、駅で待ち合わせたり、一緒に学校に行くのもしばらくやめよ。
コヨミからそんなチャットメッセージが"RINNE"に届いていた。
彼女も"roomy"というSNSをしていたのだろう。
付き合い始めたばかりだというのに、なんだか別れを切り出されているような気がしたが、ロリコの炎上にぼくが加担していた(させられた)ことや、コヨミにまで飛び火していることについて責めるようなことが書かれていないのは、救いだと思った。
呆れられてしまっただけなのかもしれなかったけれど。
前日のおうちデートの反省を生かし、コヨミをオハバリ駅に迎えに行く前に、アプリで食事を注文し配達してくれるサービスを使い、三食分の食事を用意してから彼女を迎えに行くことを考えていたのだが、必要なくなってしまった。
配達される食事は、ぼくがコヨミと過ごす加速した時の外の存在になる。
ぼくたちがそれを24時間後に食べたとしても、それ自体は1時間しか時間が流れていないことになるため、常温に冷めることはあっても、腐ったりすることを心配して冷蔵庫に入れたりする必要はない。
まだまだ使い勝手が悪いように思えた1日を47時間にすることができるログインサービスも、事前にある程度準備しておけばこんな風にうまく利用することができるのだと、ぼくは世紀の大発見をした科学者にでもなったりしていたのだけれど。
ぼくが心配しなければいけないのは、コヨミとの食事のことなどではなく、ロリコのことであったから、昨晩の炎上はちょうどいい機会かもしれなかった。
ロリコはコヨミからのメッセージを覗きこんで、
「ご主人様、ごめんなさい……ロリコのせいで……」
ロリコは本当に申し訳なさそうにしていたけれど、
「いいよ」
怒ってないよと、ぼくは微笑んだ。
反省している相手が謝罪の言葉を口にしたら、それ以上相手を咎める必要なんてないとぼくは思う。
世の中には5分で終わる話を長々と1時間も2時間も説教したり、「次はないぞ」と脅迫めいた言葉を口にする大人がいる。
ぼくが育った施設にもいたから、きっとそういう人はどこにでもいるのだろう。職場だけでなく家族にも同じことをしているのだろうか。それとも家族に相手にされないから、職場で権力を振りかざすのだろうか。
どちらにせよ、ぼくはそんな人間にはなりたくなかった。
「今日も明日も、ロリコはご主人様といっしょに過ごせるってことですか?」
そうだよ、とぼくは答えた。
「ロリコのために1日を47時間にするログインボーナスを使ってくれますか?」
もちろんだよ、と答えると、ロリコの顔が花が開くようにパアッと明るくなった。
「実はご主人様にお見せしたいものがあるんです」
「見せたいもの?」
ロリコは、ぼくにクローゼットを開くように言った。
実体を持たない彼女には、エクスを使って部屋の明かりをつけたり、カーテンを開いたり、音楽や映画をかけたりすることはできても、クローゼットを開くことはできないからだ。
言われた通りクローゼットを開けると、そこには150センチほどの球体関節人形が膝を抱えて座っていた。
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